第1章~午後の授業~
2004年5月7日(金)。教室の外はいつものような晴れ空だった。正午頃から気温がグングン上昇していっている午後だった。
黒いセーラー服に身を包んでいるようじゃ、あったかいを通り越して、初夏のような暑さすら感じる。13歳で中学2年生の少女、塩崎ゆうこはそのように感じていた。世間ではゴールデンウィークが終わった。そのためか、彼女にとっては気持ち悪いような怠惰な気持ちだけが残っていた。5時間目の国語の授業において、先生の言っていることは自分の身に入らなかった。単元となっている説明文には難しそうな漢字や表現が多数登場し、彼女をよりクラクラさせる。
片や親友の岩本あずみはどうだろう。他の多くの生徒が寝てたり、よそ見していたりする中で、黒板と先生に目を向け、ノートを取っている。大真面目に授業を受けている親友とは比べ物にならない。
時刻は13時30分。5時間目が終わるのは14時5分だ。
ゆうこ「あぁ~あ、あと30分以上もあるよ・・・」
深いため息をつきながらそう感じた瞬間、心臓に何かしらの違和感を覚えた。マナーモードとはいえ仕込んでおいた携帯電話に着信が来た証拠だ。しかし彼女にとってはこれが、何気ない日常を守るための合図だった。
ゆうこ「先生!」
教室中の生徒や教師の視線が彼女に釘付けになる。
ゆうこ「・・・ちょっとお腹痛いので、トイレに行ってきます・・・」
塩原先生は呆れてモノも言えないような表情だった。
塩原先生「いいですよ、行ってきて下さい。ただ、塩崎さんはこれで入学してから何度目になるんでしょうかねぇ」
他の生徒からも陰口を叩かつつ、教室を出る。生徒の中で唯一、岩本あずみは笑わず、陰口も叩かなかった。それは彼女にどんな事態が起こったのか察したからだった。信頼しているあずみ以外の人間からの悪口・陰口はこれは彼女にとってどうでもいいこと。自分のやるべき事をやるだけだ。途中に設置された掃除用具入れから茶色の服を取り出し、3階の女子トイレの個室に駆け込む。そこで携帯電話の着信をチェックする。
ゆうこ「やっぱりだ」
予想が的中した。町で重大な事件が起きていた。




