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「結婚を認めていただけました!!」
ヨシュア村に帰宅して、第一村人から遭遇する度に報告していった。メルはグロッキータイムのため家で寝ており、ヨシュア1人での報告ある。
といっても、報告する前からニコニコのヨシュアが近づいて来た時点で皆察しており、次々祝福を受けた。
「えっへっへっへっへ(訳:結婚認めてもらえたよ)」
「ここまでデレデレのヨシュア君も珍しいね。本当に良かったね!おめでとう!」
この調子である。
「そうだ、ツヴァイ。結婚は認めてもらえたんだけど、人間との和平が成立したら結婚って条件付きなんだ。助けてください」
もはや自分でなんとかする気はない。他力本願万歳。
「おー、理想通りの展開にしてくれてありがとう。それじゃあ、俺とアイリスの結婚のためにも、頑張ろうかな。計画を話すから、メルさんが回復したら皆を集めてくれる?」
「合点承知のすけ!!今日は疲れたから、明日ね!」
「う、うん」
変なテンションのヨシュアに圧倒されるツヴァイ。こうして、挨拶の翌日メルを含む村人全員が集められた。
「本日の会議はヨシュア&メルの結婚とツヴァイ&アイリスの結婚に関係する作戦会議です。それではさっそく、軍師ツヴァイ様どうぞ」
今日は作戦会議のため、シャキッとするようミントの清涼感あるハーブティーと魔王からお土産にもらったチョコレートがお茶菓子として並んでいる。
2つ同時に食べるとお口の中がすごく、チョコミントです。
「昨日ヨシュア君が報告してるから知ってると思うけど、ヨシュア君とメルさんの結婚が魔王に認めてもらえました。ただし、ヨシュア君が人間界へ行き、人間と魔族の和平交渉を結ぶことが条件。これから話す計画はかなり無茶をするんだ。皆は協力してくれると助かるけど、計画内容を聞いてから決めて欲しい」
全員がツヴァイの顔を見つめる。
「正直なところ、今の国王では魔族のと和平条約は結べない。失敗してるけど勇者を召喚して魔王を倒そうとしてるし、魔界への進軍は厄介な人間を穏便に殺すための手段でもあるからね」
ツヴァイが語りだしたのは、とても理解できるものではなかった。
戦争名目で魔界へと進軍するが、そのときに始末したい人間を軍に徴兵するのだという。
アイリスは勇者を召喚できない偽物の聖女だと判断された。
勇者かもしれないと言われた人間は、勇者ではないと判断された。
クリフはセリナの父、つまり貴族の当主から疎まれていた平民だ。
「アーノルドさんは、何か心当たりはない?」
「・・・危険性のある薬草を無許可で栽培していた。麻薬を栽培していたとして、服役は逃れたが謹慎処分を受けたことはあるな。厄介者と思われていた自覚はある」
なかなかのやらかし。犯罪じゃねーか。
「リズさんは?」
「・・・疎まれていたとしたら、家族から、だろうか。私は貴族の娘だが、ずっと女として産まれたことが納得いかなくてな。男のように振る舞い続け、社交界では気の触れた娘だと有名なんだ。本来貴族の娘なら、結婚して子供を産むものだ。常識から外れ、兵士となった私は家族の恥さらしだからな」
世間体や建前が大事な貴族からしたら、女らしくない娘は厄介払いしたくなるほどの恥なのだろうか。
ヨシュアにはとても理解出来ないが、貴族としてはあり得ることなのかもしれない。
「やっぱり皆訳ありみたいだね。法律では裁けない、けれど厄介な人間を戦争に向かわせておけばいつか死ぬだろう。厄介な人間は進軍させるのが、イスカリオテでは暗黙の了解なんだよ。実際に俺も訳ありなんだ。国民には伝わってないけれど、イスカリオテの王族の血を継ぐ者は瞳がエメラルドのように透き通った緑色になることが多い。もちろん、遺伝によるものだから違う色の瞳を持つ王族もいるけれど、エメラルドの瞳の人間は間違いなく王族の血を引く人間だ」
エメラルドの瞳のツヴァイは語り続ける。
「俺の名前はツヴァイ・ゲイル・イスカリオテ。今の国王の妾の子だ。国王にとっては妾ですらない、火遊びの結果勝手に産まれて認知もされていない第四王子。次の王位継承争いに備えて、殺しておこうと徴兵された孤児院育ちの人間だ」
自らの正体を明かすツヴァイの声は、強い憤りをはらんでいた。
「ツヴァイが、王子様?」
あまりにも現実離れしていて信じられなかった。
事前に知っていたアイリス以外の皆も呆気にとられてマヌケな顔をしている。ツヴァイは気にせずそのまま計画を話し出す。
「隠しててごめんね、皆。今話した徴兵の裏側は、俺を王に推薦しようと動いてくれている支援者から教わったことだ。支援者の代表は国王の右腕と言われるアンデレ・バルトロ。今の悪政を止めるため、王族に認知もされてないくらい王族と関わりがなく、王族の考えに染まっていない俺を国王にして、国を立て直したいそうだ」
国王の右腕が、謀反の計画なんて危ない橋を次期国王にしたい人間に嘘をついて渡るとは考えにくい。
現在ツヴァイが話している内容も信じられないが、嘘をついているとも思えない。
「バルトロは俺を形だけの王様にして、自分で政治をしようと考えていることは百も承知の上で、その企みに乗ろうと思う。今の国王では魔族との和平を望めない。バルトロは次期国王戦に俺を推薦したがっていたが、それだと国王になれるのがいつになるか分からない。だから俺はこれから人間界で革命を起こし、国王になる。俺が国王になり、魔族との和解条約を締結させようと思う」
今まで一緒に暮らしていた仲間が実は国王の隠し子で、革命を起こして国王になると宣言した。
頭がついていかない。王様?革命?トランプの大富豪の話?ヨシュアは混乱している。
「話が壮大過ぎて、ちょっと頭がついていけない」
皆も表情が固まったままだ。
「うん。今は聞くだけでいいよ。メルさん、人間界と魔界について認識のすり合わせをしたいんだけど、いいかな」
メルも話が壮大過ぎて皆と同じように固まっていたが、声をかけられハッとする。
「お役に立てるかわかりませんが、わかりました」
この一年で人間の公用語が上達し、もう人間の皆との会話も問題なくなったメルはツヴァイに返事をした。
「ああそうだ、その前に俺はメルの正体に気づいてたけど、自分で言う?」
「そ、そうですね、もうヨシュア君と結婚することも決まってますし。あの、皆さん信じられないかもしれませんが、私、メルは魔王の娘です。といっても、本来王族の象徴でもあるこのエメラルド色だった角は病で無力化してしまいました。実力主義の魔族の国では、魔力結晶を失った私では父から魔王の王位を継ぐことは出来ないんですけどね」
メルが魔王の娘だと知っていたヨシュアとツヴァイ以外は、王子様の出現に加え魔王の娘の出現に頭がパンクしそうになる。
「まず人間界側では、魔力結晶の高い魔族に虐げられ、魔力結晶を持たない人間が反旗を翻し魔族を魔界へ追いやったと言われているけど、魔界ではどう?」
「魔界では、人間と魔族は同じ種族だと思っています。便宜上人間と魔族を分けていますが、魔力が高く魔力結晶がある人間だという認識ですね。同じ人間ですが魔力結晶が有る者と無い者で諍いが絶えず、過去の魔力結晶のある王族が、同じく魔力結晶のある民を率いて魔界へ移住し、魔力結晶を持たない人間と住み分けをしたとされています。」
「転移魔方陣は、魔族からの侵略を防ぐため破壊されたと言われているけど、魔界ではどう?」
「本来、魔界の過酷な環境でしか取れないものや人間界でしか取れないものの貿易のために設置したものでしたが、人間界側から破壊されてしまったため使用できなくなったものという認識ですね」
「人間界では魔族が侵略してくるから、進軍して人間界での全面戦争になるのを食い止めているという建前で魔界へ進軍しているけど、これはどうかな」
「魔界、というより魔王である父の意向になりますが、こちらとしてはなぜ侵略されると思っているのか理解できませんので誤解を解きたいと思っています。侵略されれば迎撃しなければなりませんが、戦力に差がありすぎますから追い返すのも大変だそうです」
人間がいくら進軍しようと、魔族からは相手にもされていなかった。
「俺は革命を起こす。国王になれば和平条約の締結を約束する。魔族に協力してもらうことは可能かな」
「政治に関する内容は私には判断できませんが、父に話してみることは出来ます」
混乱している中、革命の話は進んでいく。
魔族がツヴァイに協力して革命を起こすのだろうか。
人間なんて相手にもならないほどの圧倒的な力を持つ魔族が協力すれば、革命は容易かもしれない。
しかし、武力による革命で平和は手に入るのだろうか。
「ちょっと待った」
「…何?ヨシュア君」
「魔族に協力してもらっても、武力で革命を起こしちゃダメだ」
「残念だけど、革命を起こすにはある程度の血が流れるのは仕方ないことだと思うよ。もちろん、武力で抑えつけるような政治はしたくないから最小限に抑えたいと思っている。そのために魔族に協力してもらえると助かるんだ」
「無血開城って言葉がある」
「無血、開城?」
「王様に、城の明け渡しを要求するんだよ。無血開城とは、血の流れない革命のことだ」
あくまでヨシュア君のイメージの無血開城です。
最終回が近くなるとシリアスが続くってよくあるよね。
 




