1.ログイン
リア:主人公。兄を探すと決め、RPGにログインすることを決めた。
カトルシア:カトル。ログインしたリアを最初に見つけ、街に連れ帰る。
※恋愛要素を含むお話です。
データ認識完了…
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……
目覚めたそこは完全パラレルワールドのはずだった。
あるキャラクターを演じる…つまりRollPlayをするGame、通称RPGにおいて、仮装世界の設定は重要であり、その世界が織り成す物語上をプレイヤーはRollPlayしながら歩むこととなる。
当然、仮想世界は現実世界の人間によって構成され、カプセルというまさにでっかい錠剤のような機械に入ることでリンクできる。
簡単に言えば、特殊なベッドで眠り、特殊な夢を見ているような。
……しかしこの世界はどうやらただの仮想世界ではないらしい。
約25年前に開発されたこのゲームは、改良されながら、長い間かなりの人気を誇った。
けれど、今から3年前に法で禁止される程危険視されてしまったのだ。
何故なら、このゲームから目覚めた人が、後に問題行動をとるなど、異常が確認され始めたから。
そして、あろうことかゲームから目覚めず、植物人間になってしまう人もたくさん現れたのである。
……悪い時はそのまま死んでしまう例すらあった。
そんな中、あたしの兄も目覚めないうちの一人となった。
兄はRPGの開発者で、眠る兄の枕元には、あたし宛てに手紙が用意されていた。
「死ぬわけじゃない。俺をカプセルから出しても目覚めない。けど、俺は生きているから心配はない」
……ただ漠然と……あたしはその意味を模索した。
でも、わからなかった。
あたしはそれを突き止めるため、兄の残したカプセルを使い、法を犯しRPGに入ったのだ。
……
微睡みからの緩やかな覚醒。
ぼんやりした意識のなかだった。
「起きたか?」
「うぅ……ん……っ!」
跳ね起きるとそこは硬いベッドの上。
目の前には襟足の長い黒髪の美男子。
「……」
「そう警戒するなよ。俺はカトルシア。君は俺の村の前でカプセルから落ちて倒れていた。だから助けたってわけ」
「……」
「……なんだ? 言葉、通じないかな……?」
「や、違う……けど……」
答えながら、自分の身体を見る。
服はなんだかシンプルな民族衣装のようになっていたけれど、特に変わったところは無いようだった。
生地は麻……だろうか。
深緑で縁取られた衣服の袖は7分程の丈。
現実は冬だけど、ここはだいぶ暖かい。
「……そんなに服が珍しいのか?」
「え?」
「うーん……サイズはぴったりのはずなんだけど……きつかったか?」
……え。
そういえば彼の服もほとんど同じデザイン……。
「カプセルから出てきた人は『服着てないから』な。……迷惑だったか?」
「……! ……!?」
あたしはゲームだと言うことを忘れ、咄嗟に胸の辺りを両手で覆った。
「う、嘘でしょ……あたしの……は、裸……見たの!?」
「み、見たっていうかっ……いや、不可抗力だろ!?」
「き、きゃーっ! えっち! 変態! 来ないで!」
「ちょ、ま、待てってば! うわ、うわっ……」
近くにあった枕を振り回すと、カトルシアは頭を抱え、それを避けた。
「落ちつけったら! だ、大丈夫だよっ着せたのは俺じゃ、ない、しっ! あ、危なっ、やめろよ!」
「……っ」
はぁはぁと肩で息をしながら、あたしは枕を降ろした。
そ、そうだ。
そもそもこれはゲームで……現実じゃないのよ。
だいたい、何で裸なの?
最初にすることが服を探すことだなんて馬鹿げてる。
考えを巡らせていると、目の前の美男子がそわそわしているのに気付く。
「あ……ご、ごめんなさい…」
「いや……何て言うか見たのは本当だし……えっと、責任とるからっ」
「えぇ?」
「この村じゃ、女の身体を見た男はその女を娶る義務を負うんだよ。事故じゃなく故意な場合だけど……俺が君を助けたのは俺の意思だから」
ははぁ、成る程……。
物語の最初は彼と行動を共にするのだろう。
「そうなの……で、次はどこに行くの?」
「……え、いや、特にどこへ行くとかはないっていうか、うーん」
あ、そうか、そうよね。
物語を進めるんだもの、何か展開があるはずだ。
「そうよね、うんうん」
「なんだよ、変な奴だな……ところで、名前は?」
カトルシアは頬をかき戸惑った表情で言う。
「あ、えーっと……名前、名前は……リア」
本名は漢字だけど、教えたところで通じるとも思えない。
「リア……リアな!よし、覚えた」
カトルシアはにっこり笑うといきなりあたしの手をとる。
引かれて立ち上がると、彼の背があたしより頭1つ分くらい高いのがわかった。
そして、瞳がエメラルドみたいなグリーンなのも。
……わぁ、綺麗……。
「よし、じゃあどこか行きたいみたいだし……お腹空いてないか?飯に行こう! こっちこっち」
はっと我に返って、引かれながらあたしを掴む腕を見た。
……その腕はすらりと長く筋肉が程よくついている。
マッチョではないが細くもない。
そして何より温かい。
「……貴方、温かいのね」
呟くと、彼は振り返り笑った。
「ん? ……カプセルから出てきた奴はホント変なこと言うなぁ、当たり前だろ?生きてるんだから」
「……」
生きてる……か。
仮想世界を生きているのは、現実世界ではどういった表現になるのだろう。
それから、カプセルっていうのは……あたしがこの世界にリンクするために使ったあのカプセルなのだろうか?
「ねぇ、カトルシア? カプセルって……」
「あ!」
「??」
「カトルシアって呼びづらいだろ? カトルでいいぜ!」
「あ、うん」
カプセルのことは飯を食べながらにしよう、そう言って彼は階段を下っていく。
……あたしが寝ていたのは木で出来た温もりいっぱいの家の2階だった。
一階には暖炉があって、今は季節的に使われていないのか綺麗に掃除されている。
「母さん! 起きた!」
カトルが声をあげると、奥から女性が現れる。
……あ、なんだか普通の人。
見ただけならあたしとそう変わらない。
茶の眼で、茶のストレートの肩までの髪。
ほっそりした体型で背はあたしより少し高いくらいだろう。
彼女は少し憂いた顔をして、あたしを見る。
「……貴女、何故……」
「え?」
「……いえ、それは後でもいいわよね」
「……?」
物語に有りがちな、謎を残す展開なのだろう。
あたしは少し疑問に思ったけど、すぐそう思い当たって考えるのを辞めた。
「俺、リアと飯行ってくるよ。父さんのとこ!」
「わかったわ。……リア、と言うの?」
「え?あ、はい」
「……リア、胸を見て。貴女にはカプセルの印があるわ。……それを人に見られないようにするのよ」
「え……」
あたしは服の胸元を引き、確認する。
……花……のような印が、まるでペイントしたようについていた。
「……それから、カトル」
「わかってる、ちゃんとリアに話すから。行ってきます」
外に出て、あたしは眼を見張った。
「何これ……? 樹?」
「おう。ここは樹上の街、ラシュラン。綺麗だろ?」
そう、巨大な樹の枝の上に、町が存在しているのだ。
蔦を使った橋や階段があちこちにあって、繁る葉の隙間から零れる光が所々で見て取れる。
澄んだ空気は緑の香り。ちちち、と鳥の声がして、長閑な雰囲気だ。
「……綺麗……」
「ふふ、自慢の村なんだ。さ、こっち」
カトルに引かれるまま歩く。
蔦はしっかり組まれ、走ってもびくともしなそうだ。
しばらく歩くと、樹の幹に扉がある場所に着いた。
「ここは村のレストラン謙バー。俺の父さんの店なんだ。幹の室を使って造られてる」
「へえ……すごいのね」
ホントに関心する。
それが現実世界の人が考えたものでも、これはすごい。
中に入ると、中々盛況だった。
広さは、そうね……レストランにしては少し狭くて、バーにしては広いくらいだろう。
雰囲気がとても良く、あたしはすぐに気に入った。
「素敵」
「だろ! 良かった~、リアに気に入ってもらえて」
入ったあたしとカトルを、何人かのお客さんが物珍しそうに見ていた。
あたしが村人じゃないからかもしれない。
あたし達は奥に進み、カウンターの前に来た。
「父さん!」
「お、カトル? お前……おお、起きたのか!」
「あぁ、リアだ。……リア、俺の父さん」
「あ、初めまして」
「よろしく、私はエルシアだ」
カトルのお父さんは長いコック帽を被り、三ツ星レストランを絵に描いたような白い調理服を着ている。
黒髪に緑の眼はカトルと一緒。
違いといえば短く切った髪、カトルより少し筋肉質なところだろうか。
見た目はずいぶん若く、兄弟と言われても納得出来る気がする。
「2階にあがりな。適当に何か持って行くから」
「サンキュー! 行こう、リア」
◇◇◇
「さて……まずカプセルの説明からがいい? それともこの世界の歴史かなぁ…うん、歴史からにしようか」
2階はパーティーにでも使うのか、美しい装飾の個室があった。
あたし達はその一室で向かい合ってテーブルについた。
「……歴史?」
確かに、歴史には興味がある。
何故なら、物語を進む上で歴史は重要に違いないからだ。
カトルはにこりと笑うと話し出した。
◇◇◇
昔、俺が産まれるより前に2人の預言者がこの世界にやってきた。
当時世界は魔物が多く、村同士の交流はあまりされていなかったんだ。
魔物は人を襲い、喰らっていた。
2人の預言者は、その原因は魔物の長にあるとし、それを討伐しなければ人は滅びると言った。
確かに魔物の長は存在を知られていたし、実際被害もあった。
人は預言者に救いを求めた。
預言者は言った。
後に、カプセルに入った人間が空より飛来するだろう。
その者達が世界を救うだろう……。
◇◇◇
うん、やっぱり有りがちな気がする。
それであたし達は、勇者とか救世主として、魔物を倒すのだろう。
しかし、話はここで終わらなかった。
「まぁここまではよしなんだけど……」
◇◇◇
カプセルはいくつも飛来した。
それに入っていた人を頼り、人々は彼らを懸命にサポートしたんだ。
最初は良かった。魔物はみるみる数を減らしたんだ。
でも……カプセルに入った人……俺達はそのままカプセルと呼んでいるんだけど……は、それを逆手に取って、この世界で好き勝手し始めたんだよ。
略奪をするもの、女を犯すもの……殺人をするもの。
もちろん、カプセル全員がそんなことしたわけじゃない。
だけど……人々はだんだんと預言を信じなくなった。
揚句、カプセルを敵として扱い始めたんだ。
それが、約3年前のこと。
◇◇◇
「えっ……じゃあ……」
「母さんが言ってたろ? カプセルの印は見られるな。……今もカプセルを敵視する人々が多いんだ」
「そ、そんな……」
……あたしは現実世界の記事を思い出した。
【ゲーム、RPGをプレイした人々が、目覚めた後異常な行動をとるという事件が多発】
【原因は脳に仮想世界をリンクさせることではないかという仮説が……】
……まさか、それは、本当に仮想世界で暴虐の限りを尽くした人々が目覚め、とった行動なの……?
現実と仮想世界の区別がつかなくなるなんて、馬鹿げてるよ!
確かこのゲームは「世界の命運は君が握る」がキャッチコピー。
歴史の前半が、まさにそれを表しているはずだ。
でも後半はおかしい。
あたしは口元に手をあて、考えを廻らせた。
この仮想世界は……設定を外れて成長してしまった……とか、有り得るだろうか?
現実世界の人が作ったはずなのに……カプセルがおかしな行動をとったせいで、変な方向に……。
そもそもこの世界はデータとして存在しているはずだろう。
でも、それならそれを修正すれば良かったんじゃ……いや、無理……?
確か当初からの開発者2人は法で禁止が決まるのと同時……つまり3年前、資料全てを破棄して同じく植物人間になってしまったはず。
兄が手伝っていた人達だ。
【植物人間をカプセルに戻せば意識が戻るはず、開発者2名、被害者家族に詰め寄る……精神錯乱か】
記事を思い出す。
とにかく、データを直すことが出来なくて、そのままゲームは禁止されてしまったのではないか……。
「聞いてる?」
「えっ……」
「だから、今も残ってるカプセル達は首都で登録してるんだ。リアも登録しないといけない」
「……! ま、待ってカトル! 今もカプセルがいるの??」
「あー、ホントに聞いてなかったな? 仕方ない奴だなぁ」
そんな馬鹿な。
だって法で禁止されてるのよ? 今もカプセルがいるのはおかしい……!
そこまで考えてはっとした。
あたしは眼を見開いたに違いない。
まさか……この世界に残ったままのカプセルが植物人間になった…?
「……待たせたな、ほら! 特製オムライスだぞ!」
がちゃ。
そこに入ってきたカトルのお父さんはふわふわ卵のオムライスを持っていた。
いや、待って。ただの予想、仮説よ。
あたしは一度考えるのを辞め、食事に集中しようと思った。
一旦落ち着いて、それで考えよう。時間はまだまだあるのだから。
ふーっと息を吐いて、目の前に置かれたオムライスに視線を移したあたしは、思わず声をあげた。
「わ……美味しそう」
「だろう! あとスープだ。……リアと言ったね、ユリには会ったかい?」
「ゆ、ユリ……?」
「母さんのこと。まだ話してはいないんだ」
カトルが付け加える。
「そうか、じゃあ今夜はユリと話してやってくれないか? きっと話したがってる」
にこりと笑うその顔がカトルに似ている。
あたしは「はい」と返事をしてそれを見ていた。
◇◇◇
「……ここ3年、新しいカプセルは来てないんだって。預言者もカプセルはもう来ないと言ってた。……でも、リアが来た!」
オムライスを美味しそうに頬張りながら、カトルは嬉しそうに言う。
「なぁ、もしかして……リアがこの世界を救うかもしれないだろ?」
「え……?」
「……あ……しまった、今言ったことは胸にしまってくれ。……母さんが聞いたら怒るから」
「……? うん……」
ここ数年、カプセルは来てない……。
やっぱり、法が出来てからは誰も来てないんじゃないだろうか。
そうすると、やっぱりさっきの仮説が現実味を帯びる。
「……なぁ」
「ん?」
「美味いだろ、オムライス」
「うん、美味しいね」
「母さん直伝なんだ。父さんが作れるようになるまですごいかかったって話。料理あんまり出来ない母さんが唯一父さんより上手く出来るのがこれなんだよ」
カトルは言って、少し困った顔をした。
「……ごめん、俺ばっかり話してるけど……うるさいかな?」
「え?」
「いや、だってリア……あんまり話さないからさ」
「……」
あたしはオムライスを運ぶ手をとめ、まじまじとカトルを見た。
カトルも、あたしをじっと見ている。
……仮想世界の彼等は、温かい。
笑うし、困るし、きっと悲しんだりもするんだろう。
食事もし、生活を営み……そして、死にもするらしい……。
これは、生きているのと何が違うんだろう。
「……ごめん、変なこと言ったな。食べようか」
カトルがまたオムライスを頬張ると、ケチャップが口元についた。
彼はまるで沈黙を埋めるようにぱくぱくと食べ続ける。
「ふ、カトルってば」
「え」
あたしはそっと手を伸ばし、彼の口元を拭う。
「……!」
「ごめんね、まだこの世界がよくわからなくて戸惑ってたの。ホントはもっとおしゃべりよ? ふふっ」
カトルは口をぽかんと開けていたけど、やがてかぁーっと赤面した。
「う、あ……えっとっ……あ、うんっっ」
「えぇ、何その反応?」
「だ、だって……お前全然笑わなかったからっ……ふ、不意打ち…」
そして視線を外し、憮然と言った。
「……そんな可愛いなら、もっと笑えよ……馬鹿な奴」
「!」
今度は、あたしが赤面する番であった。
こんなこと、現実じゃ絶対に言われないもの!
******
……その後、少し休んでからカトルは村を案内してくれた。
村の人はとても優しい人ばかり。
あまり大きな村じゃないからか、みんなが知り合いのようだった。
彼等は所々危ない場所でカトルに手を引かれるあたしを見て「カトル!そのこがお嫁さんかい?いいねぇ」と囃し立てる。
わかってる。これは仮想世界だ。
わかってるのに――そのたびにあたしは赤面してしまった。
お読みくださってありがとうございます。
読みにくい点などございましたらご指摘くださいませ!
だいぶ前の作品ですが、
折角なので…
お付き合いいただけたら幸いです。