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勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
異世界生活 -発展編-
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11



晴れわたった青空に風が心地よい穏やかな気候、絶好のデート日和である。


メルの休暇も兼ねているため、本人の希望で街へは行かずに聖域の中でのんびりお散歩することにした。

ちなみにお昼ご飯はツヴァイにお弁当を作ってもらっている。

ヨシュアにお弁当を作る家事能力はない。残念ながら我がヒロインメルにもない。


彼女の手作り弁当に憧れがないわけではないが、無理して作ってほしいとは思わない。メルにはどうしても体が弱いイメージがあるため、せっかくの休日に頑張ってお弁当を作ってもらうよりのんびり過ごすほうを優先して欲しかった。



野菜の水やりだけ済ませて、ツヴァイのお弁当を片手にメルの住む小屋へ迎えに行く。


「メルー、迎えに来たよー」


パタパタと急ぎ足で玄関に向かっている音が聞こえる。

楽しみにしてくれていたのだろうか。思わず笑みを浮かべた。


「ヨシュア君、お待たせしました」


ドアを開けたメルは頬が少し赤く緊張した顔つきで、水彩で描かれたような大人っぽい花柄が特徴的な丈が膝下まである清楚なワンピースだった。


ただ可愛いと、我思う。ゆえに我あり。

見とれていた。


「変じゃないですか?」


気恥ずかしそうにしながら上目遣いで聞いてくるメルは天使だった。


「いや、最高です」


生足が魅惑のマーメイドさんより男心にグッとくるものがありました。


「よかった」


照れくさそうに笑う天使。この美しい自然豊かな聖域で暮らし始めてずいぶん経つが、たった今初めてスマホが無いことを悔やんだ。


スマホがないなら一眼レフでもいい。メルの姿を記録に残したい。


「メルは本当に可愛いね。行こうか」


自分で彼女とのデートに舞い上がっているのがわかる。可愛いなんて面と向かって言える勇気なんてついこないだまでなかったはずだ。さらっと言えるほどに浮かれているのだろう。


この日は浮かれたままのんびりと散歩なのかデートなのかよくわからない休日を過ごした。

こんな風に二人で過ごす老後もいいかもしれないと思うヨシュアであった。




「チキチキ!実はこれ俺やってみたかってん!第一回お料理教室ー!!」


拍手しながらキッチンに立つヨシュアと、何言ってんだコイツという表情のツヴァイ。

初めてのデート以来、週に一度はのんびりデートをするようになったヨシュアとメルだが、毎回デートの度にお弁当を用意してもらうのが忍びないので自分で作ってみることにしたのだ。


最初なのでツヴァイに教えてもらいながら用意しようと料理を教えてもらえるよう頼んだのだった。


「教えるのは構わないけど、家庭の料理は女の仕事だとか子供が手伝うものだとか思わないの?」


ハンバーグのミンチをこねて居るとツヴァイが単純な疑問として聞いてきた。人間界では日本のような家庭が多いのかもしれない。


「まったく思わない。そりゃ好きな人の手料理は食べたいけど、僕もメルも働いてるんだから家庭の仕事は女の仕事にしたらメルは仕事して家のこともしなきゃいけないのに、僕仕事だけじゃん。結婚するならお荷物にはなりたくないし、せめて対等でいたいから相手が苦手なことは僕がやればいいと思うよ。性別とか関係なく、自分が得意なことをしてお互い補って支えあうのが一番理想的な生活かな」


「それは理想的だけど、男の仕事と女の仕事は別物だって考えが大半じゃないかな」


「うーん。男の仕事だって、大工さんとクリフみたいな王宮魔導士じゃ全然仕事は違うけど、大工より魔導士の方が偉いとは思わないでしょ。どちらも自分の仕事を全うしてるんだから。男と女で仕事は別物でも、男だから大変だっていうのはおかしいと思う。実際農園経営で僕は責任者という重責はあるけど、仕事量でいったら事務をやってくれてるメルの方がこなす仕事は多いからね」


ヨシュアがこう考えるようになったのは元の世界での家庭環境が大きな理由だった。

祖父母世代は男が働き女は家庭にいるものという考え方が主流だが、親世代は共働き家庭も多かった。共働きになっても家事は女がするものだと考える男性も多く、ヨシュアの家庭もまさにそうだった。


ヨシュアを産んでもキャリアを追い求め仕事に打ち込みたい母はヨシュアの存在が次第に疎ましくなっていったのだ。子供が熱をだせば母親が仕事を休んで当然、妻なんだから家事も育児もすべてやって当然、付き合いの飲み会も夫である父親は今まで通り参加出来ても、母になってからは参加できず、付き合いも悪くなる。仕事仲間ともだんだん距離がうまれる。


せめてヨシュアの父が家事育児に協力的ならまだよかっただろうが、家庭に入れば女は仕事に打ち込まなくなり、家庭を優先させて当然だと思っていた。


結果として、ヨシュアに手がかからなくなり仕事に打ち込めるようになってから母は水を得た魚のように生き生きと働き、収入を美容にもまわせるようになったことで女性としての自信も取り戻し、職場で出会った新しいパートナーとの生活を望んでヨシュアをおいて出て行ったのだ。


父が固定概念に縛られて女は家庭に入るものだと思わず、母の働きたいという気持ちを尊重してあげればこんな結末にはならなかっただろう。自分の両親とは違い、妻は専業主婦ではなく働いているからと少しでも協力的であれば、ヨシュアが母に置いて行かれるというトラウマを抱えずに済んだかもしれない。


かといって、固定概念はその人が生きてきた人生のなかで身についた常識である。そう簡単に変えられるものではない。母は母の両親から女だという性別に囚われず自分の進みたい道へ進みなさいという教えの元で育ったことでキャリアを追い求めたいという女性になったのだ。育った環境や親が子供に与える影響というものはあまりにも大きく、愛し合って一緒になった夫婦間でも考え方・価値観の不一致というものを埋めるのは難しい。



「自分の方が大変だって思わずにお互いが協力して、お互いが我慢せずにやりたいことを出来るのが理想の夫婦だな。特に女性は結婚したら我慢の連続らしいから」


働く女性に理解がある男性に育ったのはヨシュアの母の教育(呪詛)の賜物である。女性が結婚したら我慢の連続だなんてことはないのだが、親からの影響というものは恐ろしい。



「魔族と人間も、ヨシュア君の理想の夫婦みたいにお互いうまくやっていこうって思えたらいいのにな。やっぱり覚悟決めて人間界帰るしかないかな」


タシーン、タシーンと小気味よくハンバーグの空気を抜きながらうわの空でつぶやく。


「ねぇ、ヨシュア君」


「んー?」


ヨシュアはハンバーグをハート型に成形することに集中していたため、こちらも上の空の返事だ。


「魔王になる気はないかな」


「んー。・・・えっ!?なんで!?」


衝撃でハートのハンバーグはグシャッと潰れた。



「ヨシュア君が魔王になってくれるなら、俺も国王になるよ」


どうしてそんな展開になったのか。


「なんで魔王に?」


「ちょっと世界を変えてみようかと思って」


「魔王なんてどうやってなるのさ」


「メルと結婚するんでしょう?ならなれるよ。ていうか、魔王になれるくらいじゃないとメルとは結婚出来ないと思う」


ちょっとスケールの大きい話が続いて脳みその処理能力が追い付かない。


「嘘でしょ!?ちょっと待ってよくわかんないんだけど、てかツヴァイは国王になるの?」


「とりあえずヨシュア君がメルさんのご両親に結婚を認められてから動こうと思ってるけどね」


「どうやって国王になるの?ツヴァイって孤児院で育ったんだよね?政治家になるってこと?」


ヨシュアは混乱している。


「今はまだ内緒」


ヨシュアは混乱したままだ。

ツヴァイはおかしそうに笑いをこらえていたが、ふと真面目な声色で問いかけた。


「ヨシュア君は、勇者ってなんだと思う?」


「勇者?邪悪なドラゴンとか、悪者を倒すイメージだけど」


「勇者として召喚されて、倒すのが悪者じゃなくて召喚した国の戦争相手だったら?」


「何も知らないまま倒そうとは思わない。戦争なんてお互いに自分が正しいと信じてやってることだから、考え方の違いがこじれたものだと思ってる。相手が世界征服企んでいたとしても、どういう理由で征服しようとしてるのか知りたいかな。でも和解が一番だよ」


戦争とはお互いに自分が正しいと思っているという考え方は青い狸が主役の漫画が教えてくれた。


「召喚されたのがヨシュア君で良かった。一緒に頑張ろうね」


「お、おう」


何を?と聞けないままお料理教室は幕を閉じた。



リア充を書く筆が乗らなくて更新遅れました。

そしてあまりにも浮かばなさ過ぎてデートの描写は諦めました。

作者の恋愛経験の少なさがこんなところに反映されるとは。

精神ダメージを負ったので大人しく二郎系ラーメン食べてソロを楽しみます。

背油はポーション。いや、エリクサーかもしれない。


これにて発展編は終了です。今までの応援ありがとうございました。ヒモになりたい先生の次回作「ラーメン屋店主が異世界転移~背油はエリクサー!?~」にご期待ください。

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