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短編ホラー

ビジネスホテル

作者: 早寝早起き
掲載日:2021/01/31

 当時の私は、ブラック企業に勤めていました。

 働き始めた当初から、週の内で自宅へ帰るのは3日程度。

 会社で寝泊まりするのが、普通の会社だったんです。


 そんな生活ですから、家に帰っても何もする気力が起きません。

 唯一ベットで眠れる事に、幸せを感じていたんですよね。

 今思えば何故、そんな環境で働き続けられたのか?

 きっと周囲も同じだったので、麻痺していたんでしょうね。


 同じ様な生活が数年も過ぎると、仕事もそれなりに任される様になりました。

 不思議な事に仕事を覚えれば覚える程、仕事量も増えて行くんですよね。

 きっと騙されていたんだと思います。私は単純な性格なんで。

 

 そんな私にある仕事を任せたいと、上司から話がありました。

 急な依頼で先輩社員が空いていない。

 直ぐにでも先方に伺わないといけない案件でした。

 他府県での仕事なのですが、安心して任せられるのはお前だと言われ承諾したんです。

 仕事の内容的に、日帰りが出来る様な仕事ではない。

 そこでネットから、ビジネスホテルを予約する事にしました。


 出来るだけ仕事場の近くを選びたかったのですが、周辺に空きが見つかりませんでした。

 着替えは会社に常備していたので、本来ならばこのまま出発したい。

 そこで駅周辺のネットカフェを検索すると、1件だけありました。

 このままビジネスホテルを探しても、見つかるかは分からない。


 私の迷いは消えました。とにかく出発して、最悪ネットカフェで寝ようと。

 時刻はお昼を過ぎたばかり。電車を使えば先方の就業時間内に到着出来るはずです。

 素早くロッカーから私物を取り出し、着替えを詰め込み会社を出ました。






◇◇◇






 駅まで走り列車の出発に滑り込んだ時、これで大丈夫だと思いました。

 特に遅延も無く、無事に先方の就業時間内に到着。

 待っていた先方の会社にも、喜んで頂きました。

 何故出発を急いだのか? これには理由があります。

 私達の仕事は出来るだけ、業務時間外が良いのです。

 簡単に言えば、守秘義務が生ずる仕事なんですよ。


 先方もそれは分かっているので、打ち合わせだけ済ませて順次退社されました。

 本来であればこのまま朝まで仕事をしたい。ですがそれは出来ないんです。

 依頼を頂いた会社は、持ちビルではありません。

 なので入っているビルの規則に従う必要があるんです。


 ビルの規則では夜23時以降は閉鎖して、セキュリティが掛かるとの事。

 現在の時刻が夕方の17時。後6時間しかありません。

 その時間内では終わらせる事が出来ない為、今日はキリの良い所までと決めました。


 カツ、カツ、カツ。

 静まり返ったビルに足音が響きます。

 パソコン画面を見ていた私は、その音で時計を見ました。

 時刻は22時50分。


「今日はここまでだな。残りは明日にしよう」


 ビルを出る準備をしながら、念の為携帯でネットを開きました。

 ビジネスホテルの空きを確認する為です。

 この時間なら、当日キャンセルもあるかも知れないと思ったんですよね。


「お? ここ空いてる! 駄目元で調べてみるもんだな」


 なんと近場のビジネスホテルに空室があったんです。

 警備の人に挨拶を済ませた後、ビルを出て直ぐに空室のあったホテルへ電話。

 無事に予約が出来ました。これでベッドで寝れます。


 そのホテルは今いる場所から徒歩で10分程の場所。

 私は夜食をコンビニで買い、予約したホテルへ向かいました。





◇◇◇




「いらっしゃいませ。ご宿泊のお客様ですか?」

「先程電話を入れた者で、○○と申します」

「○○様ですね。お待ちしておりました。お部屋は502号室でございます」


 チェックインを済ませ、エレべ-タ-で5階へ向かう。

 少し古いが清潔そうなホテルだった。

 時間が遅いせいか、人の気配は感じない。

 ここで何故だか、少し嫌な感じがしたんですよね。


 エレベーターが5階に到着。扉が開くと直ぐに自動販売機があった。

 

「ん? ここのホテルはテレビカ-ドが売ってるんだな」


 飲み物の自販機の隣にテレビカ-ドの販売機を見つけたんです。

 小さなビジネスホテルでは売ってますよね。

 私は少し悩んだが、万が一トラブルで帰れない時を考え購入した。


 このフロアは真ん中に通路があり、両側に部屋が並んでいる。

 見た所向かって左側が、末尾奇数の部屋になっている。

 私の部屋は502号室なので、通路右側の部屋だ。


「えっと。502号室は一番奥になるのか」


 通路のドン付きの壁側に、私の部屋はあった。向かいの部屋が501号室。

 正直ここでも少し怖かった。部屋に向かう通路が嫌に薄暗かったのだ。

 そんな通路を一番奥まで歩くなんて、今日はついてない。


 恐る恐る廊下を歩き、部屋の前に到着。

 早く部屋に入ろうとキーを差し込み、ドアを開けました。

 そして部屋に入った瞬間、フワッっと私に向って風が吹いたんですよ。

 

 どう説明して良いのか分からないのですが、この部屋は嫌な感じを受けました。

 しかしそうは言っても、今更部屋の変更など出来ません。


 今の風はきっと窓が開いているんだ。空気の入れ替えして、閉め忘れてるんだ。

 私は自分にそう言い聞かせて、部屋へ入り電気を付けました。


「なんだ。やっぱり窓が開いてるだけじゃ無いか」


 考えていた通り、部屋の窓が開いていました。

 ホッとして窓を閉め、ベッドに腰掛けます。

 改めて部屋を見てみましたが、掃除も行き届いていて綺麗。


 勝手に不安に思っていたので、少し恥ずかしい気持ちになりました。

 その後手早くシャワ-を浴び、コンビニで買った夜食を食ベ早めに就寝。

 少しお酒を飲んだので、眠りも早かったのです。





 ⁈ どれぐらい眠った頃だろうか? 何かを感じました。

 何だろう? 音? ギシギシと言う音が頭に響いてくるんです。


 そして目を開けた瞬間......


 私の視界には天井から首を吊った男が見えました。


 ヒッ⁈ な、何だあれ? 誰なんだ?!

 驚いて声を上げようとしたのですが、全く出ません。

 それどころか、身体も動かす事すら出来ないのです。


 見たくないのですが、目を閉じる事も出来なくなりました。

 その男は首がだらんと垂れ下がり、動く気配はありませんでした。

 私はとりあえずホッとしましたが、ある事に気づいてしまいました。


 なんと男の首が少しづつ動いているんです。

 まるで私の事を見ようとしている様に!


 見るな! こっちを見るなぁあああ!!

 心の中で必死に叫びます。ですが男の首はどんどん上がって来ます。

 もう恐怖でどうにかなりそうです。


 結局私の願いも空しく、徐々に上がった男の顔がこちらを見ました。

 ケケケケケ。気味の悪い笑い声をあげ、こちらを見つめる男。

 その目は黒く塗りつぶされていました。





◇◇◇





「はぁはぁ。うわぁぁぁぁぁぁぁ」

 

 大声で叫び、飛び起きた私。部屋には窓から明るい光が差し込んでいました。


「あれ? 夢だったのか?」


 恐る恐る天井を見ても、男の姿はありません。

 勝手に感じていた恐怖が、ありもしない夢を見せたんだろうか?

 お酒は酔う程飲んでいない。

 とりあえずベットから起き上がって見ると、凄い汗を掻いていた。


 時間は午前8時。まだ先方の会社へ行くには時間がある。

 私は熱いシャワ-を浴び、服を着替えた。

 気分的にもさっぱりとしたが、このままこの部屋で時間は潰したくない。


 そのままチェックアウトし、朝食は喫茶店で済ませる事にした。

 そして時間通りに先方へ顔を出し、その日のうちに予定を終わらせた。

 きちんと仕事が終わり会社へ連絡を入れたら、そのまま直帰の許可が出る。


 しかし帰りの切符を買う際に、あのホテルで買ったテレビカ-ドを見てしまった。

 思い出したくないあの出来事が、脳裏に蘇って来る。

 そうなるとこのまま1人で自宅に帰る事に恐怖を感じてしまった。


 正直恥ずかしいのだが、同僚に話を聞いてもらおうと考えた。

 会社ならどんな時間に帰社しても、確実に人が大勢いるはずだからだ。


 そして駅で買ったお土産を片手に会社に帰社。

 上司に不思議な顔をされたが、業務報告の為だと言うと逆に褒められてしまった。

 すみません。半分本当で半分は別の理由です。


「○○さん。お疲れ様です! 直帰じゃ無かったんですか?」

「あはは。どうせなら完了報告しとこうかと思ってさ」

「本当に仕事好きなんですね。俺だったら帰っちゃいますよ」

「ま、まぁパソコンで今回の仕事のまとめだけやるわ」


 俺は後輩の言葉に適当に相槌を打ち、デスクのパソコンを立ち上げた。

 あれ? なかなか立ち上がらないな。こんなに遅かったっけ?

 何時まで経っても立ち上がらないパソコンに、イライラしていたその時だった。


「ヒィッ。な、何で」


 私は暗い画面に映る、あの男の姿を見てしまったんだ。

 あれは夢じゃ無かったのか? 何で会社のパソコンに?

 その男はまだ下を向いたままだ。このまま見続けたらヤバい!


 そう思った私はパソコンから目を逸らした。

 良かった! 身体は動く。これなら見ないで済むんだ!

 私は安心し、誰かにこの話を相談しようと思った。


「なぁ誰か。ちょっと俺の話を」

「先輩! その人知り合い何ですか?」

「え? その人?」

「はい。背中にしがみついてる男の人ですよ」


 



◇◇◇




 

 この出来事の後、私は会社を退職しました。

 後輩に連れられお祓いに行き、今の所あの男は出て来ていません。

 泊まったホテルには何があったのか?


 正直、調べる事も未だに出来ていないのです。

 二度と関わりたくないと言うのが本音なんですよね。

 皆様も宿泊する施設で何かを感じてしまったら、気をつける事をお勧めします。

 さもないと何かを連れて帰って来てしまうかも知れませんから......。

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― 新着の感想 ―
[良い点]  語り口調で怪談を聴いているみたいに話が頭に入って来ました。文章は硬すぎず柔らか過ぎず私好みです。  出張でホテル泊まるときは照明、テレビつけっぱなしで寝るビビりの私なら気絶したでしょうね…
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