抱える秘密
なんでこんなに疲れているんだろう。
我に返った後、最初に思ったのはそんな感想だった。
みんなも似たような感じだ。
なんだか少し虚しい、そんな感じに。
そうやって落ち着いてきたころ、扉の方から足音が聞えた。
階段を下りてくる、足音。
数は二つ。
第二長老以外にも誰かがいる。
俺たちは一応武器を選び終えていた。
結構長い時間を与えてくれたから、これでまだ選べてませんでした、じゃ、恰好がつかない。
扉から現れる影。
それは第二長老と、案内人だった。
大長老はともかく、案内人まで、どうしてここにいるのだろう。
そう思いながら案内人を見ると、ひとつ、武器を抱えているのがわかった。
そして、
――どくん、と脈打つ音。
激しい既視感。
知っている感覚。なにかを、俺は知っている。
それはなんの変哲もない武器だった。
おそらくは、ハーフ・ソウルウェポンであるので、特殊ではあるが、ここにある武器と特別違っているわけではない。
そして、初めて見た大鎌のはずだ。
なのに、なんで既視感のような感覚があるんだろう?
「決まったかな?」と第二長老が言う。
俺以外の皆が頷いた。
と、なると、第二長老が俺の方を向くのは必然となるわけで。
「決まっておらんのか?」
「……少し、待ってください」
心臓がのたうつ。そう、錯覚してしまいそうなほどの胸のざわめき。
俺はゆっくり手を伸ばす。
「その……武器……」
「……? 今できたばかりのこれか?」
――それで、確信した。今できたばかり。
案内人が抱えている大鎌。
ハーフ・ソウルウェポン。
なんの変哲もない、普通の、魂の武器。
俺はこくこくと頷く。
それにこだわらなければならないわけではなかった。
だが、そうしなければいけない気がする。
それは責任感や罪悪感?
……そういうわけじゃない、けれど。
うむ、と第二長老が言った。
「まあ、どれを選んでも変わらんがな。所詮、ハーフはソウルウェポン制作過程における失敗作。特殊な能力が付与されない、同一の武器じゃ。渡してやりなさい」
はい、と案内人の声。
――失敗作。
それを聞いて、やけに心が痛む。
気づく。ハーフ・ソウルウェポンとソウルウェポンの違い。
俺が、業魔を飼っているからだろうか。ハーフ・ソウルウェポンは、ソウルウェポンと違って、魂の流動性がないのだと、なんとなくわかった。
ソウルウェポンとは、決定的に違う。
言うならばハーフ・ソウルウェポンの内臓されている魂とは物だ。そこには感情などの揺らぎが感じられない。
鳥が死ぬのと、木が壊れるのでは、どれぐらい心の痛み具合が違う?
そういうことだ。アレは、生きていない
思い出す。
四肢をもがれ、光を失った若者。
青年は確かに絶望していた。でも、完全にというわけではなかった。
これから光が見えるようになるかもしれない、と語ってくれた。また君と共に在れるかもしれない、そんなことも。
――私は魂の武器となる。
しかし、失敗したのだ。
彼は死んだ。
俺になにかを伝えようとしてた若者。
まだあきらめていなかった。
鬱めいた暗い雰囲気を引きずった、それでも抵抗的だった、その心境。
もっと、彼の話を聞くべきだった。
俺は、番人様にかかわる話が怖くて、逃げた。こんなことになるなんて、思いもせず。
彼は武器になった。
身動きがとれす、光を見ることができない、ただの物質体。
そのハーフ・ソウルウェポンを受け取る。
気のせいか、やけに手になじんだ。
生まれた時から手にあったような、そんなような。
「……なにをしてある」
第二長老の叱責に似た声。
動揺しながら、その顔を見上げる。
「いや、わざとではないのか。おぬしはこの瞬間にその武器と契約したのだぞ。……無意識、か。それにしても契約の完了が速すぎる」
覗き込まれる。
力強い瞳。
しかし、ゆっくりと首を振り、諦めたかのようにため息をついた。
「よほどその武器が気に入ったのじゃな。まあ、封魔一族の武器センスは個性があって独特じゃ。どれも同じような形なのにこだわりを持つものも多いし、そういうことなのだろう」
そういうわけで、この武器の所持を許された。
……無意識に、契約。
感情的なものなのかもしれない。
俺のこの武器に対する同情や後悔、そういったものが、これを手に取った瞬間溢れた。
生きることを諦めていなかった若者。しかし、死んでしまった……。
そういうことを考えるとやるせなくなる。生きようとしていたのだ、彼は。
しかし、失敗した。第二長老はハーフ・ソウルウェポンのことを失敗作と言った。それに俺の心がざわめいた。
悲しくなったのだ。そんな言い方、しなくてもいいじゃないかって。
別に悪気があったとか、そういうわけではないのはわかっている。
所詮、この思いは感情論。論理的なものじゃない。
だから、無意識に契約が行われたのかもしれない。
溢れてしまった行き場のない感情が、この武器に繋がった。
あるいは、魂に特質性がある業魔だから、そうなったのかもしれない。
予想でしかないことだけど、不思議とこの二つが関係していると確信した。
業魔を飼うもの。それはなにかに精通していて、知識を持っている。
――ただ、押さえつけられているだけで、知っていることは多々ある。
首を振る。
妙な予感。蝕むような、俺を受け入れようとするような、そういう感覚。
門がうっすらと開いているのを感じていた。
しかし、そこをくぐるには、まだはやいと、俺は知っている。
忘れることにする。
誰かが、俺が門をくぐろうとしたのを止めていた。そういうのを思い出して。
それから、皆もハーフ・ソウルウェポンとの契約を行った。
全員無事成功したらしい。
他の封魔一族の前では見せびらかさないようにと強く言われる。予想していたことだ。
そうしてまた、いつもの学園に帰る。
途中で悪魔は現れなかったし、バカ騒ぎもできて楽しかった。
……誰にも言えない秘密を持った。
四肢をもがれた若者と出会ったこと。
そしてその魂の武器を持っていること。
番人様にすら、相談できない。




