表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
異世界生活 -発展編-
22/41

5


メルを迎えるための家の建築に取り掛かり、キノコ畑方面の森の中にメルが住む小屋を建てた。所要日数二日である。農家兼建築家と名乗ってもいいかもしれない。


小屋は赤い屋根の高床式ログハウスである。

丸太の形を生かして建ててみた。そして窓を人間界の雑貨屋で購入したうっすら緑がかったガラス瓶を窓ガラスにしたので、部屋に差し込む木漏れ日が透明感のある緑色になるようにした。


エメラルドグリーンとは言えないが、非日常的な空間となり森の中の別荘で過ごしているような気分にさせてくれる。仕上がりに満足したヨシュアは、そのうち自分自身の秘密基地を建ててもいいかもしれないと思った。


奴隷商へメルを雇う旨を伝え、必要な荷物をまとめてまた一週間後に奴隷商のお店に迎えに行く約束をしてメルがヨシュア村へやってくる当日、ヨシュアは緊張しながら奴隷商を訪れた。


前回と同じように玄関で待っていた奴隷商に案内され、応接室へ入る。

すでに部屋の中にメルいて、荷物は女性の引っ越しにしては少なく小さなカバン一つだけだった。


「ヨシュア様、雇っていただきありがとうございます」


深々と丁寧なお辞儀をする。


「これからよろしくお願いします。あと、様いらない。呼び捨てかヨシュア君とか、うちの方針で敬語とかも使わなくて大丈夫だよ。友達と話すみたいに気軽に話してくれたらいいから」


「そうですか・・・。普段からこの話し方なものですから慣れるまでお時間をいただくかもしれません」


そういえばメルはいいとこのお嬢さんだ。普段から丁寧な話し方をしているというのも頷ける。


「普段からそれなら無理に直さなくていいよ。休みの日とか実家に帰ったとき親御さんに働きだしてから娘の口調が悪くなったなんて心配かけたくないし」


「ありがとうございます」


ほっとしたように笑う。


「荷物はそれだけ?」


「はい。最低限の身の回りの物は持ってきました。あとは税や経理関係の書物です」



そんな書物が入っていたら、本当に身の回りのものが最低限になる容量のカバン一つである。

カバンに入っているのはせいぜい2、3日分の着替えくらいだろう。


「よし、じゃあ買い物してから村へ行こうか」


ものすごくニコニコしている奴隷商にメルを紹介してくれたお礼を伝えて店をあとにした。お偉いさんに恩を売れるとホクホクなのかもしれない。


今日の護衛はリズである。メルはまだ15歳の女の子だから、男性のクリフより生物学上は女性のリズの方がまだ緊張しないですむだろうと思ったのだ。リズにすこし買い物をすることを伝え、メルに紹介する。


「メル、こっちが護衛のリズ」


「私、メル、よろしく」


たどたどしく話しかける。リズは驚いた顔をして返事をした。


「リズだ。よろしく頼む」


すべて日本語にしか聞こえていないが、どうやらメルは人間の公用語で話しかけたようだ。

魔族言語が一切理解できないリズが返事を出来たことがなによりの証拠である。


「まずは家具を見に行こうか。小屋は用意したんだけど、ベッドや机なんかは用意出来てないんだ。あと食事は食事担当が作ってるんだけど、人間の料理と味の好みが違うかもしれないから自炊する?」


「料理はほぼしたことがございませんので、用意していただけると助かります」


「わかった。じゃあキッチンは家で紅茶いれるくらいの簡単なものでいっか」


以前お世話になった家具屋さんへ向かい家具を選ぶ。事務作業をするための机と椅子に、ベッド、簡易キッチン、小さな冷蔵庫を購入し、収納魔法で四次元へしまい込む。


次に向かったのは女性向けの服屋さんである。


「役所で手続きするときなんかのお出かけ用の服を2着以上と、農作業用に汚れてもいい服を5セットくらい。あと靴もお出かけ用と農作業用で選んでね」


予算として5万ルクを渡す。


「そんな、服は持ってきてますから大丈夫です」


焦った様子でメルは言う。


「いいからいいから、職場での制服だと思って。制服は会社が用意するものでしょう?」


「...わかりました」


申し訳なさそうに服を選ぶメル。

待ってる間が暇なのでリズにも声をかける。


「リズも服買う?」


「私は服よりプロテインがいい」


「プロテインなんてどこに売ってるの」


というかプロテインなんて存在していたのか。

リズと雑談していると、メルは女性の買い物とは思えないほどの早さで服を選び終えた。


「もっとゆっくり選んでいいのに。試着できた?着てみたらサイズがイマイチだったとかよくあるよ」


「お気遣いありがとうございます。サイズは問題ありません」


「そっか。次は雑貨屋さんに行こうか。シャンプーとか化粧水とか、肌に合う合わないがあるからね。さっきの予算余ってたらパックとかも買うといいよ」


焦るどころか驚愕の表情を浮かべるメル。美人からこいつマジかって視線を送られるのは中々くるものがある。新しい境地に目覚めてしまいそうである。


「リズもプロテイン欲しいって言ってるんだけど、プロテインってどこに売ってるんだろうね」


「それでしたら、日用品メインの雑貨屋で購入できるかと」


「そうなんだ。ちょうどよかったね」


トイレ用スライムとリズが選んだプロテイン、メルの化粧水などを購入した。

まさかプロテインがあんなにいい値段がするとは思わなかった。しかもミルクティー味、ベリー味と味の種類も多いものだから複数買うことになり、なかなかのお値段である。

奴隷のリズが遠慮なく商品を選び当然のようにヨシュアが支払っているのを見て、メルの遠慮も多少和らいだ。


帰る前に食料品店でツヴァイに頼まれた食材とヨシュアのおやつとジュースを購入して帰ることにした。プロペラ付きの荷台を見たときは不思議そうな顔をしていたが、乗って空を飛ぶと叫び声をあげる。


「きゃぁぁぁぁぁ!!!!」


「だ、大丈夫?高いところ苦手だった?」


「そ、空を飛ぶのは好きですけど、こんな重たそうなものを、ああの上の羽根だけって...」


この乗り物自体が怖かったようだ。


「魔法で重量減らしてるから大丈夫だよ。それより下の毒沼の方が怖い」


聖域へ行くためには毒沼を越える必要がある。この前ツヴァイからガスが出ているという話を聞いたので、魔力結晶のないメルは毒ガスもきついだろうといつもより高度を上げている。そのせいもあって、このただでさえプロペラのみで重量を減らし軽くなった貧相な乗り物はとても揺れている。お嬢様のメルが恐怖から叫び声をあげるのも仕方がない。


村へ帰るころにはすっかり魂が抜けていた。帰ってからまずは家具を設置し、魂を取り戻すまで休んでもらうことにした。夕食の時間までゆっくりしてもらい、それから皆に紹介する。



「今日からここで暮らしてもらいます。魔族のメルさんです」


夕食をみんなで囲みながら紹介した。今日は魂が抜けていたこともあり歓迎用の豪華メニューではなくいつも通りの夕食にしてもらっている。


「私メル、よろしく」


たどたどしく挨拶するメル。すっかり回復したようである。


「人間の公用語はこの通りたどたどしいけど、意思疎通には問題ないから。では毎回恒例、ツヴァイから順番に自己紹介していこう」


「ツヴァイ、治癒魔法士、家事と家畜の世話担当。よろしくね」


人間の公用語でも伝わりやすいよう気を使ったのだろう。単語でわかりやすく簡単な自己紹介をした。


「アイリス、治癒魔法士、家事と家畜の世話担当。よろしくお願いします」


「アーノルド、薬師、農業担当」


「クリフ、魔導士、護衛任務担当。こっちはセリナ。俺の奥さん。よろしく」


「リズだ。護衛担当。冒険に出ていることが多い」


簡単な自己紹介を終えた後、メルが何度かツヴァイを見ているのが気になった。

まさかツヴァイのハーレム枠に入るのだろうか。そんなことが起きたらヨシュアの心臓が止まる。息の根を止められてしまう。


「人間の料理が口に合えばいいんだけど」


心配そうなツヴァイ。メルの様子を見る限り、口に合わないようには見えないが念のため聞いてみる。


「メル、食事は大丈夫そう?」


「はい。魚の蒸し料理とフルーツのサラダが美味しいですね」


「ツヴァイ、魚の蒸し料理とフルーツサラダが特に美味しいって」


「そうなんだ。どっちも香草使ってるから、ハーブの香りの料理が好きなのかな。俺も好きな味付けだから、気に入ってもらえてよかったよ」


安心したように笑うツヴァイ。


「このお料理は家事担当の二人が作ったんでしょうか」


「料理は大体ツヴァイが作ってるよ。アイリスはフルーツ切ったり下ごしらえしたりが多いかな」


「そうですか」


またツヴァイの方を見るメル。そういえば、ツヴァイの瞳の色はエメラルドグリーンだ。好きな色の瞳が珍しいのだろうか。


「メルさん俺のことなんか言ってるの?」


魔族言語での会話内容を理解できないツヴァイが、メルの視線に気づいて聞いてきた。


「この料理はアイリスとツヴァイの二人で作ってるのか聞かれたから、料理は主にツヴァイの担当だよって言ってたの。あと、メルの好きな色がツヴァイの瞳の色と同じだから、それで見てたのかも」


「へー、この目の色が好きって珍しいね。」


「メルの頭にある魔力結晶が本来はその色なんだって。今は石で出来た角みたいになってるけど」


ツヴァイは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに納得する。


「そういうことか。すごい()()だね」


エメラルド色なんて魔族の街でもこの前行った人間界でも見た記憶がない。なかなか珍しい色なんだろう。


メルは綺麗に完食したあと、食後のツヴァイお手製ハーブティーを相当気に入ったようで、小屋でも飲めるように乾燥させたハーブを分けてもらっていた。

仲良くやっていけそうでよかったと安心するヨシュアであった。


ESN大賞の締切までに10万字越えることという応募規定をクリアしたこと、私生活面で残業が増えたことを踏まえ、更新を週1~2回に減らします。ご了承下さい。

物語は折り返し地点となっております。お読みくださっております読者様、最後までお付き合い下さると幸いです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ