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勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
異世界生活 -発展編-
23/41

6


メルが来たことでやっと起業手続きに入ることになる。


起業についてだいぶ勉強してくれたようで、まず役所に行く前に準備する必要があるものを教えてくれた。



「起業手続きのためにまずは身分証が必要となります。家の紋章があればその紋章の入ったブローチ等の宝飾品や、魔族の任意保険に加入していれば保険証、あとはギルドの身分証などございますが、何かお持ちですか?」



「何も持ってないです」



家の紋章の宝飾品なんてどこの貴族の身分証ですか。

保険があることにも驚いたが、何よりギルドの存在である。異世界ファンタジーといえばギルドだが、魔族の街にもあるとは思わなかった。



「では身分証の発行からになりますね。簡単なのは保険に加入することですが、戸籍の確認が必要となりますので少々お時間がかかります」


「捨て子だから戸籍ないかも」


口減らしに毒沼へ捨てられたはぐれ魔族の設定である。


「言いにくいことを聞いてしまってすみません。田舎のほうでは、きちんと手続きがとれず戸籍のない魔族もおりますので、必要になってから戸籍を作ることも出来ますが、戸籍の作成からになりますね。これだとなかなか厄介で、時間も1ヶ月はかかります。ヨシュア君の能力次第になりますが、ギルドへ登録するのが良いかと存じます」



ヨシュア君と呼ばれたことで少しときめいてしまった。様より君のほうが親しげで良い。



「能力次第っていうのは?」


「魔界は魔物も中々強いですから。ギルドで冒険者として登録するためには、基礎能力が足りているか試験を受けて、合格する必要があります。合格さえすればギルドの身分証が発行されるので、身分証が出来るまで3日もかかりません」



貧弱なヨシュア君には厳しい道のりである。

身を守るために護衛の奴隷を買ったヨシュアには、到底クリアは出来ないのではないだろうか。



「あんまり期待は出来ないけど、ギルド登録試してみてダメだったら戸籍作ろうか」


「そうですね。」


ギルドで冒険者として登録しよう。

そう決めて護衛のクリフを引き連れさっそく魔族の街へ向かう。いつも通り空飛ぶ荷台だが、メルはよほど怖いのかヨシュアにぴったりとくっついていた。


美少女にぴったりくっつかれると心臓が持たない。


「あ、あの、メルさん」


少し離れて、と言おうと声をかけると、不安そうな顔でこちらを見上げる美少女。


「……はい」


美少女メルのターン!不安そうな上目遣い!

クリティカルヒット!!

効果は抜群だ!ヨシュアは戦闘不能になった!



「なんでもないです」


僕の顔は真っ赤になってないだろうか。

可愛い、可愛いうえに美しい。いと美しきおなごでござる。ものすごくしっかりした責任感ある子って顔立ちなのに不安そうに上目遣いなんて小動物みたいな可愛さもあって抱き締めたい。いやセクハラになるからやらないけど、彼氏はいるのか聞くだけでもセクハラの世の中だからね。ヨシュア君は良い雇用主だからハラスメントはダメ、絶対。



ご乱心するヨシュアの様子が面白くて、反対に座って見ていたクリフは笑いを堪えるのであった。


なんとか心臓が激しすぎる鼓動による発作で止まる前に魔族の街についた。


メルに案内してもらいギルドへ向かう。

地下道を通って行くので、普段商業街しか利用しないヨシュアが今まで魔族のギルドに気づかなかったのも仕方ないことだ。


宿泊施設や酒場のある観光街と呼ばれる区域に、ドラゴンの看板を掲げたギルドはあった。ギルドには入口が二つあり、冒険者が依頼を受けたり納品したりするための入り口と冒険者の登録内容変更や依頼など手続きする人が使用する入り口と分かれていた。今日は冒険者登録のため、手続きの入り口に入る。



入店するとすぐに案内係がこちらに気づいて近寄ってきた。


「いらっしゃいませ。本日はご依頼でしょうか、お手続きでしょうか」


「冒険者登録のために試験を受けに来ました」


「かしこまりました。それではまず魔力測定からになりますので、こちらの札を持ってお待ちください。順番がきましたらあちらの5番窓口の職員が札に書かれた番号をお呼びいたします」



テキパキと案内され、5番と看板の掛けられた小部屋のそばのベンチにかけて待った。

ほんのり薄暗くて、職員が次から次へと来る人を対応して、もとの世界の市役所を彷彿とさせる。



カウンターにある4番窓口が揉めている様子がうかがえる。窓口に座っている男性がそんなはずないだろう!と声を荒げている。どこの世界もクレーマーが存在するんだなぁと呑気に思っていると、予想より早くヨシュアの番号が呼ばれた。検査のためメルにはベンチで待っててもらう。



「大変お待たせ致しました。本日はギルドへ冒険者登録ということで、お間違えないでしょうか」


白いローブを着た女性の職員さんに確認される。


「はい。お願いします」


「それではまず魔力を測定致しますので、どちらかの腕を出してこの台の上にお願いします」


言われたとおりに腕を出す。

奴隷商でもお世話になった注射器の登場である。血液からどうやって魔力を図るのだろう。


「消毒でかぶれたことはございませんか?」


「(この世界で消毒なんてしたことが)ないです」


「はい、では手をぎゅっと握りしめてください、ちくっとしますよ」


無事に血液を抜き取られた。職員さんは「次は属性検査になりますのでこのまま少々お待ちください」と言って血を持って出て行ったあと、戻ってきた職員さんは台に水晶玉のようなものを乗せる。


「属性検査を行いますので、ここに魔力を流してください」


言われた通り魔力を流す。魔力だけ流すのは初めてだったが、魔力コントロールの練習のおかげですんなりできた。


水晶玉はヨシュアの掌が触れている場所から緑、赤、オレンジ、黄色と水彩絵の具が水に溶けるかのようにじんわり広がっていき、色はどんどん混じりあい最終的には漆黒となる。


「・・・少々お待ちください」


職員さんが立ち上がり、奥で上司と思われる別の職員と話し始める。二人で水晶を見に来た。


「・・・漆黒か、実物を見るのは初めてだな」


「これは漆黒で間違いありませんよね」


「ああ、全属性で登録していい」


「承知しました」


どうやら話はまとまったようだ。というか、僕は全属性持ってるのか。こんな貧弱が全属性持ってても宝の持ち腐れじゃなかろうか。


「次は4番窓口でお呼びしますので少々お待ちください」


小部屋を出たときに4番窓口で揉めていた男性の姿はなかったことにほっとする。


「おかえりなさい」


メルに声を掛けられる。天使がベンチに座っている。

おっといけない幻が見えていたようだ。


「ただいま」


メルの隣に腰かける。ぼんやり待つと、4番の職員さんから呼ばれる。

番号札を見せて番号に間違いがないか確認される。


「大変お待たせいたしました。魔力測定と属性検査の結果から、実技・筆記なしの登録可能条件を満たしておりますのでこのままギルド登録手続きとなりますがよろしいでしょうか」


職員さんに確認される。登録できるようで一安心だ。


「はい、よろしくお願いします」


「ではこちらの書類をご確認のうえで署名をお願いします」


ギルドの規約だろう、要約するとギルドに所属する社会人として迷惑をかけないようにすること。場合によっては規約違反の罰則としてお金を払うことになる場合もあるという内容である。


魔族言語なんて知らないのでカタカナでヨシュアと署名したつもりだが、なぜか知らない文字を書いている。いつものことなので気にしない。きっと魔族言語ではヨシュアと読むのだろう。


「ギルドカードの発行に1時間ほどお時間いただきますので、1時間以上の時間をおいてからまた入り口の案内窓口にお声掛けください」


「わかりました」


窓口を後にして、メルとクリフのいるベンチへ歩きながら「登録出来たよー」と声をかけた時だった。


「おい職員!!なんでこいつがもう登録出来て俺が出来ないんだよ!!」


さっき揉めていた男性リターンズ。ヨシュアが席を立ったあとの4番窓口へ向かう。


「規則ですので。魔力測定で一定の水準に満たない方の登録は命の危険があるため認められません」


怒鳴り声をあげられて詰め寄られているのに淡々と答える職員さん。プロの仕事である。

男性は魔力測定で基準値をクリアできなかったのだろう。自分が弱くて登録できないという事実が認められなくてごねているのだ。


「大変そうだなぁ」


ヨシュアの登録できたという発言が引き金だったのは明らかである。職員さんに申し訳なくて罪悪感を抱いていると、ヒートアップした男性が職員さん掴みかかろうと身を乗り出した。


ヨシュアがとっさに助けに出ようと前へ一歩踏み出すと、男性は足元が突如凍り付き身動き取れなくなる。


「なっ・・・誰だよ!!」


どこから魔法を仕掛けられているのかわからず、大声であたりに怒鳴りだす男性。

すると、窓口の奥からガタイのいい男性が現れた。


「今拘束させていただいたのは当ギルドで支部長を勤めさせていただいております、私の魔法によるものです。職員への武力行使を今まさに行おうとする様子が見受けられましたので、身柄を拘束させていただきました。我がギルドへのご意見を、ぜひお聞かせください。どうぞ奥へ」


やんわりと柔らかい物腰で、有無を言わさぬ圧力をかける男性。ギルドの支部長を務めるだけあって迫力がある。無事に収まってよかったと安心した。




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