42 フレデリックの手紙③
◇◇◇
親愛なるエカチェリーナ様
先日、ついに小さなお姫様が社交界のプチデビューを果たしました。
始めはどうなることかと心配しましたが、付添人を件のアレクサンドル人の特待生にお願いして、彼女のおかげで同年代の友人もできて、一応は成功したと思います。アミィはちょっと我儘なのでトラブルを起こすか危惧していたのですが、杞憂に終わって良かったです。
ですが、その付添人の子が令嬢たちの嫌がらせに合ってしまい、大変なことになってしまいました。
今となっては、なぜ僕はずっと二人の側にいなかったのだろうかと後悔ばかり募ります。
昨日、彼女からアミィの家庭教師を辞めると申し出があったようです。叔父上も従妹も引き止めてはいるようですが、彼女の意思は固く……。
それもこれも、あの日に自分が上手く立ち回らなかったせいだと悔しい思いで胸が苦しいです。
思い起こせば君に対してもいつも後手に回ってばかりで、革命の波からも救い出せることができなかった。僕はなんて情けない人間だろうと思います。本当にごめん。
こんな頼りない自分が、果たして将来リーズ王国の頂点に立てるのかと最近は不安で仕方がないよ。
……ごめん、なんだか辛気臭いことばかり書いてしまったね。
実は、来月にフォード侯爵令嬢との婚約式を執り行うことが決定したんだ。
僕はもう、逃げられない。
君は一体どこにいるんだ。
僕たちはもう一生巡り会えないのか……。
………………
………………
◇◇◇
僕は投げるようにペンを机に置いて、ため息をついた。
あのお茶会から数日間、リナ嬢は体調不良で学園を休み続けている。
アミィと二人でお見舞いに行ったのだが、具合が優れずに他人と会う余裕がないと追い返されてしまった。
そして、セルゲイ公爵令息を通じてアミィの家庭教師の辞意を伝えてきた。
自分の無責任な行動のせいで彼女を追い詰めてしまった。しかも、小さな従妹も悪くないのに自身を責めて毎日泣いている。
僕は二人の女の子を悲しみのどん底に突き落としてしまって、情けなくて不甲斐なくて自己嫌悪で身体全体が麻痺するような感覚だった。
リナ嬢については気掛かりなことがある。
あの日、騒ぎの現場に向かう途中で、彼女が宣誓をしようとする様子を遠くから認めた。
宣誓とはアレクサンドル人の名誉を掛けた発言を行う際にするポーズだ。心臓に手を添えて神と祖国の地と父親に誓うのだ。あのとき彼女は確かに「父ニコライ」と言った。
ニコライはアレクサンドル人によくある名前だが、帝国の最後の皇帝の名でもある。
「僕はどれだけエカチェリーナに固執しているんだ……」
あまりに突飛な考え過ぎて、思わず自嘲の笑いを漏らす。
思えば、不思議な子だった。
リナ嬢は平民にして他の貴族を凌駕する魔力を持ち、手のつけようのなかった従妹でさえも更生させるパワフルさ、実は元貴族で平民になっても腐ることなく前向きに頑張っている女の子……。
彼女の振る舞いからおそらく高位貴族で、かつては両親と兄がいたが革命で亡くなって、父親の名はニコライ……。
そのとき、僕ははっとして身体が凍り付いた。
まさか……いや、これまでの情報を繋ぎ合わせると、おぼろげだが……。
僕は愛しい婚約者の名前を思い浮かべる。
「リナ……リーナ…………エカチェリーナ……?」




