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まず、適度に木を抜きます。自分が下敷きにならないよう手を離したら抜けるように魔力を込めましょう。急いで逃げられるよう足下には注意しましょう。
魔法で根本から抜いたあと、ウインドカッターで枝を切り落とします。
そして、ウインドカッターを回転させます。チェーンソーをイメージしましょう。そして木を適度に切り分け丸太にします。
丸太は泉のほうへ運びます。落とした木の枝や葉っぱがそのうち腐葉土になるので放っときます。
丸太は重たいので、ある程度土の上にまとめたら土ごと移動させます。エスカレーターを平坦な道に作った歩く歩道をイメージして土を動かします。
疲れたら泉のほとりで休憩。泉の水を飲めば全回復で作業再開可能。みんなも一緒に働こう、善明建設。
開拓作業は退屈しのぎ兼魔法の訓練にはもってこいだ。どうすればいいか考え、工夫することで魔法のコントロールは上手くなり、ずっと使い続けることで魔法を使い続けられる時間も延びていく。
木を抜くときは一度木にのぼって生き物の巣がないか確認してからにしているため、いつのまにか体力や筋力も増えてきた。
大樹の辺りの開けたところを中心に適度に木を抜きつつ、適度に多すぎる枝を落としつつ開拓していく。
家を建てる予定の場所は根こそぎ抜いておいた。
もし南国だとスコールの降る雨季がある可能性がある。それに見つけてはいないが、もし川が近くにあって雨が降れば氾濫する可能性もある。それらに備えて高床式ログハウスを建てようと100坪程度の土地を確保した。
開拓で充分すぎる木材を用意し、確保した土地で高床式ログハウスの建築に着手する。
「よし、やるか」
家を支えるために太い木材を土に突きさしていく。
深くささるよう別の木材で叩いてみるが、まったくささらないので木材の先端をネジの先のような形に加工する。そして手を離したら回転するよう木材に魔力を込める。手を離せば自動的に自ら土へ突き刺さるドリル木材である。
次に支えとなる木材の上に床を作る。
回転ウインドカッターで厚みを均一にした木材を用意する。木材を加工し並べますが、止めるネジがないため上手くいかない。木と木で組み合わせて床になるよう、木の右側は凸面、左側は凹面と加工して組み合わせる。
兼業農家のアイドルグループによる番組から得た伝統建築の知識であった。
組み合わせた木が水分を含み、膨張することで強固につながるらしい。
床の裏側にも窪みを作って支柱となる木材と組み合わせて強固な床となった。台風がきてもびくともしないだろう。
土台のあとは建物部分である。
特に良い木材を、床と同じ要領で壁を組み立てていく。ドアの部分は蝶番が作れず引戸となった。
屋根も木材同士を組み合わせていくことで材料木材のみのシンプルな三角屋根の高床式ログハウスが完成した。
正直何日たったかわからないが、建て終わる頃には魔力コントロールは完璧になったと言っても過言ではない。
石の形状変化で鋭くなる程度だったのが、今では矢尻でもナイフでも剣でも、なんなら装飾つきで作れる程の精密度である。
家を建てたことで冒険に出ることはすっかり頭から抜け落ち、これでクワを作れば作物が育てられるのではないかと考える善明であった。
そんなほのぼの異世界ライフにも慣れ、高床式ログハウスを建て干し草のベッドで眠り、さぁ今日も森を開拓しようと玄関の引戸を開けたときに事件は起きた。
目の前に色鮮やかで綺麗なロングヘアーの4歳くらいのあどけない美幼女がいたのである。
「………あっ…え……」
悲しいかな異世界生活中独り言を呟くことしかしていなかったため言葉が出ない。
美少女は善明を見て満面の笑みである。
「おはよー!」
「お、おはよう」
どもりながら返事をしたが、こちらは数ヶ月ぶりのコミュニケーション。パニックである。
ゲームの戦闘のように選択肢が脳裏に浮かぶ。
美少女が現れた!善明は混乱している!
「お礼に来た!」
美幼女はニコニコしている。
「お礼って、なんの?」
「助けてくれたお礼!ママがお兄さんが助けてくれたって言ってた!」
ここに来てから人助けどころか人に会った記憶もない。
「なにかの間違いだよ」
「間違えない!泉のとこに住んでるのお兄さんだけだもん!」
毎回ビックリマークのつく元気な声の美幼女。
保護者はどこだ。誘拐と間違えられて逮捕されるのは困る。
「ママはどこにいるの?」
「呼んだら飛んで来るよ!ママァァァァァ!!!」
大きな声で叫ぶ。ちょっと待ちたまえ、事情知らない人から見たら家に連れ込もうとして叫ばれてるみたいじゃないか。
焦っていると美幼女が森の方を見て言った。
「ほらねっ!ママ来た!」
美幼女が見る方角に人の姿はない。
色鮮やかな鳥が飛んできているのは見えた。
あれ?あの鳥、美幼女の髪と同じ色してないかな。
あれ?ママ飛んでくるってもしかしてほんとに飛んできてる?比喩表現ではなく?
色鮮やかな鳥は大樹に降りたと思えば、大樹から色鮮やかなロングヘアーの女性が飛び降りた。
人間なら確実に骨折、下手すると死ぬ高さから軽々とダイブする。
「…………え?………いやいやいや」
ロングヘアーの女性は真っ直ぐこちらへ向かってきた。
「ねぇ」
「なにー!」
「ママって、あの人?」
「うん!」
何が起こってるんだ。
異世界のファンタジー要素が一気に増した瞬間である。
なんと鳥が人間の姿になったと思われるのである。
色鮮やかなロングヘアーの女性は階段をのぼり玄関へとやって来た。
「初めまして、娘が突然すみません」
色鮮やかなロングヘアーに切れ長の目、宗教画に描かれそうな美人な女性だ。
「いや、大丈夫です」
「以前娘を助けていただきありがとうございました。お礼を直接伝えたかったのですが、種族が違うためどう伝えれば良いかわからず、こんなに遅くなってしまいましてごめんなさいね」
「いや、大丈夫です」
「何もしないのも、と思って食べ物をたまに持ってきていたのですけれど、やはり種族が違うと食べるものも違いますよね。お魚は気に入っていただけたようで安心してました。おやつの虫はダメだったみたいで、ごめんなさいね」
「いや、大丈夫です」
さっきからいや、大丈夫ですとしか返事をしていない。
美人な女性の話を聞くと思い当たるのは巣から落ちた雛を巣へ返したこと。そしてお礼として定期的に魚が落ちていたこと。
「あの……、もしかしてあのときの雛って……」
「この子です」
美人な女性は美幼女の頭を撫でる。
「あ、無事でなりよりです」
「お兄さんのおかげです。ところで、すごいお家ですね」
「いやぁ、素人の作るログハウスですから、つたないですが」
「とんでもない、お上手ですよ。この子が巣立つまではこの森で暮らしていく予定ですので、今後もよろしくお願いしますね」
「いえいえこちらこそ、いつもお魚助かってます」
「お魚以外になにか必要な物があれば行って下さい、捕ってきますので。」
明らかに狩猟してくるという意味である。
「いえ特には、……そうだ。このあたりで人間が住んでる街ってありませんか?」
美人な女性は頬に手のひらをあて、困ったような仕草をする。
「ここは魔王城からは離れてますが、魔界ですからねぇ。歩いて行くなんて出来ませんし、人間界に行くなら転移魔方陣を探すしかないですね、人間界側で魔方陣はほぼ壊されたそうですから使えないものも多く探すのは大変ですよ」
まさかの魔界であった。ラスボス手前みたいな毒沼だと思っていたが本当にラスボスの住んでる地域である。
「お兄さんはぐれ魔族でしょう?魔族の街なら毒沼を抜けたところにエポセトの街があったはずですが」
「魔族?僕がですか?」
「あら違いました?ずっとここで過ごしていた様子でしたからてっきり。それにうちの子を助けて下さったから、古くからの生活を大切にするはぐれ魔族の方かと思ってました」
「いや、僕は人間です」
「まぁ、人間の方がどうやって一人で魔界に?進軍ならともかく、たった一人でなんて勇者くらいしかやって来れませんよ」
「自分でもよくわからないですが、気付いたらここにいました」
「あらあら、大変でしたね。子供を助けていただいてますし、お役にたてることがあれば遠慮なく言ってくださいね」
それでは、と帰る様子の美人の女性。母親に手を握られ帰りをうながされると、母親が来てから大人しくしていた美幼女が口を開いた。
「お兄さんの名前なぁに?」
「ヨシアキだよ」
「ヨシュアね!わかった!」
いや君わかってないよ、そう伝える前に美幼女は大きく手をふって母親と帰っていった。