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名探偵・藤崎誠シリーズ

本を売ろう!ー名探偵藤崎誠登場 三方両得作戦

作者: さきら天悟
掲載日:2015/09/13

今回は、久しぶりに名探偵藤崎誠の登場。

でも、相変わらず事件ではない。

世の中、平和で探偵に依頼するような殺人事件や密室事件は起こらない。

今日も悩み相談だ。

藤崎の見事な解決策をご覧ください。




「で、ご相談の内容は?」

藤崎は前に乗り出し、ガラステーブルを挟んでソファーに座る男の訊いた。


「本当に探偵さんが相談に乗ってくれるんですか。

それにお金が・・・」

男は口ごもった。


藤崎は頭をかいた。

「そんなことだろうと思った。太田のやつ」

親友の太田は、今を時めく若手の有望政治家だ。

その紹介だという。

「それでいくら持ってるんですか?」


男は財布の中身を見せる。

「2000円ちょっと・・・」


「じゃ、出世払いでいいです。

それでどんな相談ですか」


「本が売れないんです」

男は作家だった。

藤崎の憧れている作家だった。

と言っても、この男の事ではなく、藤崎は作家になりたいのだ。


男はメジャーではない文学賞を取り、作家デビューした。

その出版社から2作出版したが、そのあとオファーが来なかった。

その後も書き続けているというが、

手垢がついた作家は他の出版社に見向きもされないのだろう。


藤崎は足元から頭の天辺へ舐めるように視線を這わせた。

「で、どんな小説を書かれるんですか」

純文学だろう、という答えを持ちながら、一応聞いてみた。


「推理小説、ミステリー、SFなんでも書きます。

推理小説が得意です」


藤崎は前歯に力を込めた。

驚きの表情を隠すために。

推理が得意ならどうしたら売れるか推理しろよ、という顔を隠した。

大した作家じゃないだろう、と心の中で呟いた。


ピンと閃いた。

そう言えば昨日小学5年生の男の子に依頼されたことを思い出した。

その子は5万円で、子供らしい読書感想文を書いて欲しいという依頼だった。

効率のいいバイトだったが、断った。

その子自身のためにというより、自分のプライドのためだった。

それに藤崎はそこまで金に困っていなかった。


親友の太田の紹介だったが、真剣に考える必要もないと思った。

そんな時いろいろアイデアが湧くものだ。

でも本当は、そこから精査していいアイデアに練り上げるのだが。

「子供向けに書いてみたらどうですか」


「子供向け?」

男は眉間にしわ寄せる。


「今の時期は読書感想文を書かなくちゃいけないでしょう」

藤崎はニヤリとした。

ここからどんなアイデアをこの作家が導くのか、と思った。


「子供向けのターゲットは悪くいですね。

探偵団でシリーズ化すれば、漫画やアニメにもなりますね」

男は真っ直ぐに藤崎を見た。

「でも、売れないんです。出した本は悪くないと思うんですけど」


藤崎はニヤリとした。

「だから、感想文」


男の顔は急に明るくなった。

「感想文も付けるんですね。

ネットにあらすじと十数パターンの感想文を用意しておく。

感想文を書きたくない子供が飛びつく、

親も子供の夏休みの宿題を片付けるためにしょうがなく買うということですね」


藤崎は満面な笑みを浮かべた。

これで厄介払いができると思った。


「会いに来てよかったです。

太田さんに勧められて、

始めは気がのらなかったですけど」

男は藤崎の手を両手で握った。


「名探偵にお任せあれ」

藤崎は微笑んだ。




一年が経った。

男は人気作家になっていた。


男は藤崎のアドバイスを取り入れていた。

子供向けの探偵ものだった。


でも、彼はしたたかだった。

子供の探偵でなく、探偵が子供の悩みを解決する物語だった。

名探偵藤川真人!

完全に藤崎誠をモデルにしていた。


でも、それだけではなかった。

感想文付などではない。

もっと、えげつなかった。

『本を買うと、100円キャッシュバック』

まるで健康器具の通販番組の宣伝だ。

たかが100円?

そうではない。

子供にとって100円は大金だ。

どういうことか説明しよう。

子供は本を買うからと言って親から1000円もらう。

おじいさん、おばあさんならイチコロだ。

本を買うなら、喜んでお金を出すだろう。

それで子供はその場100円もらえる。

同じ本を何冊も買って社会問題になるほどだった。



「三方両得作戦か」

藤崎はテレビに出演している男を見て呟いた。

男は感想文付の本で子供をつるというアイデアから、

もっと直接的な利益を得られるような工夫をした。


『三方両得』は、『三方両損』という江戸時代の大岡裁きをもじった。

その裁きは現代風説明しておこう。


男が3000円入った財布を落とした。

別の男はその財布を男に届けた。

それだけなら普通の美談だが、そこから揉め事になる。

男は謝礼として全額3000円を払おうとするが、

届けた男は謝礼を売れ取れないと断る。

双方引かずに大岡が裁くことになる。


大岡は財布を落とした男に1000円を出させた。

その1000円と大岡自身の財布から1000円出し、

財布を拾った男に謝礼として渡した。

「これが三方両損である」

財布を落とした男は1000円を謝礼として払う。

財布を拾った男は本来なら3000円得るが、2000円になる。

大岡は1000円自腹を切る。

みんな1000円づつ損をすることになる。

これが大岡裁きの逸話の一つだ。


それに対し、藤崎が呟いた『三方両得』とはこうだ。

作家や出版社は本が売れる。

子供は100円もらえる。

親たちは子供が本に興味を示す。

三方すべて利益を得るというように。


でも、それだけではなかった。

この作戦が町の本屋を救ったのだった。


たしかにネットでもキャッシュバック可能だが、

子供たちはそんな面倒なことを嫌がった。


「そこまで考えていたのか」

藤崎は、してやられたと思った。


男はさきら天悟と言った。

出版していた『愛と死のせつな』も売れ出した。

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