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勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
異世界生活 -開拓編-
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8


次の日もリズは地脈を探すと言って早朝から出掛けようと玄関を開けたときに魚の死体を見つけて叫んでいた。いい機会なので虹の鳥というご近所さんの存在を話し、決して森の生き物を傷つけてはいけないと説明。


ツヴァイは木の実を粉にしたいと言うので木ですり鉢のようなものとすりこぎを用意した。

何を作るつもりなのかまったく想像できない。


トイレのドアを作り、蝶番でドアの開け閉めも出来るようになった。

個人部屋は面倒だったので家の右側3分の1がヨシュアの部屋、玄関のある左側の3分の1がダイニングキッチン、中間が通路挟んで両側にそれぞれの個人部屋という間取りにした。

3部屋とトイレで蝶番を使いきったため、玄関を引き戸からドアに変更するのはまた今度だな。


壁とドア作りだけだったので、1日で出来てしまった。

技術の進歩は恐ろしい。伝統建築の職人になれる日も近い。


お昼は各々で適当に済ませたが、夕方になると香ばしい香りとスパイシーな食欲をそそる匂いがただよう。いい匂いである。文明開花の匂いである。

泉の水を汲んで家に帰るとキッチンでツヴァイが料理していた。


「お帰りなさい。晩御飯に木の実のパンと魚の香草煮込みにしたんだ」


確かに家政夫として契約したが家に帰ったらご飯を用意して待ってくれているなんて、まさかのヒロイン枠か。産まれる性別を間違えてるぞ。

森を散策していたが良い匂いにつれられて帰って来た動物並みの嗅覚のリズと3人で夕食をとった。


「なんだこのパンは。モチモチしてところどころ木の実の塊がカリカリ香ばしくて美味しすぎる。まさか木の実にこんな食べ方があったとは……」


照れて笑うツヴァイの隣でリズが口一杯に頬張り頬袋を作っておかわりを要求していた。


「木の実は油分が多いから、クッキーみたいな食感のものにするか悩んだんだけど、気に入ってくれて良かったよ。魚は川魚みたいだし、泥臭さがあるといけないから香草で煮込んで臭みをとったんだ」


今までただ焼いただけで食べていたものが、そのへんの雑草だと思っていた物を使って高級フレンチの味わいに大変身である。魚も切り身のみで骨もなく食べやすくしてくれている。


ツヴァイは購入しよう。レンタル2日目で決定した。


「そうだ、二人の個人部屋は出来たんだけど家具がまったくないから必要なものがあったら言ってね。作るか街で買ってくるから。部屋はどっちも大体同じ広さだと思うけど、二人でどっちが良いか話し合って決めて」


「俺は朝食作りがあるからキッチン側の部屋がいいな。朝早くに物音たてて起こすのも悪いから」


「なら私は反対側だな。森の景色が堪能できる窓が出来る日が楽しみだ。しかし、こんなに広い部屋を1人で使っていいのだろうか」


部屋はすんなり決まったが、リズが遠慮がちに言った。

このログハウスの土地が100坪、建物自体は60坪程である。個人部屋は6分の1とはいえ10坪あり、約20畳に近い広さとなる。

ヨシュアの部屋は約40畳となるため、もう一軒建つくらいの広さである。


「もし今後奴隷の人が増えたら部屋をさらに分けることになるかもしれないから、今はこのまま使うと良いよ」


こうして3人の共同生活が始まった。

三人の生活が始まって1週間、二人は虹の鳥のマリーさんとノルンに挨拶をして顔見知りとなる。


「お仲間が増えて良かったですねぇ。捕ってくる魚の数増やさなくちゃ」


「いえいえ、お気遣いなく」


次回から持ってくる魚の数が三倍になったのは言うまでもない。

そして食べきれない分はツヴァイが塩漬けにしたり干物や燻製にしたりしてくれるので、天日干しで魚が加工されているのを見つけたマリーさんが数を気にせず持ってくるようになり、大型のお魚まで運ばれてくるようになった。

どうやら今まではろくに料理のできないヨシュア一人だったから食べきれる量だけに止めてくれていたくれていたようだ。

牙が生えた大型の魚までさばけるツヴァイには感謝しかない。


リズは地脈探しを始めて4日目に温泉が沸きそうな場所を見つけたと報告してきた。

土に手をあて深い穴が開くイメージで穴を掘ると確かに土が熱いのはわかるが、残念ながらお湯は湧き出なかった。


これは砂風呂に出来るんじゃないか?と思い提案すると、リズは砂風呂を知らないらしく、実際に作ってみることになった。温泉には入りたいが砂風呂にはあまりそそられない。言わなければよかった。


リズは新たな地脈を探している。

火属性が扱えるため地中の熱が感覚でわかるらしい。

地下にマグマの流れる箇所がわかるため、熱の溜まっている箇所はマグマか温泉の可能性がある。

水属性はないため、その熱が温泉かどうかは実際に掘ってみないとわからないという。


ツヴァイはドライフルーツ入りのもちもち木の実パンやハーブティー、魚の燻製など食事を豊かにしてくれている。


朝食に雑穀のようなプチプチした植物のお粥や、遠出すると言うとお昼用にスライスした木の実を衣にして焼いたサクサクの魚のフライをノーマルモチモチパンで挟んだものを持たせてくれたときは性別が男であることを心の底から悔やんだ。


洗濯と掃除もツヴァイの仕事だが、孤児院に比べたらこれぐらい簡単だといい手伝いは必要ないらしい。


ただ、世界樹の泉で洗濯するのは気が引けるので、川までの道があればいいなとぼやいていた。

どのみち川の周りは水田として開拓予定なので、川までの道を分かりやすいよう木を抜き、草を抜いて一本道を作った。


鳥の巣や猿コウモリ?が住んでいる木や、リズが見つけた砂風呂予定地を避けたため、グネグネと曲がった道になってしまったが仕方ない。


リズは森のあちこちを探し回っているが、どうせ風呂が見つかるなら家の近くの方がいいな。

試しに家用に開拓したはいいが余っている庭に石のシャベルで穴を掘ってみた。



温泉出てくるといいな。

そう願いながら。



まさか、願いながら掘ったら本当に温泉が湧くとは思っていなかった。

少し掘れば湯気が出て、人が入れるほど深く掘れば42℃はありそうな温度高めの温泉が湧いた。


せっかくなので1度に5人は入れそうなほど大きな穴を掘り、石で浴槽を作る。檜風呂のように木でできた浴槽もいいが、石風呂の方がなんとなく手入れが楽そうだから石にした。


浴槽の内側には腰かけられる段を用意して半身浴も可能にする。

リズという女性(仮)がいるため入浴には配慮しようと石風呂の周りに木材で囲いを作っていると、ちょうどリズが帰って来た。


信じられない物を見る目付きでこちらを見ている。


「ヨシュアさん、湯気が見えるのだが」


「掘ったら温泉が湧いた。囲いが出来たらリズが1番風呂に入るといいよ」


「信じられない!家の近くは最初に調べたが、熱源は弱かったはずだ!何の魔法を使ったんだ!」


アンドリューさんもビックリの声量である。


「魔法使った覚えはないけど、ここ掘ったら温泉出ないかなーって思いながら掘ったら湧いた」


おもいっきり疑われているのが表情でわかる。

疑われても事実なのでどうしようもないが。


「…………ヨシュアさんは何か特殊なスキル持ちなのか?」


「……スキルってなに?」


なにそれ美味しいの状態である。


「洗礼は受けなかったのか?」


無宗教なので洗礼を受けた覚えはない。


「洗礼を受ける文化がないところの出身なんだ」


「どんなとこだ」


どんなとこと聞かれてもなぁ。


「水田が広がっていて、狸って生き物が合戦してるとこかな。狸が人間に化けて生活してることもあるらしいよ」


狸が主役の映画のモデルになった土地だと聞いたことがある。

そういえば、あの時自転車で避けた狸さん元気かな。


「人に化けるモンスターがいるなんて恐ろしい……。洗礼する文化もないなんて、よほど田舎の集落出身なんだな。いつの間にか魔界にいたと言っていたが、それだけ田舎なら隠れた転移魔方陣でもあったのかもしれない」


虹鳥さんも人の姿になってるけど恐ろしくないよ。

狸さんも人に化けてるのは住む山が無くなって仕方なくだよ。



「どうなんだろうね。ところで洗礼ってのでスキルがわかるものなの?」


「そうだな、宗派にもよるが洗礼を受けるときに見てもらうんだ。たとえば私は人によってはハズレと言われるが体格強化のスキルがあるから、男にも負けない体格をしている。ツヴァイは希少な聖属性を持っていること自体が特殊スキルにあたる」


スキルというのは特殊能力みたいなものか。


「それから、洗礼のときには属性も見てもらえる。私は2種類、ツヴァイは1種類。魔法は使えない人間も多くいる。ヨシュアさんは風と土と木を操っているのは見たが、どれくらい使えるんだ?」


「使えるってレベルなのは言われた3種類くらいかな。焚き火の火種程度の火属性とか、出すだけなら他にも出来るよ」


「魔法は適性がなければまったく使えないものだ。出すだけでも出来るなら充分すごいものだよ。ごく稀に収納や転移といった空間を操る特殊な魔法を扱う人間もいるから、練習してみるといい」


「収納なら巾着を何でも入るように魔法で広げてみたことはあるんだけど、取り出すときになかなか取れなくて不便ですぐ使うのやめたんだ」


「あの特殊魔法まで使えるのか!それはもったいない。収納が使えるなら収納箱のイメージをすると良いらしいぞ?あとは、取り出すときに取り出すものを考えながら引き出しを開けるイメージで手を入れるとすぐ見つかると軍の食料運搬係に聞いたことがある」


ほほう。なかなかためになる知識だ。

今度試してみよう。


「それにしても、ヨシュアさんのスキルが気になるところだな。やはり田舎まで公共施設の設立が行き届いてないのが悔やまれる。人間の公用語と、気づいたら魔界にいたというのに魔族言語まで話せるなんてかなり努力したんだろう?」


…………え?

ずっと日本語を話していたつもりのヨシュアに衝撃が走る。

今まで違う言語を話していた覚えはない。


「私なんて、前回の奴隷レンタルで契約した相手から魔族の言葉を覚える気がない奴は無理だと早い段階で返品された。ヨシュアさんは田舎の出身で教育も行き届いていなかっただろうに、たいしたものだな」


どうやら魔族との会話は魔族の言語、人族との会話は人族の言語を話していたようだ。


異世界に飛ばされてこの国の言葉が話せるなんて、なんて幸運なのだろう。

幸運ならいっそ、神様に会ってチートスキルを貰いたかった。


この世界の言葉が話せ、契約書の文字も読めて、魔法を何種類も使えるのだから充分チートに入りそうだが、開拓するために必要な魔法ばかり使っているから戦闘出来るわけではない。

チート(農業関連に限る)と限定がついていそうだ。


残念である。


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