26 小さなお姫様①
「わたしが気に入らないって言っているでしょうっ! さっさと他のものを持って来なさいっ!」
「で、ですが、お嬢様……」
「早くしなさいよっ!」
シェフィールド公爵家に到着して、執事に先導されて公爵令嬢の部屋に向かっていると、奥のほうから怒鳴り声が聞こえた。
執事はおもむろに振り返って私を見て、ぎこちない愛想笑いをする。私も苦笑いを浮かべた。あの怒鳴り散らしているのが件の小さなお姫様ね。
「こちらでございま――」
「だから、違うって言っているでしょうっ!」
ガッシャーン、となにかが壊れる音がした。女性の短い悲鳴が聞こえる。扉の向こうは剣呑な雰囲気だった。
「しょ、少々お待ちくださいませ」と、執事は先にその混沌の中に入って行く。その間もぎゃあぎゃあと女の子の騒ぎ声が漏れてきて、にわかに頭が痛くなった。これは……グレースより面倒そうな子だわ。
「どうぞ」
しばらくして、部屋に入る。すると、中の悲惨な光景が目に入ってきて閉口した。
美しく整頓されていたはずの公爵令嬢の室内は鏡台を中心にぐっちゃぐちゃ。割れた手鏡やたくさんの装飾品が床に散乱し、更には花瓶も割れて水浸し。若いメイドが泣きながら掃除をしていた。
公爵令嬢は近くにあったネックレスをメイドに投げ付けて、
「早くしなさいよ! この薄のろ!」と、追い打ちを掛ける。
「も……申し訳ありませ……っつ……」
ついにメイドはその場で泣き崩れた。
その地獄のような情景に部屋中がしんと静まり返って、メイドのすすり泣く声だけが悲しく響いた。
「醜いわね……」
私は思わず呟いた。
「は? 今、なんて言ったの?」
公爵令嬢は眉間に皺を寄せて私を見る。
しまった。公爵家にそぐわないような無様な様子に呆れてしまって、つい口を滑らせてしまったわ。
ふと、叔母様のことを思い出した。お父様の妹で皇族であるということに誰よりも誇りを持ち、その肥大化したプライドがおかしな方向へ行ってしまった方だ。
彼女は常に周囲を見下していて傲慢な態度を取り、皇族という特権を活用してやりたい放題だった。
伯爵家に嫁いでからも変わらずに、彼女と似た性質の夫君と一緒になって散財し税を吊り上げ更にはドレスや宝石の請求書を皇室に送り付けて、おまけに彼女の息子も問題ばかり起こしていて、革命では真っ先に一家全員殺された。
お父様は叔母様にちょくちょく注意はしていたみたいだけど、小さい頃から一緒だった可愛い妹に心を鬼にすることができなくて、それが彼女の横暴を助長させてしまったのよね。
……これは、未来のフレデリック様と公爵令嬢だわ。
公爵令嬢をこのまま放置しておくとシェフィールド家の崩壊どころか、リーズ王家にも火の粉が降り掛かる可能性が高い。今のうちに矯正させなきゃ、そのうちとんでもないことになる。
私はきっと公爵令嬢を睨め付けて、今度ははっきりと言った。
「聞こえませんでしたか? 醜い、と申し上げたのです、公爵令嬢様」




