3 炎の道を行く
◆◆◆
オリヴィアとグレースはリナの秘密を共有して以来、すっかり打ち解けて仲良くなっていた。今では二人だけで談笑する場面も多くなった。
「ねぇ、エカチェ――リナはどうするつもりなのかな?」と、グレースがポツリと呟いた。
彼女は皇女のことを心から敬愛していた。家の領地を救ってくれた恩人であり、慈善活動も盛んに行っていた皇女のことを心底尊敬して、皇女様には絶対に幸せになって欲しいと思っていた。
そのためには、皇女が愛する人と結ばれて欲しいと切に願っていた。
オリヴィアは眉尻を下げて、
「そうね……。リナにはこの先ずっと平穏に暮らしてもらいたいし、その為には現状維持が一番なのかしら……?」
「たしかに、今のアレクサンドル国の情勢を考えると皇女として戻っても不幸な未来しか見えないわ」
グレースは肩を落とした。
リナには本当は平民じゃなくて、本来の身分に返り咲いてその手腕を発揮して欲しい。そして、いずれはリーズ王国の国母になって欲しい。
……でも、連邦の今の情勢を考えると、平民として一生を終えることが最善の道なんだと思う。
「わたしは、リナはセルゲイと一緒になるのが一番幸せになれると思うわ」と、出し抜けにオリヴィアが言った。
「セルゲイねぇ……」
グレースも最近のリナとセルゲイのぎくしゃくした関係には気付いていた。
不審に思ってリナを問い詰めると、彼に愛の告白をされたのだと白状した。なんて返事をしたのかと訊いたら、リナは分からないと言ったと答えた。
この時点でリナの気持ちはセルゲイに傾いているのでは……とグレースは考えたのだった。
「たしかに王太子殿下と結婚できないとなると、ずっと側で守ってくれているセルゲイと結ばれるのが一番だわ。彼が平民になるって言っても、最低限のストロガノフ家の後ろ盾はあると思うからリナも一生安泰だと思うの」
オリヴィアは頷いて、
「それにリナも自分の気持ちに向き合わないだけで、本当はセルゲイのことが大好きなんだと思うわ」
「全く、バレバレなのよね。そのくせ本人は鈍感だから始末に負えないわよね」
「そうね」
二人はくすくすと笑った。そして、
「「よしっ、二人をくっつけましょう」」
「――で、具体的にはどうしましょうか?」
「あたしにいい考えがあるわ! 鈍感なリナにセルゲイは誰にも負けない素敵な殿方だと見せ付けるのよっ! それで、早くしないと他の女に取られちゃうって思わせるの!」
グレースは意気込んだ様子で答えた。
◆◆◆
「「ピクニック?」」
翌日、グレースとオリヴィアは週末に出掛けないかと早速二人を誘ったのだった。
「そうよ! リーズはもう少ししたらまた雨の日々になるでしょう? 天気のいい今こそ自然と触れ合うのよ!」
「王都から少し離れた場所にお父様が別荘を購入したの。良かったら来週末に皆で行きましょう?」
「へぇ、楽しそうだな。な、リナ?」
「そうね。そういえばリーズに来てから学園と勤め先ばかりだったわ。たまにはこういうのもいいかも」
「じゃあ決まりね! 楽しみにしているわ」
「セルゲイ! こっちよ!」
放課後、グレースはこっそりとセルゲイを人気のない場所へと呼び出していた。
彼はうんざりした様子でため息をつく。
「なんだよ。もうエカチェリーナ殿下のことは喋り尽くしたぞ」
「違うの! 今度のピクニックのことよ!」
「はぁ?」
グレースはニヤリと笑って、
「あんた、ピクニックでリナをモノにしなさい!」
「はぁあああっ!?」
「しっ――聞こえるわ。いいこと? ピクニックで絶対にリナを落としなさいよ! あたしたちも手伝うから」
「いや、お前に協力されると逆に不安だわ。つーか……な、なんなんだよ、突然…………」と、セルゲイはみるみる顔を赤く染める。
「いいから、いいから。あんたがリナのことを好きだなんて知ってるから」
「なっ……!?」
セルゲイは凍り付いた。オリヴィアはともかく、お馬鹿なグレースにまで気付かれているとは……最悪である。
「あんた……クラス中の人間が察しているわよ」と、グレースは呆れた顔で言った。
「う、嘘だろ……」
「本当よ! ――それで、あたしもオリヴィアもリナが幸せになるにはセルゲイが必要不可欠だという結論に達したのよ。だから、絶対に落とすのよ!」
「いや、早計だろ。俺は卒業までじっくりと時間を掛けてリナと――」
「駄目駄目! それじゃあ遅すぎるわ! 王太子殿下を諦めたリナは今は実質フリーなのよ。リナの優秀さに国内の貴族も注目しているわ。一旦どこかの下位貴族の養子にしてから息子に嫁がせようと画策している高位貴族もいるんだから! 仮にそうなったら厄介でしょう? 平民の彼女は貴族の命令には逆らえないし、それにいつ皇女様だってばれるか分からないし」
「た、たしかに……」セルゲイはたちまち青ざめた。「あんなに可愛くて優秀なリナは貴族にも引く手数多だろうな」
「だからあんたがその前にリナを捕まえておくのよ! 恋人があのストロガノフ家の令息ならリーズのどの貴族も手出しできないわ。そして卒業したら直ちに結婚しなさい!」
「けっ……」
セルゲイの顔が再び真っ赤になる。
「分かったわね? 覚悟を決めなさい!」
「お、おう…………」
こうして、グレース主導の計画は順調に進んでいくのだった。




