恐怖の三分間(ショートショート40)
夜の十時。
ドアの開く音がした。
毎夜、この時間になると、かならず部屋に忍びこんでくる男がいる。
迫りくる恐怖に、ベッドの上の私はおもいきり手足をバタつかせた。……けれど、どうあがいても逃げられない。
それをいいことに……。
男はそばまでやってくると、気味の悪い口元をニヤつかせ、私の顔をのぞきこんだ。
いつものように酒臭い息が頬にかかる。
男の手が伸びてきた。
――お願い、やめて!
私はもがいて、男の魔の手から必死に逃れようとした。けれど、体の自由がまったくきかない。
男の指が私の頬にふれる。
――ママー、助けてー。
私は大声で泣き叫んだ。
「ねえ、お願いだから起こさないでよー。さっき寝かせつけたばかりなんだからね」
隣の部屋からママの声が聞こえる。
「ああ、わかってるよ」
男は返事をして、それからすぐに部屋を出ていった。
ドアの閉る音がする。
今夜も恐怖の三分間が過ぎた。
「今日、一カ月検診に行ってきたのよ。あの子、とっても元気だって」
ママのうれしそうな声がする。
「そうか、それはよかった」
「ねえ、パパ。たまには早く帰って、あの子をお風呂に入れてやってよ」
「そうだな」
ママと男の会話が続く。
――パパって?
あの男、いったい何者なの?
毎夜のように、私を恐怖におとしいれる男。
パパというヤツは……。




