ハロルド編
今回はシルヴィーのお兄さん、ハロルド編です。
ハロルド編
俺は大量の書類を抱え、第一騎士団団長の執務室に居る。
「やっぱり、シルヴィーったら王宮でも走り回っているのね」
目の前にいる、漆黒の髪に琥珀の様な目を持つ美丈夫が、クスクス笑いながら水晶球を覗き込んでいる。
「エイン、口調が……」
「いいじゃない。アンタしか居ないんだから」
完全に女言葉だ。
まぁ、事情を知ってるから強くは言えない。
エイン・アンバー第一騎士団団長は前世の記憶を持っている。
しかも、驚いたことにシルヴィーの職場の先輩だ、と言っている。
「年齢が合わないんだけど」
その事を教えられた時、俺は素直にそう思った。
「あたしもそう思ったけど、細かい事は気にしない。解んないもん」
いや、気にしてくれ、と思ったが無駄だ。
「それにしても良く気が付いたな」
「あの子、約束する時必ず小指を出すのよ。この世界には無いでしょ」
指切りげんまん、とか言うものは確かにこの世界では聞いたことがない。
「あたしは前世であの子を守れなかった。だから、新しい人生では大切に思う子が出来たら守ろうって決めてたの」
そうエインは言って、優しい目をしてた。
「それがあの子だなんて、もう最高」
見た目と言動の落差に、眩暈を起こしそうになる。
「で、その書類、裏が取れたようね」
口調は変わらないが、目付きは騎士団長のものに変わる。
「シルヴィーに対しての嫌がらせが5件。後はお花畑が1件」
「嫌がらせは放って置いても問題はないだろうけど、お花畑は誰に?」
「シルヴィーに」
俺はうんざりしながら答える。
この手の話、少なく無いんだよ。
「アーネストが自分の運命の恋人でって騒いでたアホ、前にも居たわね」
「今度は逆。シルヴィーが運命の恋人で……」
「……粉砕してくる」
頼むから、理性を蒸発させるなって。
アーネストが殿下と視察で不在だから、これ幸いと噂をばら撒いているが、誰も信じてないから。
「甘いわ。あの子は前世でお花畑にストーカーされて……」
「おい、俺が知ってるって事はあいつも知ってる筈だろ」
「今やるの」
やるが、殺る、に変換されない事を祈るだけだ。
バン、とドアを開け騎士団の詰所でエインが自分の補佐官に声を掛けた。
「シン、キー、手が空いてるなら手伝え」
「アンバー団長、何かありましたか?」
走り寄ってくる赤い髪の騎士が首を傾げる。
「シルヴィーに邪な欲望を抱えた奴を駆除する」
「お供します」
途端に、2人の目が据わった。
当然、他の騎士達の目も殺気で鋭くなっている。
シルヴィー至上主義しか居ないのか?此処は。
結果、シルヴィーに横恋慕していた奴はエイン達によって精神がボロボロにされた。
何故かハロルドが苦労人になってしまった。