中二病だと思ったら実は魔法使いでした。
初めて書いてみました。よろしくお願いします。
「退屈だ……。」
エアコンと扇風機をつっけぱなしにした自室で、テレビを見ながらそう呟く。テレビを見ている、と言ってもただ電源が入っているだけで、その内容は全く頭に入ってこない。ただエアコンと扇風機の音だけでは何となく味気ないと感じたためにつけていたのだが、俺の、この何とも言えない退屈な気分は晴れなかった。
今までの俺の人生を振り返ってみると、これまた実に退屈である。中学二年までは日々遊んで過ごしていたが、高校受験で少し勉強をした結果、そこそこ有名な高校に進学。何もすることがなく、その時間を勉強にあてていたためか、高校三年で全国模試、T大模試でそれぞれ一位をとり、そのまま何の疑問も抱かず、それがまるで必然だったかのように、T大へと進学した。周りは俺を持て囃した。両親は涙ながらに俺を抱きしめたし、高校の教師からは、合格体験談を聞かせてくれ、と言われてわざわざ高校を訪れ、別段面白くもない話をした。まあ、生徒達は真剣な表情で俺の話に聞いていたが。
ある日、俺の部屋に宇宙人が来たら。ある日、俺に異能と呼べるような能力が目覚めたら。ある日、異世界に転移したら。そんなことを考えたりもしたが、そんな都合の良いことが現実世界でそう簡単に起こるはずもない。だが、俺だったら。天才と言われた俺だったらそんな装置を開発することが出来るかもしれない。そう、知らず知らずのうちに、俺は自分に酔っていたのだ。そして、自意識過剰としか言えないそんな俺の考えはすぐにへし折られた。宇宙人?異能?異世界?バカ言え。そんなもんあるわけねえだろ。
そう思っていたのに。
「で、お前、何なの?」
テレビを消して、そいつに問いかける。テレビに夢中になっていたのか、不機嫌そうな顔で俺を睨んだが、突然ハッとした表情をして姿勢を正し、丁重に挨拶をした。
「こんにちは。私はアステリズム王国から来たアイシャと申します。空間転移を国で一番上手く扱う、ということで私がここに来る役割となりました。」
「は」
決して聞こえなかったとかそういう訳ではない。よく分からない国の名前を言い出し、それと何より空間転移とか痛いことを言い出したため言葉が出なかったのだ。まあ、この衣服からして、この子は中二病かなんかなのだろう。だが、やってることは不法侵入、立派な犯罪である。うん、帰ってもらおう。警察とかそういう面倒くさいのはごめんだからな。
「よし、玄関はあっちだ。この際どうやって入ったとかはどうでもいいから可及的速やかに出て行ってもらおうか。」
「え?ええ!?ちょ、ちょっと待ってください!」
何やら慌てだした中二病娘の首元を掴み上げて立ち上がらせるとそのまま背中を押して玄関の方まで追いやった。
「は、話を聞いてください!ちょっと困ったことになってるんです!」
「分かってる分かってる。アステリズム王国とやらが大変なことになって勇者とかを探してるんだろ?俺は勇者じゃないからさようなら。」
困ったこと、と言われれば大体はこんな感じだと相場が決まっているだろうと思い、適当にそんなことを呟くとその中二病娘は目をキラキラとさせた。
「そ、そうなんです!やはりあなたが勇者様だったのですね!一目見た時からそうだと、いや!ちょっと待ってください!まだ話の途……!」
俺を中二病仲間と勘違いしたのか、やたらと元気が良くなった中二病娘をそのまま外に追い出して鍵を閉める。なんか言ってるが知るか。確かに退屈はしてるがああいう面倒くさそうなのは相手にしたくない。そのまま玄関を後にして部屋に戻る。
「もう!話の途中で追い出すなんて酷いです!」
部屋のドアを開けると若干涙目の中二病娘がいた。……ほう。中二病娘の言葉を無視して踵を返し、とても落ち着いた様子で玄関の方に戻りドアを開けた。そのまま家に面した道路の左右を確認したが、追い出したはずの中二病娘はいなかった。いくら全力で走ったところで、十秒やそこらでここから背中が見えなくなる、ということはないだろう。ということは、部屋にいた中二病娘は俺が先ほど追い出したはずの中二病娘と同一人物である、ということになる。というかあんな痛い格好した娘が他にポンポンいるわけないか。……気が変わった。
家の中に戻ると、何やら部屋の隅の方で体育座りをしながら床をなぞっている中二病娘、いや、おそらく魔法使いがいた。
「どうせ……どうせ私なんてちんちくりんですよーだ……。」
何やら小柄で慎ましやかな体型がコンプレックスらしいが、別にそれくらい気にすることもないし、これから成長するだろうに。普段はこんなフォローなどしないが、そのままうじうじしていられてもどうしようもないのでフォローすることにした。
「気にするな。まだ子供なんだ。これから成長の余地はある。」
「私、二十歳なのに?」
「あ、ああ。これからだ!」
中学生くらいにしか見えなかった、なんてことは言えない。言葉に詰まった俺をジトッとした目で見ていたが、俺が座った向かい側に来るように手で合図するとそれに従って座布団の上に腰を下ろした。
「さて、話を聞かせてもらおうか。」
俺は久し振りに、いや、初めてだったかもしれないが、期待に胸を膨らませその魔法使いに話を聞いた。
「なるほど。話は大体分かった。」
「ほ、本当ですか!?」
魔法使いの話は要点が分からないのか、右往左往し、途中で自分の感想を交えたりするものだから、とても長ったらしく、時間がかかった。俺が要約すると、つまりはこういうことだ。
・国が大変!勇者様助けて!
以上。いや、言いたいことがあるのは分かる。けど本当に要約したらこれだけしか残らない。
「で、俺がその勇者様ってか?」
「そ、そうです!間違いありません!」
「根拠は?」
「私の目に狂いはありません!」
「勘かよ。」
どうやら、俺が勇者であるという根拠は全くないらしい。
「その、やっぱりダメ、ですか?」
黙っている俺を悩んでいるとでも思ったのか、心配そうな顔をしながら恐る恐る、といった様子で尋ねてきた。
「いや、ダメじゃない。むしろ望むところだ。けど……」
「いいんですか!?ありがとうございます!では早速行きます!」
「え、ちょ待てって!まだ聞きたいことが……!」
「転移!アステリズム王国!」
話を聞かない魔法使いに手を握られるとほぼ同時に、俺の意識はぐらりと揺れた。