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勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
異世界生活 -発展編-
18/41


クリフが旅立って数日しか経っていないのに、まさか奥さんを連れて帰ってくるとは思わなかった。


「村長として村人の幸せはお祝いしないとね!あはは!」


僕はちゃんと笑えていただろうか。

笑顔で泣いていなかっただろうか。

血の涙は流れていなかっただろうか。

ツヴァイとアイリスの仲睦まじい様子(どうみてもアイリスがツヴァイに惚れている)に加え、夫婦の誕生。

羨ましさからくるストレスで血尿が出る日も近い。


セリナさんはクリフの部屋で1泊してもらい、翌日農作業などはおいといて、緊急会議を開いた。


「クリフが無事に帰ってきたので、緊急会議を始めたいと思います!」


今日のティーセットはツヴァイが昨日から用意していた冷たいハーブティーと木の実入りのパウンドケーキ、ドライフルーツだ。

急だったから用意できたのが焼き菓子だけでごめんねとしょんぼりしている圧倒的ヒロイン。



「ではまずクリフさん、奥様の紹介からお願いします」


「いやまだ結婚してないよ。この子は婚約者のセリナ。家庭の事情で王都にいれなくなっちゃったから、しばらくここで身を隠せるとありがたい」


「セリナです。実家のビブリオ家が没落しそうなため、援助を受けるかわりに66歳の子爵のもとへ後妻として嫁ぐよう父から言われ家出しました」


栗色のウェーブがかったショートカットの、目は切れ長で強気な雰囲気をかもし出す女性だ。

いくら実家の窮地とはいえ、婚約者がいる女性に66歳の人へ嫁げっていうのはさすがにひどい。


「貴族って大変そうだねぇ。僕はヨシュア、気づいたら魔界の毒沼にいて、ここに住み着いています。はぐれ魔族のふりして生きてる貧弱な人間です。主に農業と開拓してます。クリフからここがどこか聞いてる?」


「はい、魔界にある世界樹の聖域だと聞いております」


「あ、敬語いらないから、楽な話し方してね。ここは安全だけど魔界だし、ここにいるメンバーしか住人はいない。人間界に帰りたくなることもあると思う。新婚さん2人の住居は新しく建てるつもりだけど、人間界に帰るときは遠慮しないでいいからね」


「家を建ててもらうなんてそんな、ご迷惑では…」


ラブラブカップルが同じ家にいるってだけで迷惑なんだなぁ。

ヨシュア君に精神的ダメージ入っちゃうんだなぁ。

遠い目をしながら心の中で答える。


「本当に気にしないでいいよ。人数が少ないから今は皆ひとつ屋根のしたで住んでるけど、希望者には家を建てるつもりだったから。あと住居の間取りとか希望あったら言ってね。子供部屋が欲しいとか、書斎が欲しいとか。立地もどの辺りがいいか希望があると建てやすいかな」


遠慮しているのだろう、困った様子のセリナにクリフが助け舟を出す。


「子供部屋なんて今は考えられないけど、今日セリナに聖域内を案内して話し合うよ」


「うん、決まったら教えて。じゃあツヴァイから順番にセリナさんに自己紹介ね」


一人一人名前とここでの役割を言う。


「自己紹介が終わったところで、さっそくクリフには旅の話をしてもらってもいいかな」


「わかった。あの転移魔方陣なんだが、イスカリオテ王国の中心である王都のすぐそばに繋がってる。霧の森の立ち入り禁止になっている保護区域の奥にあった猟師小屋のような小さな建物の地下室に転移出来たよ。王都まで歩いて行ける距離だ。魔物も弱いものしか現れないから、ヨシュア君が手ぶらでも安全に王都へ行けるだろうね」



王都のそばに繋がっているというクリフの言葉に、一同動揺を隠せずざわついている。



「霧の森の保護区域って絶滅危惧種の求愛ウサギを保護するために国が結界を張ってるとこだろう?薬草調査に行くのも許可が下りなかった。いくら絶滅危惧種といっても求愛ウサギのためだけに調査も行えないなんておかしいと上司と何度も調査申請したが申請は通らなかった場所だ」


アーノルドが保護区域について話す。皆は理解しているようだが、人間界の地理がさっぱりわからないヨシュアは求愛ウサギってどんなウサギなんだろうかと考えていた。


「まるで、王国が魔界への転移魔方陣を隠してるみたいですね」


アイリスがぽつりとこぼす。


魔族と戦争中であり、魔界への転移魔方陣は人間界側から壊されているはずだ。王国への不信感から、一同なにも言えなくなった。

沈黙を破るのはヨシュアだ。


「王国へ思うところはあるだろうけど、日帰りで安全に王都へ帰れる場所に繋がってたのはラッキーじゃない?魔族の街まで行かなくても、人間の街で買い物出来るってのはありがたいよね」


「うちの村長は相変わらずお気楽だなぁ」


ツヴァイが呆れたような、気の抜けた返事をした。


「でもそうだね、ヨシュア君の言う通りだ。どうせ僕は帰るつもりないし、王国のことはどうでもいい。気軽に人間界の街で買い物できるようになって、今の暮らしが向上するだけだもんね」


「買い物中に孤児院のときの知り合いと会うかもしれないよ?ツヴァイが帰らないと知ったら悲しむんじゃないかな」


「本当に親しくしてた子にはちゃんと挨拶へ行くつもりだけど、バレたくない人もいるからなぁ。よし、街に行くときは変装しようか。奴隷になってから髪伸ばしっぱなしだったから、いっそポニーテールにして街の女の子のフリをするとか」


なにそれ似合いそう。


「おおう、それはそれでナンパされる心配が...」


「ヨシュア君といればカップルだと思われるでしょ」


「いやいや、貧弱なヨシュア君に彼女を守るような腕力ないから。荒っぽいお兄さん方に雑魚は引っ込んでろって言われたら逃げ出すから」


「最低だ……」


ドン引きである。皆からのヨシュアの好感度が下がった。


「変装はいいな。今まで魔族に捕まって帰って来た者はいない。知り合いに見つかったら面倒だ、変装してなら俺も人間界に戻ってみたい」


ドン引きの冷たくなった空気を気にせずアーノルドが会話に加わる。助かった。


「アーノルド、人間界に帰るの?」


「いや、まだ帰るつもりはない。ここで薬草の品種改良をするのは楽しい。ただ公用語で書かれた図鑑が欲しいだけだ。魔族言語は読めないから困る」


ちょっと待っていただきたい。いつのまに品種改良なんて研究してたんだ。恐る恐るどんな研究か聞いてみる。


「品種改良って、どんな薬草育ててるの?」


「麻酔や睡眠薬にも使える医療用ハーブ。論文提出して研究の予算申請したが、人間界じゃ法律の壁に阻まれて許可が下りなかった。でもこのハーブが成功すれば、今のように大怪我すれば治癒魔法を使える人に頼るんじゃなく、人の手で治療出来る医療の幅が格段に広がる。それに、痛みの緩和が出来れば病で亡くなる直前まで苦しみ続けることから救える」


ものすごく立派な研究だと思う。現にツヴァイのアーノルドを見つめる眼差しが尊敬でキラキラしている。

だが怪しい。本当に怪しい。麻薬である大麻も、痛み止めとして治療に使われる。麻薬と紙一重の研究ではなかろうか。しかし、いくらここで育てたところで人間界の法は適用されない無法地帯だ。


もういいや、やってしまえ。


「よし、思う存分やってください。でも麻酔や睡眠効果ってなると危険な薬草でもあるし、アーノルドだけの薬草研究室作ろうか」


「なら場所は薬草園の隣にしてくれ。あと寝泊まりできると助かる。俺以外出入りできない温室も欲しい。そこに存在するだけで幻覚作用のあるハーブなんかは危険だから避けてたんだが、ずっと研究したかったんだ」


いままで言わなかっただけで、ずっと欲しかったのだろう。

スラスラ要望を口にする。


「わかった。あとは研究所に必要な机とかの家具はせっかくだから人間界で買おっか。ハーブを薬にするなら抽出するための特殊な器材も必要になるだろうし、人間用のもののほうがいいよね」


「ああ。医療用の実験器具は高いぞ。人間界の資金はどうする?」


「……何も考えてなかった」


魔族の街では素材を持ち込めばすんなり売れ、中々リッチな生活をしている。利益を上げすぎて16歳にして企業の必要に迫られているほどだ。人間の街ではどうしたらいいのだろう。

じっとツヴァイの顔を見つめる。


「俺?魔族の街と同じようにギルドに買い取りしてもらったらいいんじゃない?」


「それが、魔族の街で売りすぎてて脱税で引っかかるから起業したほうがいいらしくてさ、人間界で目立つのは避けたいんだ」


「あれだけ売ってればそうなるのかぁ・・・。人間界は素材売るときに差し引かれる税金だけで支払い義務はおわるから大丈夫だけど、そうだよね、皆目立ちたくないよね。魔界の素材なんて目立ちすぎるから売れないし、大量に鉱石売るのも目立つからなぁ」


「とりあえず、小さく砕いた宝石でもほそぼそとギルドで売ろうか。アーノルドの実験器材は高額でも、普段買うものは食材と、服と日用品くらいだろうし」


「うん。買い取り価格は落ちるけど、大きい宝石は怪しまれて買い取ってもらえないだろうからね。それがいいよ。ところでヨシュア君、魔界で起業ってどうするの?」


「今度街行くときに手続きしようと思うんだけど、全然わからなくてさ。血の契約が必要だから代理人雇って任せることも出来ないし。かといってこのままだと脱税で魔族の街に出禁される可能性もあるらしくて、出禁なんて生活に困るから起業しないわけにもいかなくて……。一から役所で説明受けながらやってみるよ」


「そっか、さすがにそれは力になれそうにないや」


「魔界での起業の仕方なんて誰もわかんないから仕方ないよ。あ、起業の時はみんなも株式会社ヨシュア組の従業員として申請する可能性あるからよろしく」


株式会社って何?って表情をされる。

そうか、この世界で株式なんて存在しないのか。


「それが企業名なの?」


首をかしげるツヴァイ。


「やっぱりヨシュア組だけの方がいいかな」


「いや、人間界はお店の名前がそのまま企業名ってことが多くて、企業名でなんの店かわかるものが主流なんだ。例えばアーノルド薬品店だったり、ツヴァイ食品店だったり。名前となんの店か組み合わせることが多いかな。魔界の主流はわかんないけど」


「うーん。じゃあ、ヨシュアキノコ園、ヨシュア農園、ヨシュア牧場、ヨシュア鉱石、どれがメインかな。もう全部まとめてヨシュア大農場でいいかな」


「うん。そっちのほうがしっくりくるかな」


企業名も決まったところで、この日はクリフの帰還&セリナさんとの結婚お祝いパーティーをすることになった。

クリフがセリナさんに聖域を案内している隙にツヴァイとアイリスが豪華なご馳走を作り、アーノルドとヨシュアは動物の世話など絶対に休めない仕事のみこなす。


リズは貴重なドラゴンの肉を提供しているので、今日は護衛してもらわなくて大丈夫だからと筋トレに専念してもらう。自重トレーニングに限界がきているから、アーノルドの研究室ほどの広さはなくていいのでトレーニング室が欲しいと言っていた。


筋トレの習慣などないため、自重トレーニングって何?と思うヨシュアだが、金銭的にリズが一番稼いでいるので近日中に用意する約束をする。


大量のドラゴンの肉はツヴァイによって美味しく保存されている。ツヴァイが腸欲しいと言い出したときはどんなホラー展開になるのかと思ったが、ドラゴン肉を保存するためソーセージに加工するためだったのである。


ノーマル、魔族の辛い香辛料を使ったもの、薬草園のハーブで香り付けしたものと、3種類のソーセージが冷凍庫に常備されている。


パーティーメニューは3種のドラゴン肉ソーセージ、ピリ辛ソーセージと野菜のピザとタマゴとチーズのピザ、川魚の香草焼きにグリーンサラダとマカロニサラダ、口直しにミルクシャーベットだった。


食べきれるかわからないほど並んだ料理と健全なジュースでお祝いをするのであった。


求愛ウサギは胸のところにこんもりと立派なハート形の胸毛が生えているうさぎです


異世界転移/転生カテゴリ、ファンタジーの日間で111位になりました!

皆さんの評価・ブックマークのおかげです、ありがとうございます!

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