外野の二人
本編17話、オリヴィアとフレッドが帰った後の、サイラスとリリアナの小話。
「なんだあの二人、とっくにくっついてるんじゃないか」
サイラスはついさっき揃って帰って行ったフレッドとオリヴィアの様子を思い返して、呆れの混じった声を吐いた。
「本当に」
くすくすと隣でリリアナも笑う。聞いていた話ではフレッドの一方通行に思えていたのだが、何のことはない、オリヴィアもフレッドに特別な想いを抱いているのははたから見れば明らかだった。
「お膳立てする必要はなかったわね」
リリアナが思い出し笑いをしながら続けた。全くだ、とサイラスが半ば憤慨した様子で同意した。
「いや、でもフレッドのあんな顔を見れたからよしとするか」
「まあ、サイラスったら。意地が悪いわ」
「なに言ってるんだ、リリアナだって笑っていただろう」
「私は微笑ましく思っただけよ?」
そう返すが、リリアナも含み笑いしてしまう。
「しかし本当にあんな顔をするなんて何か天変地異でも起こりそうで怖いな。あいつ、これまでは女性に興味なんか微塵もなかったのになあ」
「まあ、それは言い過ぎよ」
「いやいや、決して言い過ぎじゃないぞ。あいつ、顔が良いから群がる女性には事欠かなかったのに、いっつも醒めた目で適当にあしらっててさ。どれだけ多くの女性が涙を飲んだことか」
「酷い言われようね」
リリアナがサイラスの言い方に、やれやれといった調子で口を挟んだ。
「でも、フレッド様も、もうこれからはそんなこともなくなりそう。オリヴィア様に夢中の様に見えたもの」
「そうだなあ。よし、俺たちの結婚式の時にはあの二人に介添人をお願いしよう」
「それは良い考えだわ! ええ、ええ、そうしましょ!」
サイラスを呆れたように見守っていたリリアナが、一転はしゃいだ声をあげた。
「いや、その前にまず今度のフリークス領の視察にはやっぱりフレッドを連れて行くように父上に進言するか」
「あら、もうお膳立ては必要ないのではないの?」
「いやいや、これはオリヴィアの為だ。あの様子では、その内本気でフレッドと逢う時間が取れないと嘆かれそうだからね」
「まあ、サイラス、やっぱり貴方、フレッド様に仕事を押し付ける気ね?」
軽く睨み付けた婚約者を前に、サイラスはニヤリと笑った。
「当たり前じゃないか。俺にはフレッドの事よりもリリアナ、君の方が大事だからね」
「それじゃあまるで遠回しに私が、フレッド様とオリヴィア様の恋の邪魔をしているみたいじゃない!」
くすくすと笑いながら、でも視線に僅かな抗議の意を込めてリリアナがサイラスを見る。
サイラスが一向に意に介さずといったていで笑いながら反論した。
「それを言うなら、あいつこそ俺たちの恋路を邪魔しているんだぞ。俺はいつだって君と二人で逢いたいのに、収穫祭の時も結局二人になれなかった」
口の端を上げたサイラスがいつの間にかリリアナのすぐ隣ににじり寄っていた。その瞳が何だか妖しい。
「え?」
「リリアナ」
唐突に声色を変えたサイラスに、リリアナが身の危険を感じてじりじりと後ずさる。
「サイラス?」
「久しぶりに二人になれたんだ、今日は帰らないよな?」
「え、嘘、今日はそんなつもりじゃ」
「それこそ嘘、だろ?」
サイラスがぐいとリリアナの腰に手を回し引き寄せた。リリアナを射竦める瞳はまるで獰猛な肉食獣を思わせる。捕らえた獲物は決して逃さないと言わんばかりだ。これはもう観念するしかない、とリリアナは悟った。
リリアナ自身、そのことを本気で嫌がっているわけではないのだ。
もう……、と意味のない溜息を零して、自分を見下ろしながら近付いてくる婚約者の気配に彼女もまたそっと目を伏せた。