第3章~緊張の一瞬~
犯行現場となったこの四葉銀行・土浦支店は、土浦駅から北西へ500メートルほどの距離にある。この辺りは銀行のほかに飲食店、病院、裁判所などが立ち並ぶ目抜き通りで、事件発生時には大勢の人々でごった返していた。それが今は警察による規制線が張られ、現場周辺は一般人は立ち入ることができず、自動車も迂回を余儀なくされている。
サンガンピュールは現場に到着し、すぐに機動隊と合流して話し合いを持った。
隊長「気を付けて下さい。ホシ(犯人)は2人とも出刃包丁を持ってます」
サンガンピュール「出刃包丁かぁ・・・」
自分の武器だけでどうにかなるかは微妙だと思った。彼女は過去にタイキックで戦うチンピラや、信じられないかもしれないが殺人用ロボットと戦ったこともある。現在、彼女の手にある武器は自動拳銃(グロック17)、銀色の筒状のものしかない。他にあるとすれば自分の素手だが、パンチやキックの力は「平凡なもの」と信じていたため、彼女はあまり期待していなかった。
サンガンピュールと機動隊は犯人を刺激させないよう、窓を通して店舗の様子は見ないことにした。警察は犯人グループとは交渉を通じて情報を手に入れていた。犯人グループの人数は確認したところ男2人。両者とも目出し帽を被っており、素顔は一切見えない。だが2人は身長の差が少しあった。区別できるのがせめてもの救いだった。彼らは店舗の職員10人、来客15人の計25人の人質をにらみつけている。彼らの目的は何なのかは分からないが、事態は極めて深刻だ。
一秒一秒と時間だけが過ぎていく。機動隊と犯人グループとのチキンレースの様相を呈してきた。サンガンピュールが教室を飛び出して20分ほどが経過していた。早く戻らなければ他のクラスメイトに怪しまれる。学校の先生も「長いトイレだ」あるいは「もしや抜け出したか」と疑念を抱かざるを得ないだろう。そして、また自分の保護者であるKに迷惑を掛けてしまうのは確かだ。先ほどまでの暖かい陽気がウソだったかのように、サンガンピュールは身体中で寒さや緊張感を覚えていた。
その時だった。実行犯の男2人が共に背中を見せた。今しかない。彼女は黒いセミロングの髪の毛を整えた。とても大きいクリクリとした赤い目の先には、実行犯2人がいた。
サンガンピュールは拳銃を右手に持った。そして人質に当たらないように長身の犯人に銃口を向けた。そして、
パァン!
乾いた銃撃音とともにサンガンピュールはガラスを突き破って店舗の内部へ強行突入した。大けがしないようガラスに対して背を向けた状態で突入したため、店舗内ではうずくまっているように見えた。だがそれでもすぐに体勢を立て直し、もう2発発砲した。
長身の男「うぐっ!」
長身の男は左のアキレス腱と左のふくらはぎに銃弾を受け、倒れた。一方の犯人は短身なのだが、予想通り機敏だ。均衡が破られたという焦りからか、出刃包丁を持って勢いよく彼女へ近づいてきた。その瞬間、サンガンピュールは右腕を前面に差し出し、溜めていた力を短身の犯人に解き放った。
長身の男「うわぁっ!」
短身の男は強烈な見えない力によって100メートルほど吹っ飛ばされ、来客用のソファに足が引っ掛かって床に頭をぶつけた。
長身の男は最後の悪あがきか、右手に引き続き出刃包丁を握ってサンガンピュールに襲い掛かった。だが彼女の左手で止められた。そして挙句の果てに、拳銃から解き放たれた弾丸で出刃包丁は破壊されてしまった。
サンガンピュール「ふっ、実にブザマね」
長身の男は彼女を鬼の形相でにらみつけている。だがこれで事件は終わりではない。機動隊員は引き続き外で待機している。
短身の男「てめぇ、よくもマサを・・・」
もう一人の実行犯が近寄ってくる。
サンガンピュール「マサって誰?」
短身の男「おめーが倒したそいつのことだよ!ぜってぇ許せねえ!」
頭に血が上っているためか、何も考えずに発言し、何も考えずに力任せで近寄っていく。
サンガンピュール「あんたって相当単純な奴ね」
短身の男「うっ!?」
彼女は短身の男に狙いを定め、右腕に力を集中させた。そうしたら1秒も経たないうちに男の体を空中に浮遊させ、天井近くまで浮かばせた。
短身の男「うわぁぁぁっ、もうやめてくれ!許してくれ!」
この期に及んで命乞いのような何かをやり始めた。だが彼女は彼の言葉を一切意に介さなかった。
サンガンピュール「あんたはその言葉を、今日ここで何回聞いたの?」
短身の男「へっ?」
次の瞬間、彼女は右腕を左下へ勢いよく下した。男は断末魔の叫びと共に落下し、職員用のカウンターボックスに頭を強くぶつけた。出刃包丁は既に男の手から離れていた。その時のことだった。
機動隊長「突撃!!」
機動隊約40人が一斉に店舗内に突入し、制圧されたように思われた。実行犯の男2人は制圧され、これにて一件落着かと思われた。サンガンピュールはホッと深くため息をついた。その次の瞬間だった。
ブスリ!!
保護されようとしていた人質の若い女性が、血を流して倒れていた。よく見るとアウトドア用のバックナイフが若い女性の背中に刺さっている。あまりにも突然の出来事に、何が起きたのかサンガンピュールと機動隊員たちは理解できなかった。
女「キャハハハ、バカじゃないの、あんたたち!」
予想外の出来事が起こった。その場にそぐわない非常に下品な笑い声をあげたのは一人の女。犯人グループの人数は2人ではなく3人だったのだ!実行犯の仲間である女が人質役を演じていたのだ!




