序章
「お父様、会っていただきたい人がいるんです」
聖域潜伏任務について1年程たち、定期報告兼里帰りしていた。報告はすでに終えており、家族二人で夕食を食べていた。緊張した面持ちで父である魔王を見つめるメル。
娘から父へ紹介したい人がいるとなれば、考えられる可能性は1つ。
そう、結婚相手だ。
次期魔王として君臨する予定だったメルには、夫候補はいくらでもいた。
残念だが、魔力を失い次期魔王への道が閉ざされた今のメルに夫候補はいない。
親である自分よりも先に亡くなるかもしれない愛しい娘が、最後までともに人生を歩みたい相手がいるというなら、娘の幸せを心から願う父親としては大変喜ばしい報せだ。
「その人は、メルにとってどういう人なんだ?」
「・・・将来、私の夫になる方です」
「そうか。相手についてどうこう言うつもりはないが、どんな人かは知っておきたい。こちらこそ、ぜひ会わせて欲しい」
メルはホッとした様子で、紹介したい人物がどんな人なのか話しだした。
「実は、聖域に住むヨシュア君なんです」
魔王はブフッと口に含んでいたブドウジュースを噴き出した。
「大丈夫ですか?」
メルが心配そうに様子をうかがっている。
「ああ、ゴホンッ・・・、大丈夫だ。ところで、ヨシュア君というのは・・・」
「報告でお伝えした通り、勇者である可能性が高い魔力量EXの方です」
ああ、うん。
遠い目をする魔王。
報告では魔力量EXに加えて把握しきれないほどの属性を持つ毒沼に捨てられたはぐれ魔族だと聞いている。
そして若き実業家として成功している青年だ。
魔力量EXにもかかわらず魔力結晶がない時点で
魔族としてはおかしい。その魔力であれば間違いなく魔力結晶が存在する。
可能性としては、もし病気などで魔力結晶を失ってもなお膨大な魔力を持ち、はぐれ魔族として生きているなら無力化した魔力結晶がどこかにあるはずだ。
メルのように無力化した魔力結晶がないことが確定すれば、ヨシュアは勇者で間違いないと思うが、魔力結晶の位置は人によって様々だ。
さすがに男の裸を見て確かめろとは思春期の娘に言えなかった。
ひょっとしてもう見てたりするのだろうか。
娘はもう大人の階段をのぼってしまったのか・・・!?
いや、考えちゃダメだ。ダメージが大きすぎる。
「ヨシュア君には、メルが魔王の娘であることはまだ話してないのだろう?」
潜入捜査のため、身分は偽ったままだ。
「はい。お父様に認めていただけるのでしたら、身分を明かしたいと思っております」
「この際だ。直接会って彼が勇者かどうかも確認しよう。ただのはぐれ魔族であれば問題ないが、勇者であれば人間と魔族の結婚となり、国の問題に発展する。親としては娘の幸せを願っているが、こればかりは、な」
「そう、ですよね」
メルは暗い顔で同意する。
「心配するな。結婚という形にとらわれなくても、2人で暮らしていく道だってある。どんな道だろうと、メルが幸せならそれでいい」
娘の幸せを祈る父は、ヨシュアが魔族であることを心から願うのであった。
冠婚葬祭や年末残業祭により3ヶ月放置してました。
そのあいだに副鼻腔炎(蓄膿)二回なりました。
疲れって怖い。




