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童貞、チェリーボーイと揶揄されることもある。
異性との経験がないことをさす単語である。
女性に免疫のない男性が美人に話しかけられて慌てる様子を見て、童貞かよとバカにする風潮がある。
30歳を迎えると魔法使いになれるという伝説がある。
ちなみに女性は経験なく20歳を迎えるとフェアリーと呼ばれるらしいというのは余談であり真偽も定かではない。
さて、ここで本題に戻ろう。
チェリーボーイヨシュア17歳、恋愛経験は乏しく女性への免疫はない。
そもそも女性と関わりのあるくらいのリア充であれば祖父母のもとへゲームを買うためのお小遣いをせびりに行きはしない。
狸さんをひくわけにはいかないと田んぼに突っ込むピュアな少年である。
女性に免疫のないヨシュアは、ヨシュア君と名前で呼ばれただけでロマンティックが止まらなくなる。
胸が苦しくなるのだ。
上目遣いで見つめられると心臓を鷲掴みにされたような衝撃が走る。
呼吸が苦しくなるのだ。
抱き締めたくなる衝動も、一緒にいるだけで手汗が止まらなくなるのも、動悸が止まらず心臓発作を起こしそうになるのも、女性に免疫がないから仕方のないことだった。
ずっとそう思って抑えていた。
口からこぼれてしまえば、ストンと府に落ちた。
これが恋だ。
そうか、僕はメルに一目惚れをしていたんだ。
ずっと恋をしていたのだ。
「あー、急にごめん。好きなのは本当。上司に言われても困るよね、忘れて」
立場を利用する気はない。
むしろ上司だからこそ、今後のことを思えば告白なんてしてはいけない事だった。
言ってしまったものは仕方がない。
忘れて、無かったことにしてもらおう。
「あ、あの」
「ん?」
「忘れられないので、父に相談してもいいですか?」
・・・え?
父?お父上?ちょっと待てちょっと待て。
メルは顔を赤らめており、告白を忘れられないと言ってくれていることから好感触なのだろうと予想はつくが、お父上に相談ですか?
ちょっと待とう。お父上も娘が職場の社長に告白されたなんて相談されたらビックリだと思うよ。
手塩に育てた娘に手を出しやがってとお怒りになるんじゃないでしょうか。
メルはいいところのお嬢さんである。付き合うとしても家柄の問題もあるのだろう。ヨシュアははぐれ魔族設定だから家柄はまず無理だ。
はぐれ魔族と付き合いたいと前向きな相談をしてくれるのだろうか。
「えーと、お父さんになんて相談するんですか?」
「婚約したい方がいると素直に伝えます」
婚約ぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅうううヴヴヴヴヴ!!!!!
そっち!!そっち?!
なーるほどー!!いいところのお嬢さんって告白=婚約なんだぁぁぁぁあ!!そりゃ父上に相談するよねぇぇぇぇぇ!?!?!?!?
婚約って結婚の約束ってことだもんねぇぇぇぇぇ!?!?!?
脳内パニックを起こしながらも、ヨシュアは口に出さず普段通りを装っていた。
「前向きに考えてくれるのは本当に嬉しい。でもお父さんには結婚させて下さいって自分で言いに行くから、まずは二人でお出かけしてお互いをよく知るところから始めませんか」
「いいですね、デートなんて生まれて初めてです」
顔を赤らめて無邪気に笑うメル。
こんな麗しい女性が生まれてはじめてのデートなんてそんなバカな。
「恋も知らずに死ぬんだと思ってましたから。好きだと言ってもらえて、男性とデートするなんて信じられません」
「幸せにします」
決めた。僕、この子と結婚する。
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「ってことがあってね」
村の相談役であり大親友ツヴァイ君に恋愛相談を持ちかける。
「ヨシュア君結婚するの?」
「デヘヘゆくゆくは結婚したいなってデヘッデヘヘヘ思ってるドュフ」
「うわ気持ち悪っ」
失礼だな。
「すぐに結婚とは考えてないよ。まだ17歳だし、まさか告白したら結婚まで話が進むとは思わないじゃんか」
「結婚は早いかもしれないけど、婚約はしててもおかしくないよ。政略結婚があるくらい良いとこのお嬢さんなら告白=プロポーズの意味になるんじゃない?」
「ご両親への挨拶気合い入れなきゃ」
「頑張ってね」
「ツヴァイってアイリスとどこでデートしてるの?」
メルとデートの参考にするため質問した。
「聖域から出られないから、お弁当持って川沿いの花畑でのんびりランチするくらいかなぁ」
「あ、デートって認めてるんだ。実は付き合ってたりするんですか??」
「アイリスのことは可愛いと思ってるよ。あんなにわかりやすく好意むけてくれたらさすがにわかる。気持ちに応えたいとも思うけど、付き合うとか明確な関係性はないな。お互い立場上色々とね」
「聖女様だと難しいか。アイリスは人間界に帰るかどうかも保留したままだもんね」
「立場でいったら人間の勇者と魔族の娘ってカップルも難しいでしょ」
「勇者って決まったわけじゃないもん。それに勇者らしい活動するつもりもない」
「まさか召喚した勇者がこれ以上ないくらい戦闘特化のスキル持ってるのに起業して農園経営してるとは思わないよ」
「僕もまさか異世界に来て農園経営するとは思わなかったよ」
二人してクスクス笑う。
ヨシュアは異世界に来て、恋の話をする男友達にも恵まれて、もとの世界よりも充実した毎日を過ごしている。
ここに来れて良かったと思えた。
この穏やかとは言えないが充実した日々が続いていけばいいと願った。
こうしてヨシュアはフラグを立てるのであった。




