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第4話 挫折禁止

「ちょっと…!!チャイム!!勝手にどこかへ行くなよ!!」


オレは慌ててチャイムが飛び去った方角へ向かって走るが

チャイムの姿はもうどこにも無い…

まずいな…あんな絵に掻いた様な本物の妖精が人目に着いたら大騒ぎになるぞ…

あの好奇心の塊のあいつが大人しくしているとは思えない。

さてどうしたものか…


「あ~れ~!!助けて~!!」


「今の声はチャイム?!…何か上の方から聞こえた様な…」


空を見上げるとチャイムがカラスに咥えられて正に今連れ去られようとしている所だった。


「この!!チャイムを離せ!!」


オレは地面から小石を拾うとそのカラス目がけて投げつけた。

当たりはしなかったがカラスを驚かせるには十分で

辛くも嘴から脱出したチャイムはヘロヘロと力無く俺の方へ飛んで来る。


「『人間界こっち』は『精霊界』と違って色々と危険なんだ!!

もう勝手にどこかに行くんじゃないぞ?」


「…悪かったよ九十九~…」


恐ろしい目に遭ったからか素直に謝るチャイム。

取り敢えず俺達は俺の自宅を目指す事にした。




「お前を連れて『人間界こっち』に来た事で一つ仮説が立ったんだ」


「へぇ、どんな?」


オレは帰宅するなり台所で蛇口をひねりコップ一杯の水を飲んだ。

色々あり過ぎて喉がカラカラだった。

チャイムはうちの家族が普段食事を摂っているテーブルに腰を下ろしている。


「オレが新たに立てた仮説はこうだ…

『精霊界』出身の実体を持たない存在のお前は

そのままでは『精霊界あちら』から出る事は出来なかったよな?」


「うん、そうだね…

以前の僕は少なくとも君が二つの世界を行き来したあの場所からは

人間界こっち』に来た事は無いね」


「それがだ…そのチャイムちゃんフィギュアに入った状態ではどうだ?

すんなりと『人間界こちら』に来れたろう?」


「うん、それで?」


「だから精霊化してしまったあやめちゃんも『人間界こちら』の物…

例えば人が入れる程大きなバッグとか…着ぐるみとかに入れば『人間界こちら』に戻って来れるのではないのかとね」


「なるほどね」


我ながらナイスアイデアだと思う。

流石にバッグに入ってくれと言ったらあやめちゃんも嫌がるだろうから

ここは着ぐるみ的な何かの方がいいな…

最近はおもちゃ屋やショッピングセンターとかにもこの手の物が売っているからそこで調達しよう。


「よし!!早速準備しよう!!」


思い立ったら善は急げ。

オレは近所の大型スーパーでウサギの着ぐるみ風のパジャマを買って来た。頭に被るフード部分に大きなウサギの耳が付いているのだ。

それと手袋とウサギの大きな足を模した室内履きもセットだ。

レジで多少恥ずかしい思いもしたがこの際そんな事は些細な事だ。

ショルダーバッグにそれを詰め込み『神隠しの山』の山道から『精霊界』に戻って来た。


「どうだ結構可愛いだろう?」


「わ~ウサギさんだ!!どうしたのそれ!?かわいい~!!」


オレが買って来たウサギのパジャマをみて瞳を爛々と輝かせるあやめちゃん。


「あやめちゃん、これは君にあげるからちょっとこれに着替えてくれないかな?」


「うん!いいよ~!」


大喜びするあやめちゃんだったがワンピースの胸元のボタンに指を掛けた所で動きが止まった。

心なしかオレを睨んでいる様な…


「………」


「…どうしたの?あやめちゃん」


「つっ君のエッチ!!目の前に居られたら着替えられないでしょ~!?

もう!!あっちいっててよ!!」


「あっ…ごめん!!」


あやめちゃんに怒鳴られたオレは慌てて後ろを向き少し離れた木の裏まで行き背中からもたれ掛かった。それにチャイムも付いて来た。


「ちぇっ…何だよ…オレはそんな子供の裸になんて興味ねえよ」


まあ…あれ位の年ごろの女の子は段々と異性を意識しだすんだよな…

オレの方がデリカシーが足りなかったか…


「ねえねえ!!今の二人のやり取りは何だったんだい?興味深いね!!」


チャイムがオレの肩に乗り喜々として質問してくる。


「人間の男と女には色々と面倒な事があるのさ…」


オレはチャイムから目を背けつつそう言った。

流石にこの分野の知識を深く突っ込まれるとこちらが恥ずかしくなる。

実際彼女は回答をせがんできたがいつか教えてやると言って話を遮った。




「どう?似合うかな?」


「…お、おう…似合ってるよ…」


実際似合っている…

元々が相当可愛いらしいのにウサミミが加わる事でその筋の人たちが鼻血を垂らして卒倒しそうな殺人的な可愛さへとバージョンアップしているのだ。


「じゃあちょっとその格好で散歩でもしようか…」


「うん!!」


彼女と手を繋いだ。

あやめちゃんに気取られない様になるべく自然に二つの世界の境界線がある方向へと歩き出す。


「………」


おかしい…

さっきチャイムを連れ出した時はこの辺で『人間界』へ行けたはず…

まるでループでもしたかの様に延々と同じような林道が続く。

まさかオレの仮説が間違っていた…?

焦燥感がオレの心臓を鷲掴みにする。


「ふんふんふ~ん」


あやめちゃんは上機嫌で鼻歌を歌っている。

ここでオレが取り乱そうものなら途端に彼女は不安や疑惑を抱くだろう。

それが切っ掛けで自分の存在に疑問を持ったらどうなるか…

それだけは避けねばならない…


「…そろそろ戻ろうか…」


「うん!」


今来た道を二人で折り返す。

するとどうだろう…すぐ目にお前にあの花畑があるではないか。

行きと帰りの距離感が滅茶苦茶だ。

まだこの世界は分からない事だらけだ。


「ピョン…ピョン…」


あやめちゃんはウサギになりきって飛び跳ね、光球状の精霊たちと戯れている。

少し離れた所でその光景を見ているオレとチャイム。


「…どうやらオレの仮説は間違っていた様だ…」


「仕方ないさ、今まで誰も『精霊界』と他の世界の繋がりを解き明かそうとも思わなかったんだから」


そうかもしれない…それにおれが相手にしているのは神が創りし『世界構造』その物なのだ…

高だか十数年しか生きていないオレの浅知恵が通じる程甘くは無かった…

かと言って折角時を超えてあやめちゃんに出会えたこの好機を無駄にしたくは無い。

何か方法は無いのか…

考えろ…何か…別の方法を…


「なあ九十九…」


「何だ?…今、他の方法をだな…!!」


話しかけてきたチャイムにオレは半ば八つ当たり気味に怒鳴ってしまった。

彼女に当たってどうなる…落ち着けオレ。


「また僕を『人間界』へ連れて行ってくれないか?」


「えっ?」


チャイムからオレが想像していなかった提案がもたらされた。

一体彼女はどういうつもりでこんな事を言い出したのだろう?

しかし現状でオレにはいいアイデアが全く浮かばないし、ここで座り込んで考えていても埒が明かないだろう…

いっそここはチャイムの策に乗ってみるのも悪く無いかも知れない。


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