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死の気配

 

「交代ですよ」


 まだ暗い。

 なんだなんだ、と思ったら目の前にディンがいた。

 ……そうか、不寝番役の交代か。


「わかった。ご苦労様」

「はい、あとは任せます」


 そう言ってディンは横になった。


 焚き火はまだ燃えている。俺たちが寝ている間にもディンが薪を追加していてくれたようだ。

 俺もそれに倣おうと、薪を集める。


 あまりみんなから離れすぎないように小枝や、落ちている木々を拾っていく。

 フクロウと目が合って手を振ってみる。ぷい、と顔をそらされた。地味に傷ついた。

 ……偶然だろう、たぶん。


「ふう」


 結構な量の薪を集めた。これで俺の次の不寝番役をやるやつが薪を集める必要もなさそうだ。


 ぼんやりと空を眺める。

 黒々とした、吸い込まれそうなぐらいに深い空。隙間には星が瞬く。

 月光が辺りを照らしている。

 これがなくなったら夜はどうなってしまうんだろうかと、とりとめのないことを考える。


 暇だからか、いろんなことを自然と考えてしまう。

 これからどうなるんだろうか、最終的に死んだらどうなるのかな。

 そういうことを考える。

 まあ、意味のないことだ。


 思い、はせるのは悪魔のことだ。封魔一族に酷使され、消耗される化け物。

 俺だって何体も倒してきた。番人様との修行の時に、実践的な戦いを学ぶために、殺したし、それ以外の時だって何匹も殺した。


 忌み子は悪魔の声が聞こえるということ。

 議会でそれを言われ、お前は悪魔だ、とでもいうような視線を受けたこと。


 忌み子だからと、成績優秀者に選ばれたら憎まれたこと。

 それをしなかったのは、俺のことをよく知っている周囲のひとだけだったということ。


 ……ばからしい。俺は俺だ。忌み子だろうと、悪魔の声が聞こえようと、封魔一族だ。

 周りがそう認めていなくても、それは間違いがない。

 封魔一族の特徴が多く当てはまっている。


 ――忌み子は、封魔一族の裏切り者。


 あえて考えなかったことがある。

 忌み子の多くは封魔一族を裏切った。

 それは、なせ?


 決定的に普通の封魔一族と違うのは、能力が高いことと……悪魔の声が聞こえることだ。

 だがそれがどうしたというのだ? 悪魔は欲望につけ込み、囁く。

 しかし、そんなこと、知っているのなら引っかかりようがない。俺が封魔一族を裏切るなんてありえない。


 確かに、悪魔に対しての同情がある。しかし、それはただの同情であって、封魔一族よりも優先されるものではない。やつらがどれだけ苦しもうと、封魔一族のためならば……結局、俺は封魔一族の方をとるだろう。


 だが、悪魔に対する同情なんていうものがそもそも異端だ。明らかに、その面だけ見れば俺だけが狂っている。


 ……ほかの種族はどうなんだろうか。人族は? エルフは? ドワーフは?


 彼らは封魔一族のように悪魔が苦しむことに一切の同情をしないのだろうか。むしろ苦しめることを喜び、当然のことだと嬉しそうに言うのだろうか?


 ……バカなことを考えた。答えがなんであれ、俺のすることはかわらない。悪魔がいくら苦しもうと、関係のないことだ。


 ――ひどく、嫌な雰囲気。


 はっ、となる。

 考え事を中断。

 なにかがおかしい。

 なにかはわからない。しかし、うるさいほどの警報が、頭のなかで鳴り響いている。


 ――世界が崩れている。どこかに穴が開いている。


 完全な世界に歪な穴。それが開こうとしている。

 なぜだ? 俺はなんでこんなことを知っているんだ?


 自己を主張する存在がある。

 己の内。轟々と緑に燃える門。


 ――業魔の門。


 これがただの錯覚なのか、わからない。

 しかし、手遅れになるのだけはダメだ。


 俺はみんなを揺すって起こす。

 切羽詰まった声で、焦るように。


「……おー、どした?」

「……なんです?」

「……んー、なんなの?」


 最初は寝ぼけていた彼ら彼女らは、すぐに目を覚ました。


「何か来る。俺たちの手には負えない。気配を隠しながら逃げろ!」


 切羽詰まった声。


 わけがわからない、という顔をしていたが頷いてくれた。

 これでなにもなかったら俺への信用はなくなりそうだ。

 まあ、そっちの方がましなのだが。


 俺たちは走る。目的地の方だ。

 暗い森の中、草木をかぎ分け進んでいく。

 うっとおしい枝が体にまとわりつく。


 ――穴の感覚。


「……ぐ」


 激しい頭痛。頭を押さえてうずくまる。

 イメージが流れ込んでくる。世界に、穴があく。


「大丈夫かカルマ!?」


 ライルの心配そうな声。それを手で制して先を促す。俺は大丈夫だ、と。


 ――有象無象がひしめいている。穴はとても小さかった。そこにはぎりぎりで、穴を通れそうなやつが立っている。

 雑魚どもがそいつらを押し上げる。そいつらを世界に、送り出すために。


「や……ば、い」


 ふらつく俺にライルが寄り添う。たぶん、俺の体調がまずいのだと勘違いしたのだ。

 だが、そういうことではない。今からくる奴らはとてもではないが手に負えない。もしかしたら、大人たちですらもてこずるような……。


「ディン! 俺たちでカルマを支えるぞ!」

「わかりました!」


 今や頭痛は耐えがたいほどに響いていた。

 とても立ってはいられない。しかし、助けられている場合ではない。


「はやく……はやく行ってくれ!」


 うわごとのように呟く俺を、ライルとディンが肩で担ぐ。

 俺はジタバタと暴れるが、それを抑え込まれる。


 こんなことをしてる場合じゃないのに。

 こんなことをしていたら取り返しがつかなくなるのに。


 今やこの友情が邪魔だった。だがこの友情がなければそもそも信じてはくれなかっただろう。

 二律背反。対立する事実と事象。


 ――世界に穴があく。


「――あっ」


 三体、こちらに入ってきた。

 強い。これはまずい。

 一体だとしてもぎりぎりの相手だ。それが三体、それは――。


 ――穴が閉じる。悪魔どもが、世界に忍び込んだ悪魔を応援している。


 そのおぞましい気は、皆にも感じ取れたようだった。

 ライルは茫然とし、ディンは思わず俺から手を放した。

 ラタリアは泣き出しそうなほどに震え、地面に座り込んでいる。


 そして最悪なことに、この緊張でみんなの陰術が解けてしまっていた。

 つまり、悪魔どもが俺たちに気づいた。


「逃げるぞ!」


 頭痛はすでに収まっていた。もう、走れる。

 みんながはっ、とした顔になる。それでも恐怖は抜けておらず、足に力が入っていない。


 特にその状態がひどいのはラタリアだ。

 一方、ライルやディンはなんとかなりそうではある。

 俺はラタリアをおぶさる。


「大丈夫だからな」と声をかける。

 彼女は震えながら頷いた。


 俺はライルとディンに、ニヤリ、と笑って見せる。

 実際は強がりだが、今はそれが必要だ。


「まさか、走ることさえできないってわけじゃないだろう?」


 そう、言い放つ。


 ディンとライルは青い顔で笑って見せた。


「はっ、まさか。俺は天下の鋼の名門様だぞ? 末席とはいえ欠片ほどの誇りは持ってるつもりだ」

「同文です。法の名門の僕が、冷静さを失うわけないじゃないですか」


 よし、なんとかいけそうだ。


「いくぞ!」


 走り始める。

 悪魔どもはどんどん距離を詰めてくる。まだ余裕はあるが、このままでは……。


「ガウウゥ!」


 さらに悪いことに、突然、目の前に魔獣が現れた。犬型だ。

 ここは、魔獣の群生地だ。

 たしかに、走り回っていれば、遭遇するのは必然か。


 一刻の猶予もない。手加減は致命だ。だから――。


 ――番人様、ごめん。


 封印を解く。

 いま、ここで。


「ライル、ラタリアを頼む」

「まかせろ」

「え、わっ、ちょ」


 ラタリアをライルに放る。

 ライルがしっかりとキャッチ。


 武器を構え、魔獣を見つめた。


 ひとつひとつ、外れていく鎖。己の内で星装気が吹き荒れる。

 なにもかもに縛られない。体が軽い。風みたいな感覚。

 解放された気が今までの力を凌駕する。

 俺はゆっくり目を開く。


「――いくぞ」


 邪魔な魔獣。弱いくせに行く手を阻む障害物。

 怒りは感じなかった。そこにあるのはただただ冷静な己の核。


 冷静であれ、残酷であれ。

 一切の容赦はない。必ず殺す。


 魔獣が身をすくませる。

 怯えるみたいに、まともな知性があるやつみたいに。


 俺は地を蹴りつける。

 ヘクト―ル並みの早さだった。矢のような、鋭さだった。


「封魔一閃」


 一息でバラバラに。

 苦悶の声をあげる間もなく、魔獣は死んだ。


 辺りに血の匂いが漂う。


「カルマ……あなたは」


 そう言えばディンは俺の全力をしらない。ライルも星装気の開放についてはしらないはずだ。

 二人は茫然とこちらを見ている。畏怖に近い表情。


「ワオオオオオオン!」


 遠吠え。当然、今肉片になっているやつが吠えたわけではない。

 近くに仲間がいた。そいつがこの肉片を見て、ほかの仲間を呼んだ。


 いまいましい。一匹残らず殺してやりたいところだ。

 こいつらは俺たちの邪魔をしに来るだろう。


「ど、どうする?」


 ライルが不安そうな声をあげる。

 俺たちは追い詰められている。


「決まってる。このまま走る。俺が前を先行して魔獣を殺していくからついてきてくれ」


 歯噛みする。これではダメだ。

 今、里の方向へと逆戻りしているが、あまりにも距離が遠すぎる。

 途中で追いつかれるに決まってる。


 俺たちは進んでいく。

 途中で犬以外の魔獣にも会った。

 猿だとか、イノシシとか、いろいろだ。


 どれも一息でバラバラにしてやった。

 それを見ていたやつはたいてい逃げたが、中にはしつこく追いかけてくる奴らもいた。


 三体の悪魔はその習性からか、魔獣に襲われていないようだ。

 彼らは残酷にして世界一の嫌われ者。できることなら関わらない。関わらざる得ない時というのは相手から攻撃してきた時ぐらいだ。

 妨害ありで進む俺たちと、妨害なしで進む悪魔たち。

 これではいくら森が得意な封魔一族でも追いつかれる。


 大きめの猿の魔獣が出現する。

 ここらにはいないはずの強い個体だと、すぐにわかった。

 死んでしまえ、と呪う。こいつは魔法を使う。これぐらい育った個体なら。


 指先がこちらに向けられる。魔力の集約。


「僕たちも手伝いましょうか?」と疲れているディンの声。

「必要ない」と俺は言った。


 ――魔法が放たれる。


 風の魔法だ。しかし、ぬるい。

 遅すぎて止まって見える。


 所詮、こいつらは畜生にすぎない。

 殺すのは食べるためで、それ以上でもそれ以下でもない。

 そんなやつが――。


「邪魔を、するなぁ!」


 正面から魔法を受ける。

 体に食い込んでいく風の刃。

 しかし、封魔一族の対魔力は見事にそれを耐えてくれた。


 正面から受け、突っ込んでくることに驚いたのか、猿の魔獣が距離を取ろうする。

 しかし、当然ながら遅すぎる。


 喰らいつくように大鎌を突き立てる。苦悶の鳴き声と、上がる血しぶき。


 返しの一撃で両足を切り裂いた。バランスがとれなくなった猿の魔獣が倒れこむ。


「封魔一閃」


 水平へと薙ぎ払う一撃。

 ぱっくりとその体が割れる。

 ここからは、猿の上半身と下半身の断面がよく見えた。


「先を急ごう」


 血にまみれた俺の姿はさぞおそろしかっただろう。

 しかし、彼らはそんな素振りを見せずに俺についてきてくれた。


 ……しかし、もう無理だろう。

 今ので大幅に時間をくった。

 もう追いつかれるのは確定だ。


 焦る脳内で恐怖をあげる声がある。


 ――逃げろ、逃げろ、そんなやつらなんておいて逃げちまえ。そうすれば助かる。ひとりだけなら、三つの囮を使えば逃げ切れる。


 首を振る。

 そういうわけにはいかない。

 俺は番人にならなければならないのだ。身の回りの友人すら守れずに里のすべてを守る?


 ばかげてる。すべてを守る者になるのならこのくらい守って見せろ。

 そうでなければ意味がない。俺が存在している価値は、意味は、それがなくては成立しない。


 みんなの顔からは疲れがでている。

 もう限界だ。助からない。


 歯を食いしばる。

 どうしてこうも、こんなことになるんだ。


 姿が見えなかった悪魔どもがついに追いつく。まだ距離は遠いが、姿が見えるぐらいの距離だ。


 いろんな動物をぐちゃぐちゃにして引っ付けたような羊頭の悪魔。

 大きな羽を持ち、虫のような顔をしている悪魔。

 二本足で立っているくせに、頭が犬で、それが二個もある歪な悪魔。


 どれも二足歩行。上級になりそこなった中級と言ったところか。

 俺がいつも戦う悪魔よりも、数段強い。


 これはさすがに、助かりそうにない。

 全員は、という注意書きがつくが。


「……囲まれる前に、行ってくれ」


 笑いながらそう言った。


 ライルが信じられないという表情をした。


「お前、死ぬ気か?」

「…………まさか」


 やらなくてはならないことをするだけだ。


「いきましょう、ライル」

「……は? お前、何言って」

「全員は助からない。たぶん、それが最善策なんです。僕らでは一分も持ちそうにないですし。そうでしょう? カルマ?」

「そういうことだ」


 話がはやい。こういうとき、ディンは冷静で助かる。


 だが、なおもライルは首をふる。


「い、嫌だぞ」

「……」

「おいていけるわけないだろ! 今までのことはどうするんだよ! 生きてなきゃ、なんにも意味がないじゃんかよ!」


 それは、感情論だ。

 ライルだってそれはわかっているのだろう。


「ライル、今行かなきゃ絶交だ」

「好きにしろ! 絶対置いていかないからな!」

「……」


 こうなると手段は限られてくる。

 情にあついライルだからこそ、この状態は並大抵では動かない。

 そもそも、第一次成長期の子供が圧倒的な悪魔三体に襲われるというのが異常なのだ。

 俺が先導しなければ、最初の初動さえも怪しい。

 今は冷静なディンだってそうだ。どんな大人な子供だって、この状況は厳しすぎる。


「ラタリア、もう、走れるよね」

「あ、うん。大丈夫だけど」

「それならよかった」


 泣きじゃくるライルのもとに歩み寄る。

「……カルマ?」とつぶやく彼の腹を殴りつけた。

 ぐったりと力が抜け、ライルの意識が消える。


「はい、ライルを頼んだ」

「いいんですか?」

「ほかに方法ないし」


 わざと明るくそういって見せる。

 仕方ないのだ。手段は限られているのだから。


「待ってよ!」


 ラタリアの声。


「なんでよ。男だけで納得して。私の気持ちは? 私が嫌だっていう気持ちは、どうなるのよ……」


 泣いている。

 最初は俺に冷たかった女の子が、いかにも関わりたくないという態度をとっていたこの子が、泣いている。


 俺は彼女の言葉が聞えかったフリをした。


 近づいてくる悪魔。

 一匹が俺たちを指さし、笑っている。

 こけにするような、今から殺してやるぞと、嘲笑っているような。


 カッと頭に血が昇る。

 だがそれは一瞬だった。


 血は冷え、冷酷に。

 のぼせ上がるような狂気を感じる。

 おぞましいほどの集中力。妄執に近い執念。


 俺は死ぬんだろうか、と考える。

 死ぬのは怖いか、と胸に問えば、意外とそうでもない。


 俺が怖いのは見捨てられることだ。

 誰からも価値を見出されない。

 孤独でひとりぼっち。そういう状況に比べれば、こんなものは屁でもない。


 ――ずっと一緒にいようね。


 誰かの声が強く脳を刺激する。

 それは不必要で不毛な未練だ。


 そう、俺は死ぬのは怖くない。

 やり残したことは確かにある。

 しかし、その一切を断たねばならない。

 考えてはならない。死ねば誰に会えなくなるとか、そういうことは。


 全身が冷たくなっていくような気がした。

 血が冷え、次の瞬間熱くなる。


 悪魔たちの声が聞えた。

 俺たちを殺してやろうという声。

 いたぶってやろうという声。

 それを楽しみにしている、醜い感情。


 遂に頭の中から感情が消えた。

 猛烈な殺意だけが、この身に宿る。


 ゆらり、と武器を構える。

 激しい憎しみが心を焦がした。


 俺たちをいたぶる未来を喜び、笑っている、悪魔ども。


 ――殺してやる、と心の中で唱える。


「――殺してやる」


 時が凍った。

 それはあくまで錯覚なのだろう。しかし、俺にはそう感じられた。


 ――闇夜を切り裂き、月光の元に降り立つ影。


 圧倒的な存在感が、地面に着地した。

 その瞬間、なにかが空気を震わせた。

 ふわり、と産毛が逆立つような感覚。


 長いマントをなびかせ、巨大な大鎌を持って。

 そいつは仮面をつけていた。

 複雑な紋章の装飾が、いっそう恐ろしさを掻き立てる。


 ――まるで、死神だった。


 そいつは音もなく、姿もなく、気づけば俺と悪魔の間に立っていた。


「俺たちの一族を手にかけようっていうのか、悪魔どもめ」


 仮面をつける時。

 それは残酷で無慈悲である姿が必要だと迫られたときだ。

 一切の容赦はない。決して加減をされることはない。


 優しさは許されない。間延びした口調も何もかも、邪魔なものは置き去りに。


「殺してやる」と死神は――番人様は呟く。


「――殺してやる」


 ――おぞましい気。


 悪魔のものなど比べ物にならない。

 レベルが違う。次元が違う。


 その口元から覗く歪んだ口元は、残酷で、絶対に殺してやるという決意を秘めている。

 番人とは、封魔一族のために脅威を刈り取る大鎌。

 里の最高責任者にして最大戦力。

 すべてを守る者。


「ギャアアアア!」


 恐怖にかられた悪魔の一匹が死神に飛び込んでいく。

 あとの二匹もそれに続いた。

 しかし、


 トントン、と軽い音。

 影も形もなく、死神の姿は消えていた。


 見失った影を探し、悪魔どもはあたりを見渡す。

 だが、そんな行動は無駄なばかりか、致命的だと気づき、すぐに飛びのこうとした。


 ――死神の足音は遅れて聞こえる。


 ひとつの首が宙を舞った。


 その場に立つは緑の眼光を漂わせた死神の姿。

 ゆっくりと残りの悪魔の方へと振り返る。

 緑の残光が、尾を引いている。


「――殺してやる」


 圧倒的だった。

 なにもできず、ただ蹂躙されるだけの的。

 死は決定していて、あとはそれを待つばかり。


「ガアアアアア!」


 悪魔の一匹が俺たちの元に突っ込んできた。

 それも当然と言えば当然のことだ。


 死神は俺たちがピンチの時に現れた。そこから推測されるのは俺たちを守るために、現れたということだ。

 それならば、人質にしてしまうのが判断としては妥当だ。


 勝機があった、と悪魔の目が光る。

 笑っている。未来の復讐劇に、思いはせて、喜んでいる。


 ずい、と俺は一歩踏み出す。

 俺がやらなくてはならない。

 守れるのは俺だけだ。


 目の前は明らかな強敵。しかし、こいつは油断している。

 そこに付け入る隙はある。


 大鎌を構えた。

 立ちふさがり、正眼から悪魔を見つめる。


「――なにをしている」


 悪魔の体が持ち上がっていた。俺の目の前で、頭を掴まれて。


 死神からあふれる、怒りの声。

 力で頭をつぶされ、悪魔はもがき、苦しんでいた。ジタバタともがき、逃れようとのたうつ。


 突然悪魔の姿が消えた。

 いや、この死神が目にもとまらぬ早さで投げたのだ。


 向かう先はもう一匹の悪魔。

 勢いよくぶつかり、二匹が重なる。


 その瞬間、鎖が体を貫いた。

 串刺し。二体まとめて、地面に縫い付けられる。


「死ね」


 一瞬で移動した死神が二匹の悪魔を切り裂いく。

 右腕を、左腕を、右足を、左足を。


「我らが一族へ、牙をむいたことに対する報復を」


 射殺すような眼光。

 そして、最後に、首を掻っ切られて、悪魔たちは死んだ。






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