9 炎の道を行く
セルゲイと想いが通じ合ってからも、リーズでの学園生活は平坦に続いていく。
魔法学園は別名・貴族学園。
貴族たちにとって、婚約者はいても恋人という存在はあってははならないので、私たちが交際していることは秘密にしていた。
……と言っても、グレースとオリヴィアには知られてしまったけど。
二人とも祝福をしてくれて、グレースなんか「結婚式は絶対に呼んでね!!」なんて、気が早いことを言っていたわ。
そう、結婚……。
私たちはそのことで少しばかり意見が衝突していることがある。
それは――、
「リナ、父上に卒業したら貴族籍から外れて平民になるって手紙を送ったから」
「えぇっ!? な、なんでそんな大事なことを勝手に決めるの!?」
「だって、さすがに公爵家だと平民と結婚できないからな。リナの場合、事情が事情だし。それに手続きもあるから、実家には早く伝えておいたほうがいいだろう?」
「そういうことじゃなくて……」
「リーズの魔法騎士団は実力主義だから平民でも問題ない。リナに不自由はさせないから安心しなって! もちろん、父上にはリナがエカチェリーナ皇女殿下だって言ってないから大ごとにはならないよ」
「だからっ、違うってば! ……っていうか、私も働くし」
私たちは相談をして、二人とも卒業してもリーズ国に留まることに決めた。
私は特待生なので、授業料は国家予算から出ている。だから、その恩返しも兼ねて国の機関で働くつもりだった。アレクセイさんからも許可をもらったしね。
セルゲイは、もともと家門に頼らず自分の実力を試したい……という理由からリーズに来たので、彼も最初から卒業後もリーズで暮らす予定だったらしい。
それは志が高くて立派だとは思うけど、私とこんなことになって、彼の人生まで狂わせてしまうんじゃないかって、ちょっと……罪悪感があるのだ。
だって、セルゲイは祖国のことをとても愛しているんですもの。
それに、家族も。
ストロガノフ家な物凄く家族仲が良いことで有名だった。恋愛結婚である公爵と公爵夫人はもちろんのこと、三兄弟も仲良しだ。
そんな家族の絆を、私が断ち切ってしまって本当に良いのだろうか。彼の幸せを奪うことになるのではないのだろうか。
……そんな風に、私の胸はチクリと傷んだのだ。
「ねぇ、セルゲイ。よく考えて?」
「これは熟考に熟考を重ねてからの決断だ」
「私はあなたを不幸にさせたくない」
「リナと一緒にいられるのなら、それは世界一幸せなことだけど」
「まっ……またそんなこと言って! 真面目に考えて!」
「だから、ちゃんと将来のことは考えてるって」
「平民になったら、もう家族とは会えなくなるかもしれないのよ? 身分が違いすぎるわ」
「それも承知の上だから。俺にはリナと、いずれ生まれる予定の子供たちがいる。それが俺の家族だ」
「ばっ……!」
かっと顔が赤くなって、絶句してしまう。
子供って……な、なにを言っているのかしら?
「ねぇ、だったらリナはあたしの家門に養子に入ったらいいんじゃない? そうしたら伯爵令嬢と公爵令息で釣り合いが取れると思うわ」出し抜けにグレースが瞳を輝かせながら割って入る。「リナとあたしは双子の姉妹よ! それで行きましょう!」
「いや、全然似てねぇだろ」
「似てるわっ! あたしたちは仲良し姉妹なの~!」と、グレースは私に抱き付く。全く、今日も鬱陶しいわね。
「なにが姉妹だよ。こんな手のかかる妹はリナには要らねぇよ」
「はあぁぁぁっ!?」
「グレース、気持ちはとっても嬉しいけど、仮に私の正体が露見したら、あなたの家族の命も狙われる可能性があるわ。そんな危険な状況に、あなたを巻き込めない」
「えぇ~っ! せっかくリナと双子になれると思ったのに~!」
「似てねぇっつーの。リナのほうが普通に可愛いだろ」
「ちょっ……セルゲイ!!」
「まぁっ!?」
そんなわけで、私とセルゲイの話し合いはずっと平行線でなにも進展しなかった。
このままだと彼が本当に平民になってしまうと悩んでいたとき、アレクサンドル連邦国からセルゲイに急な来客があったのだ。
「おい、セルゲイ! 一体どういうことだっ!?」
彼の兄であるストロガノフ家の次男――イーゴリ・ミハイロヴィチ・ストロガノフ公爵令息の電撃訪問である。




