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7 入学

◇◇◇




 親愛なるフレデリック様



 本日より晴れて私もリーズ王立魔法学園の生徒になりました。

 しかも、特待生として!

 フレデリック様と同じ学び舎に身を置けることを本当に嬉しく思います。

 あなたがここでなにを学んでなにを感じたかを私も体験できるかと思うと心ときめきますわ。

 正直申し上げますと、数十年振りの特待生という重圧感はありますが、その名に恥じないように努力をしていきたいと思います。

 そして、やっとあなたのお姿を拝見できると思うと、私は――……、


 ………………

 ………………




◇◇◇





 私は無事に特待生として魔法学園に入学することが叶った。


 合格発表はセルゲイと一緒に見に行った。

 合格者一覧には成績も記載される。私は筆記試験1位、実技試験1位で見事に特待生の座を勝ち取った。

 ちなみにセルゲイは筆記試験3位、実技試験2位で、こちらも好成績だ。ストロガノフ家の者は代々皆優秀だから当然と言えば当然かしら。


 セルゲイはあの日以来、私が働いている庶民向けの定食屋さんに毎日顔を出してくれて、今ではすっかり打ち解けた。彼は公爵令息と言えども三男なので家を継ぐことができないので、いずれは独立しないといけなくなる。だから、どうせなら異国の地で自分の実力を試したいとリーズ王国への留学を決意したそうだ。


 学園では希望者は寄宿舎で生活ができる。地方の貴族で王都に屋敷を構えない者のためだ。

 私もセルゲイも当然ここに宿泊することにした。今日から入寮することになるのだが、初めての共同生活はどのようになるか楽しみだ。



 私とセルゲイは与えられた自室に荷物を置いてから教室へと向かった。

 彼とは運良く同じクラスになった。正直言うと平民の私が貴族の中に一人放り込まれるのはちょっと不安だったから安堵した。





 私たちが教室に足を踏み入れたとき、


「どきなさいよ! この平民上がりが!」


 不穏な空気が漂った。


 声のほうへ顔を向けると、窓際の席で数人の令嬢たちが一人の令嬢を取り囲んでいた。輪の中心にいる令嬢は涙目で床に座り込んでいた。


「ご……ごめんなさい……」


「あんたねぇ、男爵令嬢の分際であたしの席を取ろうとするなんてなんて図々しい。恥を知りなさい!」


「わ、わたし、知らなくて……」


「知らないぃ~? ふざけんじゃないわよ! いいこと? あたしは伯爵令嬢、あんたは平民上がりの男爵令嬢。身分が違うのだから弁えなさい!」


「は、はい……。申し訳ありま――」


「ちょっと、やめなさいよ!」


 私は目の前の理不尽な光景に我慢できずに自然と声を張り上げた。


「おい、リナ」と、セルゲイは私の腕を掴んで制止しようとしたが、振り払って彼女たちのもとへ早足で向かう。身分を笠に着て立場の弱い者をいじめるなんて、許されないことだわ。


「なによ、あんた」


 リーダー格の伯爵令嬢が私をギロリと睨み付けた。


「席は好きな場所に自由に座っていいって聞いているわ。あなたに彼女を攻める権利はない」と、私も睨み返す。


「はぁぁぁ? あんた、このあたしに意見するなんてどこの家門よ」


 私は一瞬黙ってから、


「……家門はないわ」


「家門がない?」


 プッ、と伯爵令嬢は吹き出した。後ろの令嬢たちもくすくすと嘲り笑う。


「ねぇ、グレース。この子が例の特待生じゃない?」


「平民の特待生ね。同じクラスなんて嫌ねぇ」


「平民って週に一度しかお風呂に入らないんでしょう? 汚いわぁ」


 その伯爵令嬢は周りの令嬢たちの声を一通り聞いてから見下したように私を見て、


「あんた、平民なの?」


「そうだけど」


「あら、では愚かな平民さんに伯爵令嬢であるこのあたしが教えてあげるわぁ! いいこと? 世の中には身分制度というものがあって、下の者は上の者には逆らったらいけないのよぉ? 分かる? 平民さん?」


「そうかもしれないけど、この学園では実力勝負。門をくぐると身分は関係ないって言われているわ」


「あら、そう?」伯爵令嬢は意地悪な笑みを受けべて「その実力とやらだったらあたしは筆記試験24位、実技試験19位よ。……で、そこの床に座り込んでいる男爵令嬢は何位かしらねぇ?」


 またぞろ令嬢たちの冷たい笑い声が響いた。


「わ、わたしは……」


 座り込んだ令嬢はついに涙を流した。


「それだったら、私は筆記も実技も1位よ。こういうことはやめなさい」


「はぁ~?」伯爵令嬢は仰々しく首を傾げる。「勘違いしないでくれる? 平民の時点であんたは最下位よ。貴族と同列に語る資格はないわ」


「なにを――」


「それを言うなら」


 それまで後ろで黙って成り行きを見ていたセルゲイが口を開いた。


「俺は筆記3位、実技2位、そしてストロガノフ家の者だ。こんな馬鹿な真似はもうやめろ」


「なっ……!」


 令嬢たちははっと息を呑んだ。


「ストロガノフですって? あの、ストロガノフ?」


「グレース、ストロガノフ家が出てきたら勝ち目はないわよ」


「名門で成績優秀で……それになんて美形なのかしらぁ!」


 彼女たちは今度は打って変わって色めき立った。きゃあきゃあと黄色い声を上げている。

 無理もない。大陸一巨大なアレクサンドル連邦国でも一番の名門ストロガノフ公爵家は圧倒的な影響力を持ち、小国の王家よりも力が強いのだ。


「帝国人……」と、伯爵令嬢は周りの聞こえないくらいの小さな声で呟いたあと、


「ふんっ!」


 セルゲイのことをきっと睨め付けると今度は私のほうを向いた。


「さすが平民さん。もう男を誑し込むなんて、なんて尻軽な女。怖いわぁ!」


「は?」


「俺も彼女もアレクサンドル人だ。同郷の者同士で懇意にするのは自然のことだろう」


「なによ、帝国人のくせに! 皆さん、行きましょう? これ以上平民と同じ空気を吸いたくないわぁ!」と、捨て台詞を吐いて伯爵令嬢一味は去って行った。



「リナ」セルゲイは眉間に皺を寄せて「今回は事なきを得たが、気を付けろ。君は平民なんだ、貴族からしたら君を潰すことなんて赤子の手をひねるように簡単なんだぞ」


「わ、分かってるわよ。その……助けてくれてありがとう」


「これくらいのことならお安い御用さ」と、セルゲイは微笑む。



「あの……」


 気が付くと床に座り込んでいた令嬢は立ち上がって遠慮がちに私たちを見ていた。


「あら? あなた、大丈夫だった? 怪我はない?」


「はい。わたしは大丈夫です。さっきは助けてくれてありがとうございました」


「とんでもない。無事なら良かったわ」


「災難だったな」


「あの、わたしはオリヴィア・ミルズと申します。お二人のお名前を伺っても……?」


「私はリナよ。平民だから家名はないわ。よろしくね」


「俺はセルゲイ。セルゲイ・ミハイロヴィチ・ストロガノフだ。よろしく」


「はいっ! よろしくお願いしますね!」



 こうして、リーズ王国に来て二人目の友人ができた。


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