表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
勇者として召喚されたなんて知らなかったから異世界で農家になりました  作者: ほげえ(鼻ほじ)
異世界生活 -開拓編-
1/41

1


王歴1992年。魔王からの進軍に太刀打ちすべく、王城では勇者召喚の儀がおこなわれた。


魔王はこれまでの歴史上、人間が窮地に追い込まれると毎回勇者召喚の儀をおこない、歴代の魔王を倒す、もしくは相討ちとなるため、追い込まれたら勇者を召喚することはわかりきっていた。

魔王は王城で膨大な魔力の気配を察知し、自らの強大な魔力を使って強引にその術へ干渉した。

王城の結界は歴代の勇者が残したものであるが故に強固であり、王城で術を行使している者を殺して止めることは叶わない、ならば術に干渉してエラーを起こせばいい。


本来なら王城で召喚され王国の支援のもと力をつけてから戦いを挑みに来る勇者を、自分の住む魔国に召喚されるよう術式に干渉したのだ。


そして、本来ならば王城に召喚され勇者として力を磨くはずだった人間こと島村善明(シマムラ ヨシアキ)は、いくら勇者といえど召喚されてすぐの無防備な状態で毒沼をさ迷えば死ぬだろうという魔王の思惑通り魔国の毒沼に召喚されたのであった。


勇者が召喚できなかった王城では、儀式に失敗したと思い第二、第三の人間を異世界から召喚するのであった。もっとも儀式の性質上、勇者は世界に一人しか存在できず、たとえ召喚できたとしてもそれは勇者ではなく、ただの人間であるとも知らずに召喚を続けていったのである。



*******************************************************



「おうふ、ここどこ」


島村善明は、高校1年生、まだ15歳の少年である。

祖父母の家におこづかいを貰う目的で遊びに行き、自転車を全力で漕ぎ全速力で夢と希望の詰まったRPGゲームを買いに行こうと走っていたところに飛び出してきた野生の狸さんを避けようとした際、運悪く自転車のまま水田に突っ込んでしまったはずである。


泥へ突っ込んだ衝撃に思わず固く目をつむり、全身にぬるつく泥水の感触を味わい泥だらけを覚悟して目を開くと、目の前に広がるのは紫色のぬるつく泥のような感触の何かであった。

そして所々あるひび割れた土地に乾燥していそうな白色の草と、岩。枯木。


夢かな。と思った瞬間、全身に鈍い痛みが走る。

自転車で水田に突っ込んだせいで怪我をしたのか、紫色の見るからに毒々しい水のせいかわかりかねるが、鼻がひん曲がりそうな異臭もひどくとにかくここを出ようと立ち上がった。


ラスボス手前のダンジョンみたいだなぁ。


あたりを見回して思った。ラスボスまで行くと逆に美しい場所だったりするのだ。手前あたりが1番毒々しい。この毒々しさは中々のものだ。


歩くたびに体に鈍い痛みがくる。本能的に早くここから脱出しなければならないと感じ、毒沼を抜けるため歩く。


白い草の生えている辺りまで歩いて、沼の水に当たらないよう体育座りをした。


何故こんな場所にいるのだろうか。

僕はいたいけな狸さんを殺してはならないと必死に急ハンドルをきって、じいちゃん家の田んぼに突っ込んだはずなのに。


そういえば田んぼに突っ込む直前、眩しかった気がする。

田んぼから毒沼にワープしたのだろうか。

毒沼に突っ込めば田んぼにワープ出来るだろうか。


もしその可能性があっても実行はしたくない。

そう思いながらなんとなく白い草をかじってみる。

塩気のある不思議な味だ。意外と美味しい。


白い草を咀嚼しながらぼーっとしていると、空から怪鳥が飛んで来るのが見えた。羽根のはえていない鳥というより、恐竜図鑑でみたプテラノドンによく似ている。

あんな生き物、地球上存在しているはずがない。


ここは地球じゃないのか?

夢ならなぜ体に痛みがあるんだ?


混乱しながらプテラノドンもどきをじっと見ていると、相手もこちらをみたまま下降し近づいてきた。


喰われる!!

恐怖のあまり目をつむった。ぶわっと風がふいたあとなんの衝撃もこず、ゆっくり目を開くとそこにはプテラノドンもどきがすぐそばに着陸し、白い草を食べていた。


数本食べると、プテラノドンもどきはじっとこちらを見る。

何度か顎で背中をさす仕草を繰り返しており、なんとなく乗れと言っているように見える。


ここから出たい一心で恐る恐る近づき背中に抱きつくと、プテラノドンもどきはゆっくり翼を羽ばたかせ、低空飛行で毒沼から脱出した。


なんというファンタジー。恐竜に乗って空を飛んでいる。


プテラノドンもどきは低空のままゆっくり飛び続け、辺りの景色はしだいに緑豊かになり、世界遺産に登録されそうなほど大きな大樹のそばに降り立った。

プテラノドンもどきからうまく降りられず尻餅をついたが、すぐに立ち上がりプテラノドンもどきの前へ回り込む。


「乗せてくれてありがとう」


お礼を言うと、ゲギャァァァァアとモンスターらしい返事のあと、プテラノドンもどきは飛び立っていった。



「さてと……。ここどこ」



振り出しに戻るのであった。

最初の紫の沼の中よりは環境に恵まれていることは確かだが、ここがどこかわからないという点では同じである。


これまでのことを考えると、これは夢ではなく現実であり、日本どころか地球以外のどこか、もしくは恐竜の時代にタイムスリップしたという可能性が考えられる。


スライムでも見かければファンタジー小説によくある異世界転移だと思うのだけれど、恐竜のようなプテラノドンもどきだけでは確信が持てない。


というか、異世界転移なら勇者として召喚されたり、巻き込まれた一般人が意外とチートだったり、異世界転生ならチートスキル持ってて無双するものが大半なのに、なぜラスボス手前のような毒々しいところに1人で居たのか。


自分の顔は見えないが、着ている服はおじいちゃん家に遊びに行ったままの白いシャツと黒のパンツに、焦げ茶のベルトの服装そのままだった。

白いシャツは残念なことに紫の沼に浸かっていたせいでべっとりはりつくうえに、ところどころ紫色の服になってしまっている。


全身に鈍い痛みがあった状態から、肌がピリピリするだけという状態になったため、あの沼は毒沼のようだった。

幸い、大樹のそばに綺麗な泉があったため服を脱いで泉の水を両手で少しずつ体にかけていく。


ついでに水も飲む。湧き水のように澄んでいるから大丈夫だろう。もし合わなくても腹を下すだけだ。

するとなんということでしょう、8時間たっぷり睡眠をとったあとのように力がみなぎるのです。

まるでラスボスの近くにご丁寧に設置されてあるHP・MP全回復の泉のようだった。



「うん。ここ、異世界だな。」


現実世界に飲んだだけで力が漲る天然水なんて存在しない。

今までに培ったゲーム脳から、異世界へ転移したのだと納得した。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ