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勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
異世界生活 -開拓編-
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「ヨシュアー!今日のお魚ノルンが捕ったのー!!」


「へー、凄いな」


「これどうぞー!」


ノルンことあの色鮮やかな髪の美幼女は、得意気に手のひらサイズの魚を4匹渡してきた。

鳥の状態で狩りをしているようで、どれもくちばしでえぐられた傷がある。


「ありがとな。お礼に野苺のドライフルーツあげるよ」


保存用に少しずつドライフルーツ作りを試している。野苺はそのままだと酸味が強いが、ドライフルーツにすることで甘味がまして甘酸っぱさが癖になる。


ノルンは受け取った野苺ドライフルーツをさっそく一粒口に入れた。


「わー!!これ好き!お母さんにもあげる!ありがとヨシュア!」


「どういたしまして」


もうヨシュアと呼ばれることを訂正することは諦めた。

女の子の名前がノルンというヨーロッパあたりにいそうな名前をしていることもあり、外国人が日本語を発音しにくいように善明と正しい発音は難しいようだった。今後他の人(?)に会ったときはヨシュアと名乗ろうと思っている。


鳥とのご近所付き合いが始まってから、泉や森で野性動物と遭遇する機会が増えた。


今まではずっと避けられていたのだろう。

最近では森へ入ると立派なキバをもつ瓜坊のような獣や腕をあげるとコウモリのような羽根が広がり空を飛ぶ猿など、地球では考えられない生き物が多く存在する。


ここに住み始めてからもう数ヶ月たつが、異世界ものによくいるゴブリンやコボルト、オークといった人間を襲う魔物にも遭遇しない。


この世界の人間に会うことは絶望的に難しいかわりに、魔界というわりに恐ろしい魔物もいない場所である。


ヨシュアは数ヶ月たっても気候が変わらないこの過ごしやすい土地を気に入っていた。百姓の孫にはスローライフが馴染みやすかったようだ。


以前念のためにノルンの母親であるマリーに聞いたことがある。


「ここって雨季とか特殊な気候とか、危険な生き物とか何か気を付けることってないんですか?」


「ここは世界樹のある魔界唯一の聖域ですから気候は年中穏やかで、危険な生き物は入ってこれない土地ですからねぇ。しいて言うならキノコはほぼ食べたらダメなものですが、ヨシュアさんは平気みたいですしねぇ」


危ないところだった。キノコを食べたあとは念のために全回復の泉の水飲んでいて良かったと心から思った。


「あとは…そうですねぇ、世界樹のうろの中は冥界に通じているから入ってはいけないって伝えられていますが、ヨシュアさんは最初の頃うろに住んでましたしねぇ」


うろは冥界に通じているという言い伝えまであると。しかし現在ヨシュアはなんともなく過ごしている。ただの言い伝えというだけのようだ。


ちなみに泉の水の全回復と状態異常回復の効果は世界樹のおかげらしい。世界樹の樹液がまざり、泉全体に薬効が溶けこんでいる状態だと考えられている。

世界樹の泉の水を売れば稼げそうだなという考えが一瞬ちらついたが、そもそも売る相手がいない。


帰ることもできない。かといって冒険するのは怖い。

今はとりあえず、のんびりスローライフを楽しむか。


相変わらず森の木の手入れをして、余った木は薪に加工したり、ログハウスの家具作りをしてみたり、リフォームしてみたりしている。


家から泉に沿って少し歩いたところは畑にしようと根こそぎ木を抜き取り、石のクワで土を耕して枯葉を混ぜこんで放置している。大量に葉や枝があるから焼き畑農業も考えたが、森で火事を起こしたら死ぬのは目に見えているのでやめた。


栄養たっぷり含んだ土地に、何を植えるかは考え中である。

野菜の種がないので、どうやったら手に入る入るのかわからない。


木材はたくさん余っているので畑のまわりに柵を設置して野性動物達が入れないようにした。

畑作りは案外早く終わった。


本当にただ耕しただけの土地である。

土に葉っぱが栄養として馴染むまでのあいだに、野菜の種は手に入るのだろうか。


それに、野菜を育てたところで今のところ焚き火で焼くしか調理法がない。毎日バーベキューで素材の味が続くとさすがに飽きる。


野菜の種と塩等の調味料、調理器具、欲を言えば自宅にキッチンと風呂が欲しい。それから着替えの服。泉で毎日綺麗にしているが、洗濯して干しているときにもパンツを履きたい。


いっそ葉っぱ1枚すら身につけず裸族として過ごすことも考えたが、ノルンがいつ来るかわからないので教育上悪いことは避けることにした。


生きていくだけなら難しくなくなってきたこの環境で、欲が出てきた。

たしか毒沼を越えた先に魔族の街があると言っていたはずだ。

そこへ行ければ手に入るだろうか。


なんとかして文明と関わりを持たねばならない。

いったいどうすればあの毒沼を抜けられるのだろうか。


街へ出かける方法をいくつか思案した。


1、街までの道を開拓する。

メリットは何度も行くことになった場合便利になる。

デメリットは時間がかかること、一度しか行かなかったら不要になること、世界樹に住んでいることがバレてしまうこと。

魔族がどんなものかわからない現状ではあまりにもリスクが高すぎるため却下。


2、プテラノドンもどきのときのように、マリーさんに乗せてもらう。

メリットは自分では何もしなくてすむこと。

デメリットはマリーさんに迷惑をかけること。

そもそもノルンの子育てのため森に住んでいるのだから、森から離れるのは難しいだろう。


3、空を飛ぶ。

メリットは魔法で移動できるため移動の用意が楽であること。

デメリットはいつ空を飛べるようになるかわからないこと。


魔法で空を飛ぶ方法を試してはいるがイメージが難しく自分が空を飛ぶことは出来なかった。


体重が軽くなったイメージをしても重力は発生するため、浮かぶことが出来ない。紙のように軽いイメージだと風で飛ばされてしまうため自分で飛んでいるとは言えない。また、方向がコントロール出来ないのは致命的だ。


空気のクッションの上に乗るイメージの場合、浮かぶことは出来るが移動出来ない。

空気の道をイメージすれば浮いたまま歩いて移動できるが、街から自宅へ帰るときには空から大樹を確認しないと迷子になる危険性が高い。



ヘリコプターのような乗り物を用意して、風魔法でプロペラを回せば空を飛べるのではないだろうか。

自分一人でのるのだから、立派な操縦席まで用意しなくてもプロペラのついたただの椅子でもいい。

思い付いてから早速空飛ぶ椅子作りを開始した。


まず椅子は二人がけ程度のサイズでベンチタイプとなっている。雨対策に屋根もつけることにした。


ベンチの座席部分は箱形にして引き出しをつけ、収納出来るようにした。買ったものはここに入れて持って帰れる。


背もたれがあり、両サイドと背もたれの中央には柱がついている。


3本の柱が上部の屋根部分の板に組み合わされ、屋根の中央にはヘリコプターのプロペラのような細長い4枚羽をつけておいた。大は小を兼ねるだろうと椅子よりも大きい羽だ。

羽を回転させるので、羽だけ飛んでいかないよう軸のてっぺんには蓋をつけた。


土の中から取り出した石を釘の形に変化させ、石のハンマーでしっかりと打ち付け、強度を増す。

鉱石が取れれば鉄の釘が手に入るのだが、現状手に入る石で代用した。


石のハンマーや石のクワ、石のナイフといった原始的な道具はそろいつつある。ただ石で作ったものは重量があり使いづらく、刃も欠けやすいのが難点だ。


この空飛ぶ椅子が完成すれば生活範囲がかなり広がるだろう。

鉱石が採れる山へ行けば、鉄のハンマーや鉄のクワが出来る。街で調理器具が買えなくても自分で作れる。釜戸を作ればご飯が炊けるかもしれない。どこかで米が手に入れば稲作にも手を出そう。

広がる夢に久しぶりにワクワクする。


無垢材のナチュラルな空飛ぶ椅子が完成した。

森で目立たないよう色を変えたいが、塗料が手に入らないので我慢する。


さっそく椅子に座り、風でプロペラを回転させるイメージで魔法を発動させた。

思った通りヘリコプターのようにプロペラを回転させるだけの魔法はイメージしやすく、ゆっくりと上昇していく。


世界樹より高く飛び、辺りを見回す。


そこには森が広がり、遠くには山脈が連なっていた。

頂上は白く、灰色の山肌が見える。積雪のある岩山のようだった。


森には所々開けた場所があり、思いの外近くに川が流れていることがわかった。きっとマリーさんとノルンはあの川で魚を取ってくれているのだろう。


もっと高く飛びたい気持ちを抑えて、ゆっくり地上に降りる。

ゆっくりとプロペラの回転率を抑え、着陸した。


「成功だ!!」


空を飛ぶことに成功したヨシュアは、この世界に来て初めての高揚感に包まれていた。

これでここ数ヶ月続いていた素材そのままの焼き魚と果物のみの食生活から解放される。

あとは念のために飛行中鳥系の生き物に襲われても退治できるようプロペラを回転させる風魔法と同時に魔法を撃てるように訓練をしたら、街へ出掛けよう。


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