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元皇女なのはヒミツです!  作者: あまぞらりゅう
本編

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50 面会

◆◆◆





「ごっ……ご無沙汰しております、王太子殿下」


 アレクセイは頭を垂れる。脂ぎった汗が額から流れた。

 悠然たる態度を崩さない王太子だが、彼の深奥から放たれる王族独自の高貴な威圧感にアレクセイは気圧されて動けなかった。


「頭を上げよ」


「はっ」


 アレクセイが顔を上げると、フレデリックはニコリと笑ってみせて、


「此度はわざわざ時間を作ってもらって済まないな。感謝する」


「とんでもないことでございます。私としても、殿下に拝謁できて光栄の極みでございます」


「そうか。連邦を訪問した際は世話になったな。実に有意義な旅であった」


「お、恐れ入ります……」


 フレデリックはエカチェリーナを捜索のため非公式でアレクサンドル連邦国に訪れたときに、極秘に新政府の閣僚とも面会をしていた。その中にはもちろん副大統領も含まれていた。


「この目で皇女の生まれた地を実見できて感激したよ」


「それは宜しゅうございました」


 またぞろ嫌な汗が流れる。

 フレデリックが連邦国に足を踏み入れた時と入れ違いにエカチェリーナは国外へ出て行った。もう少し遅れていたら二人は鉢合わせしていたかもしれないし、最悪のタイミングで王太子が皇女暗殺計画に巻き込まれたかもしれない。仮にそうなっていたら、新興国である連邦はすぐさま解体されてしまっていた可能性もある。


「固くなっているな。まぁ、茶でも飲みたまえ」


「はっ、はい……!」


 アレクセイは給仕された紅茶をごくごく飲んだ。先程から酷く喉が乾いていたので王太子の勧めは有難かった。だが極度の緊張で、王族が飲むような高級な茶葉も全く味がしなかった。


 対する王太子はゆっくりと紅茶を口にする。その上品な仕草は生まれ持っての高貴な身分を見せ付けられるようで、アレクセイは決して埋まることのない身分の差というものを改めてひしひしと感じたのだった。


 沈黙……。

 アレクセイは重圧感で胃がはち切れそうだった。

 しばらくして、王太子が口火を切る。


「……我がリーズ王国は一時はアレクサンドル帝国の姫と婚姻を結ぼうとした仲だ。私は貴国とはこれからも友好関係でありたいと思う」


「有難いお言葉、痛み入ります。もちろん私どもも同じ思いを抱いております」


「それは喜ばしいことだな。そちらの体制が変革したことであるし、これからは民間レベルでも交流を増やせればよいのだが……。ときに副大統領、現在リーズ王立魔法学園に連邦国の二人の留学生が在籍していることを知っているか? 私としては彼らが卒業したら二国間の掛け橋になってもらいたいと思っている。二人ともとても優秀だからな」


「左様でございますか……。たしかストロガノフ公爵家のご子息が留学されているとは聞き及んでおります」


 アレクセイはリナからの手紙で彼女も魔法学園に在籍していることは知っていた。

 だが国家の中枢にいる人間が、他人である市井の平民の個人的な事情までをいちいち把握しているのはおかしい。なので敢えて彼女には言及しない。


「そうだ、ストロガノフ家の三男と……もう一人の留学生は数十年振りに特待生として入学してきた平民の少女だ。さすが旧帝国は人材が豊富だな、あのような高い能力を持った平民がいるとは。驚いたぞ」


「へ、平民が、ですか……」


 アレクセイは王太子の射抜くような視線に縮こまった。


「おや、知らなかったのか。あれほど優秀な人物が埋もれていたとは連邦も勿体ないことをしたな。彼女には是非とも卒業後もリーズに留まって、その才を存分に発揮してもらいたいものだ」


「そ、それは……」アレクセイはごくりと唾を飲み込んで「彼女の意思を……確認したほうが宜しいのではないでしょうか……?」


「では、副大統領はその平民がリーズに留まりたいと希望すれば許可をする……と?」


「…………」


 アレクセイは口ごもった。

 緊張のあまり馬鹿なことを口走ってしまった。リナには卒業後は速やかに連邦に戻って、一平民としての穏やかな人生を全うして欲しい。リーズに残ったら、王太子との婚約を引きずった彼女が辛い思いをするだけだ。それに、これからも彼女がどんな危険な目に遭うか分からないので、政府の目の届くところに置いておきたい。


 フレデリックは我が意を得たりと冷ややかな笑みを浮かべて、


「副大統領、先ほど貴公は平民の留学生のことなど把握してない様子だったが……不可解なことにその平民は定期的にプラシド共和国に住む貴公の親戚に手紙を送っているようだな。このような稀有な話を親戚からは聞かされていなかったのか?」


 アレクセイの顔が青白く変化した。身体中の動脈がどくどくと激しく鼓動を打つ。


「し……親戚といっても遠縁なもので……交流は……それほどでも…………」


 もはや消え入るような声で王太子の尋問に応える。


「ほう……? では、その手紙が封を開けられずに貴公の妻であるタチヤーナ・ペトローヴナに転送されていることも知らない、と? 親族と妻の交流も把握していないのか、貴公は?」


 詰んだ……と、アレクセイはがっくりと項垂れた。

 目の前の王太子は全てを知っている。もう、弁解の余地もない。


 フレデリックはそんな彼の様子をしばらく見つめたあと苦々しい表情で嘆息して、


「随分と虚仮にされたものだな、私も」


 苛立たしげに呟いた。






◆◆◆





「ねぇ、リナ。お祭はお揃いのドレスで出掛けない? あたしが用意するわ!」と、自称リナの大親友のグレースが瞳をキラキラ輝かせた。


「はぁ? 私は別にいつもの私服でいいわ」


「駄目ぇー! リナはあたしとお揃いにするのぉーっ!」


「そんなお金があったら領民のために遣いなさいよ。水害対策は進んでるの?」


「まぁっ! やっぱりリナは個より公を優先するのね! さすがだわっ!」


「はぁ……」


 私はため息をついた。あの日以来、グレースは私の身体の一部のようにずっとへばり付いている。慕ってくれるのは嬉しいんだけど、正直疲れるわ……。


 いつもはオリヴィアと時々セルゲイの穏やかな昼食も、ここのところグレースのぎゃんぎゃんした騒音で落ち着かなかった。

 オリヴィアなんてグレースに遠慮して昨日も今日も他の子と食べているし……でも、自分を好いてくれるグレースを無下にはできないし……それにセルゲイと二人きりになるのは困るし……で、私の頭を悩ませていた。


 悩みといえば、もう一つ。

 昨日アメリア様が単独で私のもとに訪れて家庭教師の継続を懇願してきた。

 私は「自分にはその資格がない」と断ったが、彼女は食い下がってきて話は平行線だった。セルゲイが彼女を連れて帰ってくれて事なきを得たけど、まだ諦めていないらしい。どうしたものかしら……。



 フレデリック様のこともあるし、やっぱり私はもうこの国を去ったほうがいいのだろうか。

 セルゲイと一緒にリーズもアレクサンドルも関係のない第三国で暮らすほうがいいのだろうか。


 ……私は、フレデリック様を忘れて、セルゲイを好きになる努力をしたほうがいいのだろうか。



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