彼女の起源
「お前には期待していない、と言ったな」
天にそびえる様な、父の声が聞こえました。
それは威圧的で恐ろしく、到底逆らえないものでした。
「忌み子と、関わるな。お前には期待してない。だが、失望まで、させるな」
射殺すような、目。
私は抵抗というものを知らずに生き、いつも受動的でした。
けれど、この時だけは、カルマに会えなくなることがどうしても嫌で、私は生まれて初めての口答えをしました。
「いや……です」
「なんだと?」
「わ、わたし、は……」
怒り心頭。見下したような目つき。
そんなものが降り注いできます。
はあ、とため息。そして、父は私にこう言いました。
「忌み子がなんなのか知らないようだな。アレは潜在的な裏切り者だ。我らが封魔を殺す、クズだ」
「そんな、こと」
「お前は何も知らない。なのに逆らうのか? いいご身分だな」
冷たい、目。
「何度も言わせるな。お前には期待していない。だが、せめて、失望まではさせてくれるな」
言い放たれた言葉は、どうしても私の心を傷つけました。
父は私になにかを与えてくれたわけではありません。
しかし、それでも彼は私にとっての父で、数少ない、絆でした。
「お父様、お願いです。カルマは、優しいんです。そんなことしないんです。だから、だから……」
私は言葉を知りません。
説き伏せ方を知りません。
だから懇願しました。
それしか、できることはなかったから。
「ダメだ」と一言。
そして、扉の閉まる音。
◇
「なんだと!」
怒声が鳴り響く音。
「あの子には才能があるから、私がもらうわ」
「子を奪い取ろうというのか? 歌姫ごときに、そんな権限があるとでも?」
「じゃあみんな大好き番人様でも呼んでこようかしら? 結果はどうせ同じこと。観念して引き渡してよ」
「……貴様」
「第一、ほぼ軟禁状態じゃないのー。名門のお家事情なんて私は知らないけど、使わないのならもらってもいいわよね?」
「……どこでそれを」
「バンは何でも知ってるんだから! 情報は暁の執行者の専門よ?」
「……連れていけ」
「はいはい、素直でよろしい♪」
◇
「あなたには才能があるよ♪」
そう言って私を連れ出したのは、この里の歌姫。ジャスミンと呼ばれる、番人様の伴侶でした。
若草色の髪の彼女は、よく笑い、常にご機嫌な明るい方です。
「旋律を読み取ることかあ。能力が偏ってるわね~。ここまでの希少種は聞いたことがないわ」
「あの、私は」
「ん? ああ、これから私についてきてもらうわ。そこでいろいろなことを学ぶのよ。 どう、楽しみ?」
柔らかな微笑み。
悪意や冷酷さとはどこまでもかけ離れた、陽気な声。
「でも、私は」
「どうしたの?」
「……カルマは?」
「あなたがよく遊んでいた男の子? それがどうしたの?」
「……会いたいんです。あなたについていくなら、一度ぐらい」
勇気を振り絞って言ったひとこと。
ジャスミンの明るさがあったから、だから意思表示が行えたのかもしれません。
情けないことですが、これが私にとっての精一杯でした。
「会わなければいいじゃない。約束、したんでしょ? なら、心配しなくても大丈夫!」
「でも、でも……」
彼女は笑って、しかし、考え込むように少し黙ります。
そして、言いました。
「それって、あなたのわがままじゃない?」
邪気のないそのひとことは、どこまでも強烈でした。
わがまま、わがまま。
確かに、私は彼に頼ってばかりでした。手を引いてくれるのはいつも彼の方で、私は自分の言いたいこと、したいことを言わず、カルマがそれをくみ取ってくれてばかり。
すべてがそうというわけではありませんでした。
しかし、私が彼に頼りすぎていたのは、事実。
「どう、すれば」
泣きたくなります。
重荷だったのかもしれない。邪魔だったかもしれない。
誰にも望まれていない私と一緒にいてくれたのは、彼だけでした。
なのにそんな好意に縋って、それで……。
「強くなろう!」
明るい、単純な答え。
それが、ジャスミンの答えでした。
「つよく……?」
「カルマとは会わず、あなたが逆に助けれる立場になるように、強くなればいい! できる?」
茶茶目っ気のあるウインク。
私はまだ子供で、単純でした。
だからそんな風に言われると、うまく乗せられるというか、背中を押されてしまうというか。
「できます!」
力強く、答えました。
それで解決するのなら、問題ないと思ったから。
「決まりね♪」
彼女は明るく笑います。
なにもできなかったこと。
暗がりでひとりでいたとき、手を伸ばしてくれた男の子がいたこと。
それが、私の起源でした。




