美男美女カップルの美女に恋したが勝ち目がないように思えた
楽しんでください!
俺には好きな人がいる。それはもう好きだ。いつのまにか目で追っているし、その子の声を聞くだけで心臓が鼓動を早める。
なら、告白を一回ぐらいしてみればいいじゃないかと思うかもしれない。しかしそうもいかない。その子には彼氏がいた。それも高校内でも有名な美男美女カップルだ。俺が恋した人は美男美女カップルの美女の方だ。
勝ち筋が全く見えない今日この頃、少しだけその女性と会話する時間があった。
それは学校が終わり、放課後のことだった。美男美女カップルは俺と同じクラスで、美男の方。名前を和也というが、和也が俺に掃除を押し付けてきた。
「おい、掃除。今日もやってくれるよな?」
「え、いや。今日はちょっと用事が…」
「奇遇だな、俺も用事があるんだ。じゃ、任せたよ」
俺に掃除当番を押し付けて廊下に向かう。掃除当番を押し付けてきたのは両手じゃ数え切れないほどの回数だ。
「…えっと。優馬くんだっけ?あいつに掃除押し付けられたの?」
「え、あ…うん。まぁ、いつものことだしね」
次に話しかけてきたのは美女の方の新田加奈だった。
長く茶色の髪をたなびかせ、透き通った声の持ち主だ。ただ一つ言えることは彼女の容姿に惚れたのではなく、彼女の性格…優しく、天然なところとに俺は惹かれたのだ。
「いつも…?これで何回目なの?」
「これで…うーん。わかんないや。両手で表せないもん」
「両手でって…1023回以上なの!?」
「…どうゆうこと?」
「え、あ。ごめんなさい。10回以上なのね…」
どういう計算をしたのか少し気になるところだが、申し訳なさそうにしている彼女に改めて聞ける無粋さはない。
「優しいんだね、優馬くんは」
「え、いやいや。すぐにどっか行っちゃうから仕方なく俺がやってるだけだよ」
「ふふ、この前も道案内してたの見てたよ」
この前。多分2日前のことだ。学校の帰り道に道に迷ってそうな人がいたから手伝っただけだが…たまたま新田さんに見られていたらしい。少し恥ずかしいな。
「あ、もうこんな時間。またね、優馬くん」
「あ、うん。またね」
今日はなんていい日なんだろうか。やはりいいことをしていれば自分に返ってくるのか。それに俺の名前を下で呼んでくれてるし…天使かなにかだろうか?
だって俺の心がここまで浄化されているんだもの。
時間にすればたった数分のことだ。だが、俺にとって高嶺の花だった新田さんと会話できたこの時間は思い出の中でもなかなか印象深い。
やはり声が優しく、柔らかいなぁ。
と、感傷に浸っていたのも束の間で。次の日から放課後になると新田さんが何故か俺に話しかけるようになった。本当に他愛もない、なんて事のない世間話だが、毎日話をしてくれるようになった。
そんなある日の放課後。和也が俺に話しかけてきた。まだクラス内に生徒が屯っている時間だった。
「おい、最近加奈と話してるようだが…。いっつもニヤニヤしてんの見てて気持ち悪りぃんだよな。なーんか勘違いしてねぇか?」
「い、いや。勘違いだなんて滅相もない…」
どうやら新田さんが俺に話しかけていることが気に食わないらしい。カップルなんだから本人に言えよと悪態をつきたいものの、学校内で彼は上の地位にいる。隅で本を読み、友達も似たもの同士しかいない俺には牙を向けることなどできるわけもない。
「いんや、加奈が優しいからってそれに甘えてる姿を最近見てるからな!おかしいだろ?学校内でも美女と名高い加奈がお前みたいな本の虫に話しかけてる現状が。理由はしらねぇが罰ゲームかなんかだろうな。それを察して早めに帰ろうと思わねぇわけ?」
かなりの長台詞を言い終えた後、俺をより強く睨む。なるほど、罰ゲームで俺に話しかけているなら納得できる。
俺もおかしいとは思っていた。今まで話した事ない人が急に毎日話しかけてきたらびっくりするだろう。それもその人が学校一の美女と謳われる人だったら尚更だ。
「それで?貴方は何が言いたいわけ?」
「だから…って。加奈か。ちょうどいい、お前もひどいやつだよな。俺みたいにかっこいい彼氏がいる癖にこんな奴に手を出し始めてよぉ〜。こいつが本気にしてたらどうするんだぁ?」
ニヤニヤと和也がしている反面、新田さんは凛とした顔で和也を見ている。
「で?誰が、誰の彼氏ですって?」
「は?だから、俺がお前の彼氏だろって。校内でも美男美女でお似合いだ〜って言われてるじゃないか」
「はぁ…いつ私が貴方の告白を受け入れましたか?嘘も大概にしてください。それと」
新田さんが早口で、それも敬語で捲し立てる。
「名前で私のことを呼ばないでください。不快ですし、不愉快です。私に話しかけないで。それと優馬くんを悪く言っているようだけど…次は貴方の番よ?」
「は?何言ってんだよ。俺の告白を受けたのはお前だし、下の名前はずっと呼んでたじゃないか。今更…」
何かに気づいたのか、和也は携帯を手に取る。俺の携帯にも通知が来たようだ。
「なんだよこれ!加奈!今すぐこれを撤回しろ!」
「撤回も何も、私は事実を言っただけ。まさか貴方と付き合っていると思われていたなんて…正直無理だわ。生理的に受け付けないわね」
クラスのグループ用メールだった。そこには新田さんのメッセージで
『私は宇野和也とは付き合ったことがありません。宇野くんの妄言です。いつ頃からそう言われてきたか私にはわかりませんが、少なくとも私は彼と話していて楽しいと思ったことはありません。もし私と宇野くんが付き合っていると思っている方がいるなら、この噂を消すように、間違っていると広めておいてください。もう一度言います。これは全て宇野くんの妄言です、迷惑です。私は彼に一度も好意を向けたことがありません』
と、書かれていた。
かなり長い文章で、和也との交際を否定していた。なんだこれは、芸能人かよ…。週刊誌みたいな文をしていると思ったが、俺もやっと理解ができた。
つまり、和也と付き合っていると噂されていることに気がついたから俺を出汁に和也を怒らせたのか。それもクラスメイトの前で。
周りの生徒達が和也へ軽蔑の目を向けていた。
「おい、みんな勘違いしてねぇか。あくまでこれは噂だ、俺が広めたわけじゃねぇだろ?」
「えぇ、そうね。私もそう思ったわ。自然と出てきてしまった噂なら自分から消そうと思ったのだけれど…どうやらそのようじゃない。先程の貴方が言った言葉で無事確信できたわ」
「は?何言ってんだよ」
「貴方は私の彼氏ではない。あくまで噂なら、俺みたいな彼氏がいるとわざわざ言わないでしょう?それも告白を3度も断わられているのに…」
つまりはこうだ。噂が自然と出たやつなのに、和也は新田さんに俺みたいな彼氏がいるのにな、と最初に言ったのだ。自然とできた噂ではないとわかった。さらに自ら噂を流し自分と付き合うしかない状況をつくろうとしたであろう作戦と概ねわかってしまった。
「いや…だから…!」
和也は急に怒りをあらわにした。もう勝ち目はないと思ったのだろう、右手を振り上げ新田さんの顔目掛けて殴ろうとする。
「いった…」
まさかそのまま殴らせるわけにもいかず、俺が庇う。急だったもので、俺はそのまま顔を殴られ倒れる。口の中を少し切ったようだ。
「そう。それが貴方の答えね…」
「何がだよ…俺は悪くねぇよ。そいつが急に前に出てきたんだ、寸止めしようと思ってたのによぉ」
少し震えた声でそう弁明する。寸止めできたわけがない。俺を殴った右手は完璧に振り切っていたのだから。ここでも嘘を重ねているだけだろう。
「優馬くん、大丈夫?まさか暴行に走るとは思ってなくて…」
生徒の誰かが呼んだのか担任の先生が教室に入ってくる。
「えぇ…話は聞かせてもらった。それとこの状況を見て…。そうだな…、宇野くん。一度職員室に行こうか?それと新田さんは保健室に彼を連れて行ってくれないか?口の中が切れているだろうから」
「分かりました。優馬くん?保健室にいこ」
「うん…ありがとう」
「ほら、宇野!ついてこい!」
顔を青くした和也が先生の後ろを歩いていく。それを見届けた後に新田さんと保健室に向かう。
どうやら保健室の先生はいないようで、お互いに向かい合うように座る。
「ごめんね。まさか殴られるとは微塵も思ってなくて…」
「いいよ、新田さんに当たらなかっただけマシだよ」
「いや…でも…」
申し訳なさそうにしている新田さんを見ると俺も少し罪悪感が残る。手で受け止められたらよかったな…。
「本当にいいんだって。新田さんみたいに綺麗な人の顔に傷がついたら一生後悔しちゃうよ、俺が」
「き、綺麗ってそんな。優馬くんだって自分の顔大事にしないと…」
「大丈夫、結果として口の中しか切ってないしね」
「でも顔が少し腫れてるよ?」
「すぐ治るよ、新田さんに心配かけたくないしね」
「うぅ…じゃ、じゃあ」
少し下を向いた後に俺の方に向き直す。
「私のことも名前で呼んでいいよ!ほら、私だけ優馬くんって呼ぶのも変じゃん?」
「え?いいの?」
「いいも何も、私が頼んでるんだよ?いいに決まってるじゃん」
「え…」
五言絶句に七言絶句。なんということだろう。和也に殴られはしたがお釣りが出るほどの褒美を貰えるとは…。
「じゃ、じゃあ…加奈さんって呼ばせてもらうね…」
「よ、呼び捨てでいいよ」
「じゃあ…加奈…」
「何?優馬くん?」
かなり気まずい雰囲気が俺らを包む。というか俺が呼び捨てなのに、優馬くんと呼ばれるにはなんか癪だ。
「俺も優馬でいいよ。こっちが呼び捨てなのに加奈がくん付なのおかしいじゃん」
「そ、それもそうよね。えっと…優馬」
かなり恥ずかしい。ここだけ見れば初々しいカップルにしか見えないだろう。というか和也と付き合っていなかったのなら俺にもチャンスが回ってきたのではないだろうか?
好きな人と下の名前で呼び合っているのだ、十分可能性はあるはずだ。
「えっと…加奈は和也と付き合ってなかったんだね」
「そうね、あの人のことに興味なかったから噂に気づいたのもつい最近だわ…」
「へ、へぇ。だから俺に話しかけてきたのか」
「え、ちが…。違くもないけど…優馬と話したかっただけよ…」
俺と話したかっただけ。なんとも甘い響きだ。これだけで恋に落ちれる自信がある。
「それは…?」
「え、いや!勘違いしないでよね」
典型的なツンデレの言い回しをされた。それも顔を真っ赤に染め、そっぽを向いてだ。つまりこれはそういうことだよな。俺のこと好きってことでいいんだよな?
好きでもない相手にここまでするわけがない。それこそ興味なければ相手の情報を一切仕入れていないのだ。和也でのことだが、明らかに俺に好意があるような立ち振る舞いをしている。
俺は意を決して、口を開く。
「加奈…」
「な、何よ」
「俺は君の他人に優しいところ、可愛いところ、声が綺麗なところ」
「え、な、何よ急に…」
赤い顔がさらに赤くなる。加奈が話しているが俺は止まることを知らない。もう勘違いだろうとなんでもいい。ただ自分の気持ちを外に出したかった。
「笑うたびに口をちょっと握った手で隠す仕草も、人と話してる時どう話せば相手に気を遣わせずに済むか考えている時の表情も、全部…好きだ。俺と…付き合ってくれないか?」
自分が思っていることを全て打ち明けた。勝算はあるつもりだが、振られる可能性はゼロではない。だから自分が言える加奈の好きなところを全て言い尽くした。
「あ…う…」
顔を真っ赤に締めた加奈は俺に近づく。
「少しだけ…目閉じて」
「わかった」
いう通りに目を閉じた。
そして、唇と唇が触れた。キスをされたのだ。加奈は唇を離した後、俺の血がついたベロを見せながら言う。
「初キスは鉄の味だね」
感想がいただけたら喜んで、喜びます。
MAX100の内、1023ぐらい喜びます。
ちなみにこの数字は二進数で数えた時の両手での上限ですね。(多分)