61 エカチェリーナの手紙
あのあと、私はフレデリック様たちと王宮へ向かって今回の事件に関する簡単な調査を受けた。
侯爵令嬢の闇魔法の疑惑はフレデリック様たちが以前から調べていたらしい。今回の件が確たる証拠となって、フレデリック様との婚約話も無事に白紙になったそうだ。
フォード侯爵家の当主自身は娘の闇魔法のことを本当に知らなかったのと、彼個人は国に対してこれまで忠義を尽くしていたので、伯爵位への降爵と王家への賠償金で手打ちとなった。
でもその金額は天文学的な数字のようで、フォード伯爵家の没落は免れないだろうと言われている。
そしてフローレンス・フォード侯爵令嬢はというと、闇魔法を隠匿していた罪、魔法で国王を暗示にかけた罪、皇女を殺害しようとした罪で貴族籍の剥奪……その後、処刑となった。
私は王宮での調査が終わったあとは国王陛下と王妃様と謁見して今後の方針について話し合った。
といっても既にフレデリック様がアレクセイさんと話をつけていて、私はただその報告を受けるだけな感じだったけど。自分の知らないところで彼がこんなにも動いてくれていたと分かって、凄く嬉しかったわ。
陛下も王妃様も私の生存をとても喜んでくださって、特に王妃様は涙を流しながら抱きしめてくれて、お母様みたいでちょっと照れくさかった。
その日は晩餐もご一緒して王宮に泊まらせてもらったんだけど、翌朝起きたらフレデリック様の私室の隣に王太子妃の部屋が用意されていて、学園の寮にあった私の荷物も全てそこに移動されていて仰天した。さすが王家、こういうことの仕事が早いわね。
それから二週間後、私はフレデリック様との婚約式を終えて、正式に王太子と皇女の婚約が発表された。
私は革命後に極秘でリーズ王国に亡命をして王家が匿っていた、ということになっていた。そのことは皇女の命の危険のために連邦政府にも知らされていなくて、身の安全が確保されたので公表と至った……って設定なんですって。
淡々と話が進んでいって思ったより呆気なくて、なんだか拍子抜けで笑っちゃうわよね。
まぁ、ここに至るまで両国間でいろいろあったみたいだけど、私たちのために多くの人たちが動いてくれたことに本当に感謝している。
そして自身の身位の影響力というものは計り知れないものだと改めて実感したので、これからはもうちょっと責任のある行動を取ろうと思った……。
二週間の欠席のあと、学園に復帰した際はそれはもうお祭みたいに大騒ぎだった。
これまで平民と蔑んでいた相手が旧帝国の皇女だったので、彼らの掌返しがおかしくてイタズラをしているみたいで楽しかったわ。
でも今度は未来の王太子妃の皇女に取り入ろうと多くの生徒が近寄ってきたけど、グレースが力強い防波堤になってくれて、今では平穏な学園生活を送っている。
お世話になった定食屋さんは辞めることになって、放課後は生徒会の仕事や王太子妃教育で大忙しだ。これからもマーサさんに教わったことを決して忘れないで、私は国民に寄り添う王太子妃になりたいと思う。
部屋の窓際で陽の光を浴びながら、フレデリック様からの手紙を読む。
彼にはいただいた手紙は燃えてなくなってしまったと謝罪をしたら、革命後に書いたと言う手紙をどっさりと渡されて、今はそちらをじっくりと読み進めているのだ。
私のほうも、革命後に彼に宛てた日記のような手紙の数々が手元に残っていたので、恥ずかしながらも全て手渡した。彼はとっても喜んでくれて、毎回読んだ手紙の感想と質問を嬉しそうに言ってきた。
それは離れていた空白を少しずつ埋めていっているようで、彼の積極性に苦笑いしながらもじんわりと温かい気持ちになった。
◆◆◆
まっさらな新雪のようなドレスを身に纏った私は、机に向かってペンを取る。
「あっ! エカチェリーナ様! 駄目ですよ、インクで衣装が汚れたらどうするんですか!?」
「そ、そうですよ! せっかくの衣装なのに、危険です!」
「大丈夫よ。少しだけだから」
「「もうっ~!」」
侍女見習いのグレースとオリヴィアに窘められるが、聞き流してペンを走らせると二人が慌てて私の膝にハンカチを広げた。そして二人は大判のハンカチの両端をそれぞれにつまんで、私の胸元に持って来る。
「いいですか! ゆっくり、そぉ~っと書いてくださいね!」
「絶対にインクを飛ばしたら駄目ですからね!」
「平気だって」
とは言うものの、両側の二人の視線が痛いので私はゆっくりと丁寧に言葉を綴った。
◇◇◇
親愛なる フレディ
あなたと巡り合ってからもう三年がたちました。
リーズに来てからの三年間は本当にあっという間で、今日が結婚式だなんて信じられません。まだ、あの地下牢の中で夢を見ているんじゃないかしら、なんて思ってしまいます。
でも、嬉しいことに現実なのですね。あなたに触れたぬくもりは今もずっと肌に感じています。そしてこれからも、あなたの側でこの温かさを感じていたいと思います。もう一生離れるつもりはないので、覚悟していてくださいね?
そして――あら、ノックの音が。どうやらあなたが迎えに来てくださったようです。ちょっと緊張してきちゃいました。私のウエディングドレス姿をあなたは気に入ってくださるでしょうか。
話が逸れてしまいた。この手紙を書き上げるまで少しだけ待っていてくださいね。
そして、これから私はリーズ王国の王太子妃としてあなたを支えていきたいと思います。もしかしたら意見がぶつかることも起こるかもしれませんが、私もあなたと同じくリーズの民を愛していて、国の発展のために尽力したい気持ちは同じです。ともに手を取り合って、リーズをもっと素敵な国にしていきましょう。
愛しています。
あなたの リーナ
◇◇◇




