6.ミチノリ
リア:主人公。兄を探すと決め、RPGにログインすることを決めた。
カトルシア:カトル。
ログインしたリアを最初に見つけ、街に連れ帰る。
樹上の街ラシュラン出身。
リアを守ると決め、共に旅立った。
ルーシア:オレンジの髪、ルビーのような紅い瞳。
とあるカプセルを探して旅をしている。
男しか産まれない、風の街サンドラ出身。
「お世話になりました」
ぺこんと頭を下げると、村長さんは微笑んだ。
「おぉ、気になさるな。ユーファを守ってくれてありがとう」
村長さんの周りには、応急処置をした人や声をかけてくれた人が集まってくれている。
「あたし、もっと強くなります」
笑うと、みんな安堵した表情をした。
「元気になってくれて良かった。あ、そうだ、これを」
声をかけてくれた人が、応急処置用のキットを分けてくれる。
「いいんですか!」
「君の薬草はよく効いたみたいだ。あれを参考に薬を作ってみたいんだけど、いいかな?」
「あ、はい!…あれはラシュランで教えてもらって…えーと」
説明すると、その人はメモをとって笑う。
「ありがとう、助かるよ」
「わからなかったら、ラシュランで聞いて下さい。あたしもまだまだで…えへへ」
「おーい、リアー?」
「あ、はーい!じゃあ、行きますね!」
門のところでカトルとルーシアが待っている。
あたしはもう一度お礼を述べて、走り出した。
…が、すぐに立ち止まる。
「あーっ!あの!」
「きゃ、あら…貴女…」
そこに、牛の世話をする女の人がいたのだ。
そう、あたしを避難させようとしてくれた、あの人だった。
「ありがとうございました、あたしなんかを助けようとしてくれて。嬉しかったです…!なのに、すみませんでした!」
まくし立てると、その人は微笑んだ。
「いいのよ。道中、気をつけて行くのよ。貴女の旅に幸あらんことを」
歩き出すと、思い出したように足が筋肉痛を訴える。
「うう…い、痛い」
「はは、筋肉痛?今日は無理しない程度に歩くぞー」
カトルは笑いながらすいすい歩く。
「リアちゃん、まだ慣れてないんだねー。これから何日か地獄だよ」
ルーシアも笑う。
「えー!それはちょっと困るかも…」
言いながら、仲良く並んで前を行く二人を見る。
すっかり仲良しだ。
ルーシアが共に行くことを、あたしもカトルも当たり前に受け止めていた。
首都に行き登録を済ませたら、次は運命に抗うカプセルを探さないといけない。
あたしは逸る気持ちを抑えて前を見た。
遠く草原が広がり、風が駆け抜ける。
「よーし!頑張るぞー!」
思わず言うと、前を歩く二人が「おー!」と応えてくれた。
それからの旅路は順調すぎるほど順調だった。
魔物に襲われることもなく、悪天候に見舞われることもなく。
温泉郷ユーファを出てから6日がたち、あたしもようやく足の痛みに慣れ始めていた。
「明日には首都に着くよリア」
カトルがテントを張り終え隣にやってくる。
今日野宿する場所は全体を見渡せる小さめの湖の辺だった。
ルーシアの釣った魚を焼いていたあたしはカトルの言葉に思わず喜んだ。
「本当?明日はお風呂入れるかな?」
一応野宿の時に水辺であれば水浴びはしてるけど、毎日は出来ない。
だからやっぱりお風呂でさっぱりしたいのだ。
「うん、そうだな。首都に行ったら宿とろうな」
カトルは笑うとあたしの頭を優しく撫でて立ち上がる。
「薪少なくなってるな。集めてくるよ」
「あ、ありがとう。気をつけてね」
少し離れた場所に林のようなところがあり、カトルはそっちへ歩いていく。
…最近、カトルはあたしを撫でたりすることが多くなった。
それは優しくて暖かくて、あたしを幸せな気持ちにする。
一人でえへへと笑っているとルーシアが戻ってきた。
「ご機嫌だねー。ほら、魚もっと捕れたよ!」
「おかえりルーシア!わ、すごいねこんなに!焼いちゃう?」
「そうだね、手伝うよー」
ルーシアはナイフを出して手際よく魚をさばき、用意していた串に刺して焼いていく。
「…」
「ん?何、リアちゃん?」
「あっ、ううん、手際がいいなぁと」
「あはは、だって俺3年旅してるんだよー?慣れもするって~。…よし、出来た」
「わ。もう終わりだぁ。あとは焼けるのを待つだけね」
「うん、あ、特訓でもする?」
ルーシアの言葉にあたしは顔をあげる。
…ユーファを出てから、あたしはルーシアに剣を教わっていた。
使っている剣のタイプが一緒だからと彼が提案してくれたのだ。
強くなりたいから、あたしはその提案に食いついたのである。
「うん、お願いしますっ」
立ち上がり剣を準備するあたしに、ルーシアは笑う。
「急がなくても俺は逃げないよー」
あたし達は剣を鞘に入れたまま固定して練習しているんだけど、それでもルーシアの剣は速くてあたしはまるで相手にならなかった。
6日経ってもそれは全く変わらなくて、あたしは自分の弱さを痛感している。
まずは自分の身を守れるくらいにならないと、とひそかに誓うけど、それもいつになるかわからない。
とにかく、一人で魔物一匹を相手出来るくらいにはなりたかった。
「じゃあ今日はまずおさらいからしようか。行くよー」
ルーシアの剣が上下左右から繰り出される。
あたしは教わったやり方でそれを受け止めたり受け流したりして反撃の一打を繰り出した。
「うん、今のいいね!」
ルーシアは簡単にそれを避けて言った。
…褒めてくれても、あたしの一撃は全く通ってないのはわかる。
また反撃を試みるけど、ルーシアはそれを受け流してさらに反撃してきた。
「…っ」
勢い余ったあたしはルーシアの反撃をお腹にもろに受けてうずくまる。
「リアちゃん!大丈夫!?」
突っ込んだのはあたしなのに、ルーシアは剣を放って駆け寄ってきてくれた。
息が詰まってうまく吸えないあたしの背を、彼がそっと撫でた。
「ごめんね!もっと引けばよかったよ…ゆっくり息して」
「う、ごほっ…は、はぁ…ごめんね、大丈夫…」
いたた。
立てないでいると、カトルの声が聞こえた。
「リア!?どうした、大丈夫か?」
顔を上げると薪をばらまきながらカトルが走ってくるのが見える。
「か、カトル…薪が」
「何言ってるんだよ、薪なんかまた拾えるだろ!どうした?痛いのか?」
カトルはあたしの前にしゃがみ込む。
「俺の反撃が入ったんだよー」
申し訳なさそうにルーシアが言うと、カトルは眉を寄せた。
「反撃?…訓練してたんだ」
「うん…あたしが飛び込んじゃって」
「そっか…」
カトルはほっと息をつくと優しく言った。
「無理すんなよ?でも実戦だったらやられてたんだ、注意しないとな」
そしてあたしの頭をぽんと撫でる。
…カトルは、あたしが強くなろうとしてるのを見守ってくれていた。
擦り傷を作ろうが、泥だらけになろうが、今回みたいなことになろうが、彼は認めてくれるのだ。
「カトル…あのね、ありがとう」
「え?」
「あたし頑張って強くなるから」
「…うん、でもあんまり怪我してほしくない。だから気をつけろよ?」
言いたいことを理解してくれたみたいだ。
そんな些細なことが嬉しかった。
「さて」
カトルは立ち上がり、ばらまいた薪を拾い始めた。
カトルを見ていると、彼はあたしの視線に気付いて微笑む。
どき、と心臓が跳ねる。
「おーい、魚焼けたみたいだから食べちゃおう」
「あ、は、はーいっ」
いつの間にかルーシアは焚火のそばに移動していた。
返事をすると、薪を集めたカトルが笑った。
「リア、立てる?」
薪を片手に抱え、手を伸ばしてあたしを起こしてくれるカトル。
「ありがと」
笑うと、彼は小さな声で言った。
「…俺も頑張るからな」
「え?」
「ううん、こっちの話!さ、飯だ飯だ!」
あたしは彼の言葉を深くは考えなかった。
きっとカトルも強くなるために頑張ってるんだなって…そう思ったから。
その夜、あたしはふと目が覚めた。
いつもは朝までぐっすりなんだけど…今日はあまり訓練出来なかったからかな。
見回すと、小さなテントの中にカトルの姿がない。
トイレにでも行ったのかな…?
しばらく待ってみたけど帰ってくる気配は無くて、あたしはテントを出た。
空は少し雲がかかっているけど月が出ていて明るい。
湖面はその月が映り、神秘的なほどに青く綺麗だ。
焚火は消えかかりくすぶっていて、細い煙をあげていた。
…どこ行っちゃったのかな…?
すぐ隣のテントにはルーシアが寝ているはずだけど、起こすのもかわいそうだ。
湖の辺にも影はなく、あたしは一応剣を腰に挿して林の方に向かった。
この辺りで姿が見えないとしたら林しかないと思ったのだ。
…闇に目は馴れたとはいえ、林は暗く重い闇の中にある。
あたしは中に入るのを躊躇した。
その時だった。
中から何か音がしたのだ。
空気を切って何かが飛ぶ音。
この音…弓?
耳を澄ましているとまた聞こえる。
まさかカトル、魔物に襲われてるんじゃ…!
あたしは林の中に飛び込んだ。
また群れだったら、と不安が過ぎる。
でも、あたしは足を止めなかった。
カトル…!
足場は悪く、木の根や草がさらに凹凸に拍車をかけている。
足をとられそうになりながらあたしは懸命に前に進んだ。
いつの間にか弓の音はしなくなって、林は重い沈黙に満ちていた。
カトルが怪我していたら…?
魔物が強かったら…?
どうしよう、どうしよう…?
あたしはカトルを呼ぼうとして口を開いた。
…が!
「んぐっ」
いきなり暗闇から何かが絡み付き、そのまま引っ張られて背中から木にたたき付けられたのだ!
横から口元を塞がれ、何がなんだかわからない内に、首筋にひやりとした感触。
これ…短剣?
背中を嫌な汗が伝う。
あたしの口を塞ぐのは誰かの手のようだ。
「動くな……って、り、リア!?」
「…!」
あんまり急だったんであたしは声すら出せなかった。
首筋に触れていた短剣がすぐに離れ、硬直したあたしの視界にカトルが映る。
「だ、大丈夫か!?痛いとこは!?怪我してないか!?」
ぽっと火が灯る。
用意していたのか、ランプを片手にしたカトルはあたしを照らしてばつが悪そうな顔をした。
「ごめん…まさかリアだと思わなくて。魔物か盗賊かって…」
あたしは息を止めていたのに気付いて、大きく吐き出した。
「ぷはぁ…び、びっくりした…」
そのままずるずる座り込むと、カトルは驚いてあたしを抱き留める。
「大丈夫か!?」
「安心しただけよ…大丈夫。カトルは大丈夫?怪我とかしてない…?」
「え…?俺?大丈夫だけど…なんで?」
聞き返され、あたしはカトルをまじまじと見つめた。
「だって…弓の音が…」
確かに怪我はなさそうだし、この様子からして魔物と戦ったようには見えない。
じゃああの音は何だったの…?
「あ…と…それは…まぁ…」
カトルはあたしを見ると視線を逸らし、言葉を濁す。
「何…?」
聞かずにはいられない。
「……いや…だから」
視線が泳ぐ。
あたしはカトルの視線がある方向へ向かうのに気付いてそっちに顔を向けた。
「…」
そこには、細い木に何本もの矢が突き刺さっている光景が…。
「…何、あれ?」
「あ…うぅ。……してたんだ」
「え?何?」
「修行…」
「!」
あたしはやっと合点がいった。
こんな夜中に抜け出して、カトルは一人修行をしていたのだ!
「何もこんな夜中にしなくても…」
「や、だって…リア達と違って俺は遠距離がメインだし…なんか…地味だし」
「地味?弓が?」
笑うと、カトルは顔を赤くしてそっぽを向いた。
「うん…短剣の修行はさ、リアが強くなってからルーシアに稽古つけてもらえればいいかなって思うし…だから弓の精度を上げようと思ったんだ」
カトルはわかってない。
あたしはカトルの手をぎゅっと握った。
「弓、カッコイイよ!あたしはカトルが弓引いてるの見てそう思うよ?もしかして毎日夜中にこっそり修行してたんじゃない?」
「う…まぁ、リアが始めた日からやってたけど」
全然気付かなかった。
「もう…カトル、ちゃんと寝なくちゃ駄目だよ!次からは一緒に修行しようね」
「…わかった。でももう少しだけいい?コツがつかめてきたとこなんだ」
「うん。見ててもいい?」
「えっ!うわ、緊張するな…先に戻っ…いや、危ないよなこんな暗いのに。わかった」
カトルはあたしの側にランプを置き、矢を3本つがえた。
キリリ…。
弓を引き絞り、狙いを定める。
…うわ、やっぱり素敵…。
弓を引くその姿に、あたしは釘付けになった。
綺麗なのだ。
ひゅん!
瞬間、矢は放たれて細い木にトトトッと突き刺さった。
「…うん、この感じだ…」
カトルはさらに3本矢を番え、放つ。
それが何回か続き、あたしは見とれていた。
「……よし」
そう言ってカトルが弓を降ろす頃には、細い木はハリネズミのようになっていた。
「っと、そうだリアがいたんだった!」
「え、何それ」
笑うと、彼も笑う。
「すげー集中しちゃったよ。…どうだったかな?」
「かっこよかったよ!カトルはやっぱり素敵だなぁ」
「…」
カトルはぽかんと口をあけ、手をわたわた振ってみるみる赤くなった。
「ばっ…違うよっ矢の軌道だよっ!」
「えっ…あ、そうなのっ!す、すごかったよっ」
かぁ、と頬に血が上る。
「…」
カトルはぷいと背中を向け矢を抜きに行き、振り返らないで言った。
「でも…ありがと…」
うわ、うわ、うわあ。
カトルってば可愛い。
後ろでにやにやしてしまう。
すると矢を抜き終わったカトルがちょっとむくれて言った。
「にやにやしてる」
「うっ、鋭いですねカトル君」
「はは、何だよそれ!」
あたし達はぽつぽつと他愛もない話をしながら戻り、おやすみ、と横になった。
明日は首都だ。
やることが、たくさんあるな…。
あたしは吸い込まれるように眠りについた。
……翌朝。
「ほら、見えたよー」
ルーシアの声はうきうきと弾んでいた。
「うわぁ!」
山なんて登っていないのに…目の前に広がるのは視界が霞む程に深い巨大な断崖絶壁だった。
世界がぱっかり割れてしまっているんじゃないかと思うくらいのそれは見渡す限りに広がっていて、その下は森が遠くまでを覆い隠し、湖とそこから続く河が見える。
ここから見ても湖はとても大きく、昨日野宿したものとは比べものにならないだろうな、と考える。
その湖の辺には広大な都市が見て取れた。
ルーシアの言葉から察するまでもなく、あれが首都なのだろう。
天気がいいのも手伝って、眺めは最高だ。
「すごーい!…ひゃ」
申し訳程度の柵から覗き込もうとすると、崖に当たった風が下から上に吹き抜け
ていった。
髪が舞い上がり、その感触が気持ち良い。
「うわぁ、風が気持ち良いね」
思わず言うと、カトルとルーシアが顔を見合わせた。
「そう…リアちゃんは強いねー」
「あぁ…。俺はちょっと…遠慮かな」
「えっ、何?何で?」
柵から手を離し二人に言う。
この風に何か問題があるの!?
…その答えはすぐに出た。
「きゃああぁーっ!やだーっ風やだあああー!」
「り、リアちゃん…落ち着いて…」
「高いー!きゃあぁーっきゃあーっ!」
泣きべそをかくあたしを、ルーシアが宥める。
カトルは笑った。
「大丈夫だってリア…別に捕まってれば落ちないからさ」
「でもっでもぉー!きゃーっ」
あまりの恐怖にカトルに抱き着くと、カトルは「うわ!」と言ってあたしを抱き留めた。
「り、り、リアっ」
「あーっずるいよカトル!俺も俺もー!リアちゃーんっ」
「うわぁぁっ!やめろよルーシアっい、今は…っ」
ガシィッ!
「え」
「あ」
「きゃあああああーっ」
どたーん!!
ひっくり返るあたし達の横を、からからと小石が転がって断崖の下に吸い込まれていった。
「ば、ば、馬鹿!!落ちたらどーすんだよっっ」
「ふぅー、命懸けのダイブになるところだったねー」
「何が命懸けだよっ落ちたら即死だ!懸けるまでもないからなっ」
そう。
首都に行くために、あたし達は断崖を下りなければならなかったのだ。
断崖にはジグザグに造られた細い道があり、所々無くなった柵に脅える私達を下から強風が煽ってくる状況。
強風はかなりの勢いで、体勢が崩れそうになるほど。
もし柵が無い場所でよろめいたら…。
……!!
考えただけでぞっとする。
「あの、リア?」
「…えっ?」
「そろそろ、どいてもらえると…」
「きゃあ!ごめんなさい!」
あたしはカトルに馬乗りになってしがみついていた。
慌ててどくと、カトルは「まぁ歓迎ではあるんだけど?」といじわるく笑う。
「え…や、やだ、馬鹿」
恥ずかしくて照れていると、今度はルーシアが笑った。
「初々しいのから、ちょっと進んだ気がする~」
「る、ルーシアっいいんだよっ!そんなとこ見てなくてっ!ほら、とっとと下りる!」
「はぁーい」
先頭がルーシア、次にあたし、しんがりをカトルが歩いている。
ユリさんがくれたブーツは登山するのにも優れていて、滑らないのが心強い。
でも風は恐い。
「うう…」
「大丈夫リアちゃん、落ちてきたら俺が受け止めるからねー遠慮なくおいでー」
軽口を叩くルーシアに、後ろからカトルが声をあげた。
「駄目!駄目だからなっ!ルーシアはすぐリアにベタベタしようとして!」
「わー、カトルは恐いなー」
あはは。
でも落ちるなら恐くないように一瞬で気絶したいよ…。
なんて不吉なことを考えつつ、あたしは必死に歩を進めた。
しばらく進むと、絶壁に造られた大きな窪みに着く。
「わ、何?ここ」
「テント用だよ。急な天候の変化とか、怪我とかに対応するためのね」
ルーシアが言う。
成る程、ここなら雨風を凌ぐことも出来そうだ。
「少し休憩しようか」
カトルの一言であたし達は窪みの中で思い思いに座った。
水分補給と、軽い食事をする。
「乾し肉とドライフルーツの組み合わせにも、そろそろ飽きてきたなぁ」
あたしがぼやくと、隣にいたカトルは口にフルーツを放り込んで言った。
「あはは、そうだな」
「あ、じゃあ俺、宿とったら買い出ししてくるよー。食料とか買い足さなくちゃだしね。リアちゃんは登録に行くし、カトルも一緒だよね?」
「あ…そうだな。頼めるか?ルーシア」
「うん、登録場所はわかるー?」
「あぁ、役所だよな。大丈夫!」
二人のやり取りを聞いて、あたしは何もわからない自分が情けなくなった。
何かしてあげれたらいいのに…。
考えてみたけど思いつかない。
ホントに情けないなぁ…。
悶々としてうなだれる。
「あと必要なのは運命に抗うカプセル達の情報か…どうやって集めたらいいんだろう」
カトルがそう言ったから、あたしは顔を上げた。
そうだ!
「登録したカプセルは居場所とかも管理されてるんでしょう?それなら聞いたらいいんじゃない?」
我ながら名案だと思った。
でも、二人は表情を曇らせる。
「あれ…あたし何かおかしなこと言った、かな」
「いや、違うんだ…そうだよな、法で決まってるって言っても、リアは知らないんだもんな」
カトルは静かに話し出した。
この国を治めているのは軍で、その上層部が政治も取り仕切ってる。
首都は簡単に言うと軍の中枢機関なんだよ。
首都にいるのは上層部と、歩兵・弓兵・騎馬兵の組み合わせで編成された第一から第五までの軍隊だ。
第六からは何隊まであるのかは知らないけど…各地に遠征したり、駐屯地に赴任してるってわけ。
で、ここからが重要な。
カプセルの登録は首都で行われ、その情報は首都にいる軍が保有する。
何か起きた時、いち早くそのカプセルを処分するために、さ。
法で定められているから、登録してないカプセルは来たばかりなのを証明出来ない限り、見つかり次第処分されちゃうんだ。
…カプセルの情報は極秘で、軍以外の閲覧は許可されていない。
軍がそれを元に目についたカプセルを「狩り」してるって噂もあるけど…実際はわからないんだ。
軍は登録することで「処分」からは保護されると歌った。
カプセル達は登録しないと処分されるから、そんな噂があっても登録することを余儀なくされたんだ。
「そうなんだ…じゃあ軍の人じゃないと居場所はわからないのね…」
あたしが頭を抱えてぼやくと、カトルとルーシアは顔を見合わせた。
「軍の人じゃないと…?」
あたしはまた変なことを言ったのかと眉を寄せた。
「え…また何か変なこと…言った?」
すると二人は同時に立ち上がると、あたしに駆け寄り手を取った。
「すごい!リアちゃん、ナイスだよ!」
「リア!お前すげーよ!そうだよ、そうだ!」
え、ええ?
はしゃぎだす2人。
意味がわからず口を開けているあたし。
何、何なの?
「軍しかわからないなら、軍の人間に聞けばいいんだ。軍の人間の信用を得るか、信用されている人と繋がりを持てれば…!」
カトルが意気揚々と言う。
あたしは言葉を反芻して、ばっと立ち上がった。
「そ、そっかぁ!」
「リアちゃんには辛い言い方だけど、忌み嫌われてるのはカプセルだからねー。普通の人であれば、信用を得るのはそう難しいことじゃないかもしれないよ」
ルーシアが気を使った言い方をしてくれる。
あたしは微笑んだ。
「いいよ、ルーシア。あたしにはわかってくれる人がいるから…頑張れるから」
ひどい扱いをされるかもしれないのは恐い。
でも、そばに2人がいる。
ユリさんも、エルシアおじさんも、村長さんも…あたしの味方だ。
あたしは二人の手をぎゅっと握った。
「よーし、そうと決まれば早く首都に行かなくちゃね!」
お読みくださってありがとうございます。
順次更新しますので、
お付き合いいただけたら幸いです。