青春だよな。そうだな
◇
はぐれた。
「おい、どうしてくれる」
「……」
「どうしてくれる!」
「あー、旅には予想外のことはつきもの、だよな?」
「いや、そうだけど」
ラタリアとディンの姿は見えない。
今は夜だ。魔獣は夜行性だ。もし、うかつに存在を大きく示してこの位置を知らせたり、大声をあげたりしたら、魔獣がよってくるだろう。
今、俺とライルは魔獣のテリトリーに入り込んでしまっていた。予定では昼のうちにぬけるつもりだったのに。
荷物を下したライルがその場に座り込む。
「もう一歩も歩けん……カルマ、すまんが捜索頼めるか?」
「わかった」
荷物を背負って走っていた分、ライルの疲労は濃い。
失敗したなあ、と思う。
そもそも俺がバカ単純にライルについていったのもダメだった。いや、楽しかったのだが、ちょっと夢中になりすぎた。
「青春の代償……」とライルが呟く。
一瞬かっこよく聞こえたが、よく考えれば、別にそうでもなかった。
「あーライル。一応気配隠しとけよ? 夜は魔獣が活発になるから、数が多いとケガではすまなくなるかもしれない」
「わかってるよ」
「あと変に動いたりしないでくれよ? 迷子になるからな」
「お前は五歳児の母親か」
ライルは試験の時も平気で寝る様なやつなので不安なのだ。
「そのことはいうな!」
声に出てたらしい。
俺はディンとラタリアの捜索を開始する。
すぐに見つけることができた。そう遠くない位置に、いた。
ラタリアはぴんぴんしていた。むしろ疲れているのは男のほうで、ディンは歩くのもやっとという状態。鎖で戦う法の名門だから、こういう肉体系のことにはあまり強くないのかもしれない。
そんな満身創痍な彼は恨みがましい目でこう言う。
「……ばかなんですか?」
それについて、特に否定する要因がないことは悲しいことだ。
「まあまあ、一度しかない十六の夏だし」
「あんまり僕らの寿命でそれを考えるのもどうかと思いますけどね」
「たしかに」
青春っぽいとかなんとかいってバカをやっていたのは自覚している。
「じゃ、いこっか」
「わかりました」
「そうね」
ライルのもとに戻ってくる。
予定調和的というか、なんというか。
予想通り、彼はぐっすりと寝ていた。
足と手を組み、こっくりこっくりと頭を揺らしている。結構、器用な寝方。
……どれぐらいの時間離れていたんだっけ? 三十分ぐらいか?
それにしてもライルは眠るのが好きなようだ。
はしゃぎ疲れたんだなあ、仕方ないなあ……なんていう風にはならない。
「起きろアホー」
軽く揺さぶる。
ライルはゆっくりと目を開けた。
「……」
「……」
「……違うぞ?」
「なにが?」
「俺は寝てない」
「へえ」
「修行僧みたいなもんだ。そうそう座禅。精神を研ぎ澄ませていたんだ」
「それはよかった」
もう、こういうものだと割り切ることにしよう。
「おい、反応適当だな。もっと丁重にツッコミを入れてくれ。ウサギは構ってくれないと死んじゃうんだぞ」
「たしかに、こんなところで寝てたら魔獣に襲われてほんとに死ぬな」
たしかに、と彼は頷く。
まったくもってその通りだ、なんて付け加えながら。
「とれあえずここらで野営しようか」
それに対して皆がうんうん、と頷く。異論はなさそうだ。
野営の準備を始める。
まずは獣がよってこないように火を焚き始める。魔獣はほかの普通の動物と比べたら好戦的だが、火を嫌う。よほどやばいやつでなければ近寄ってくることはないだろうし、よほどやばいやつなんてこの辺りには生息していない。
そういう危険なやつがでたら番人様や、暁の執行者あたりが刈り取っている。ここらに生息するのは数ばかりが多い、弱い個体のやつぐらいだ。
そんなこんなで準備は完了した。
ライルが荷物をどん! と土に打ち付ける。
「それじゃあお待ちかねのディナータイムだな」
おそらく待ちかねていたのはライルぐらいだ。
「もう寝ません?」
ディンは疲れ果てている。
「ばかやろう! 今からが本番じゃないか! ここで寝てどうする!」
「お前がいうな……!」
と俺が突っ込む。
ほんとにライルはここで寝てたからな……。
ライルは鍋を出した。それを設置し、火を起こす。
さらに水をいれ、おもむろに肉を入れ始めた。
「ほら、お前らもなんかいれろ。闇鍋するぞ」
「闇鍋?」
「鍋に自分が好きな食材をいれていくんだ。各自が好き勝手やっていい。で、それをみんなで食べる」
そう言いながらも箸をみんなに配っていく。箸は人族が開発したものではあるが、この程度なら鋼の名門の連中だって作れるから数はたくさんある。
ライルが持ってきた食材を見てみる。なるほど、たしかにいろんなものがあった。
魚に肉、人族の作ったお菓子に、ほんの少しだけの野菜。封魔一族の里でとれるパキリや、もちもちなんかもいれてある。
俺は肉ともちもちを入れた。湯気が立ち、ぐつぐつと茹でられていく食材。
出来上がった肉に塩をかけ、食べてみる。
ジューシーな肉汁が口の中に広がっていく。
「普通においしいな」
「だろ?」
もちもちが柔らかくなってきたので食べてみる。食感がもちもちだ(当たり前だ)。
そう言えばミーファ教官との授業でもちもちを使ったなあ、なんて思い出す。たしか俺は途中でテンパって、もちろんです! と言いたかったところを「もちもちです!」とか意味の分からない言語を喋ってしまった。
……恥ずかしくなってきた。今食べてる塩の味がしょっぱく感じる。
さらに俺は箸を進める。おいしい。
残念ながら俺にはグルメ力がないのでそれっぽい感想をいうことができない。
だが、ただただ、うまいということは確実だ。もちもちを米に見立てて肉を食べれる、なんていう、とんだ贅沢。
ほどよい硬さと柔らかさ。もちもちに肉の味が染み込んでいて素晴らしい。
他のみんなも食材を入れ始める。
ライルは魚をいれていた。ラタリアは野菜だ。
そしてディンはお菓子をいれていた。
……ん?
「気でも狂ったのか!」
思わず叫ぶ。貴重品なのになにをやってるんだ。
「……くっ」
「くっ、じゃねえよ」
悔しそうなディン。彼が何に悔しがっているのかまるで理解できなかった。
……たぶん、彼は疲れているんだろう。
ライルが手をあげて制する。
「まあまあ、まだ試合は始まったばかりだ。まだ終わっちゃいない」
「いや、終わりだろ」
「あきらめるんじゃねえ!」
気圧される。謎の熱意。
「なんとかここから挽回するんだよ! 俺たちがやらなくてどうするんだ!」
食材に対する熱意だろうか。
「そうだな。まだ、いけるよな」
「おう、その意気だ!」
俺はとれあえずパキリを入れる。パキリは万能だ。これを入れておけばきっと間違いない。たぶん。
「ええ……この状況で果物いれるの……」とラタリア。
「甘さには甘さで対抗するしかないじゃないか」
「そう……」
ラタリアがどんよりとした目で鍋を見る。
腐った汚水の上に、ぷかぷかと浮かぶパキリ。
……まだ大丈夫だよな?
気が付けばディンは少し離れたところで横になっていた。
闇鍋の内容をぶち壊した主犯のくせに。
俺はすぐにディンを起こしに行く。
ゆさゆさと揺らされ、ディンが眠そうに薄目を開けた。
「絶対に逃がさないからな」
「……はい」
もう全員道連れにするしかない。
そうして俺たちは闇鍋と奮闘した。長い闘いだった。明らかに不毛だった。
「なあ」とライルが言う。
「臭くね?」
「……」
「……」
「……」
諦めて捨てることにした。
俺はグロい色素を漂わせた鍋の中身を見ながらこう言う。
「途中まではよかったのに……」
「たしかに」とライルが頷く。
賛成するようにディンも頷いた。
……うむ。
「もう寝ようか」
「そうですね。不寝番は僕がやります」
「任せた。もう二度とお菓子をぶち込むんじゃないぞ」
「……たまにはいたずら心をみせちゃだめですか?」
「だめだ」
そうしてみんなその場に横になる。
疲れていたせいか、すぐに意識は消えていった。




