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12/22

7/1(2)

「なんっで、瑞乃枝さんが居るのよ!!」


 俺が家に帰った直後に聞いた言葉は、それだった。

 ユカは、いつも通り俺が帰る時間に合わせて俺の元へ来ようとしていたらしい。

 でも小鳥が居たため、姿を現せず逃げるように家に戻ってきたと言った。


「言ったの? ねえ、やっぱり私の事瑞乃枝さんに言ったの?」

「言ってない」


 そもそも言う理由がない事くらい、ユカにも判るだろうに。

 でもそれを考える余裕がないほどに動揺しているようだ。少し前に見せていた面白いポーズを再び色々と取っている。

 ポーズを変えてはぶつぶつ呟いて、またポーズを変える。

 小鳥の結界的なものは、ユカとかそういった類のモノが近くに行くと情緒不安定にでもなるようになっているのだろうか。

 さっさと誤解を解いた方が良いのかもしれないが、俺としてはこのポーズは久々だし面白い。ユカが落ち着くまで眺めていることにした。


 が、なかなか落ち着かない。

 そんなに小鳥が付いて来た事が問題だったのだろうか。


「実は私の事敵だと思ってるわけ?」

「そんなわけないだろ」


 面白いポーズは続いているが、そろそろ落ち着いてくれないかな、面倒になってきた。

 なんて思っていると、ユカは前足で自分の顔を覆い隠し、動かなくなった。

 また少しもするとうだうだ動き始めるだろうと思ったが、本当に動かない。『動けないのは辛い』と以前言っていたヤツには見えないほどだ。

 え、もしかして、この格好で寝てる?

 不思議と、まあこのままならこのままで良いかと思えてしまったので、ゲーム機の電源を入れた。


「ねえ」


 電源を入れてから少しした所で、後ろから声がした。俺は視線を動かさず、そのまま気の抜けた返事を返す。

 すると、ユカがトコトコ寄って来て俺の隣に座った。

 ユカを盗み見ると、右前足を口に当てて、いつもの考えるポーズをしている。

 何を考えているのか判らないが一応落ち着いたようなので、ゲームを一旦中断してコントローラーを置いた。


「なんで瑞乃枝さんと一緒に居たのよ」

「一緒に居たってか、見てないのか? 理由は判らんけど尾行されてたんだよ」

「え、ああ……。そうなの」


 ユカはそれで合点が行ったらしい。大きく頷いた。

 ちなみに、やっぱりユカは小鳥の近くまで寄れないらしく、俺と小鳥が一緒に歩いているものだとずっと思っていたらしい。

 とは言っても、小鳥とは部活休みだった場合よく一緒に帰ってるから、ユカが言ってる「一緒に帰ってた」ってのもおかしい話では無いのだが。

 それより、今日なんで小鳥が尾行していたか判った気がする。

 部活が休みだったかどうかは判らないが、多分俺の事を心配して付いて来てくれたのだろう。朝も猫又がどうこう言ってたし。


 でも、これから毎日付いてこられても困る。小鳥も部活があるしな。

 明日言って――ああ、それは逆にまずいのか。さて、どうしたものか。


 ユカが前足を口に当て、俺が腕を組んで悩む。

 ん?


「ユカは何を悩んでるんだ?」

「いやね、よくよく考えれば、キミと瑞乃枝さんが一緒に居るのは別におかしくないと思って。この状況だと、むしろ私が邪魔してるのよね」


 まあ今更だしぶっちゃけその通りなんだが、面と向かって「そうだな」と言えるほど俺は毒舌じゃない。多分。

 だから無言でそっぽ向いておいた。

 ユカはそれをどう受け取ったのかは判らないが、また考えるポーズをした。


 俺は再びゲームに戻る、が、そう言えば一つ気になる点があった。どうでもいいと言ってしまえばそれまでだが、俺としてはどうしても確かめたい。


「ユカ、この前のハイスコアとった時どうやったんだ?」

「うーん、あの時は絶好調だったから……」


 ユカはそう言って苦笑いする。

 絶好調か。絶好調って言うと、確か『日が良い』時だったか。やっぱ周期でも決まってるんだろうな。俺が肩代わりしようとした時には丁度タイミングを逃して、そのまま今に至ると。

 ある意味運が良かったとも言えるのか。その日が数日ずれていたら、宗平の話も聞かずにもう俺は死んでたわけだしな。


「少なくとも、今はできないわよ」


 と、付け加えた。まあ俺としては猫がゲームでハイスコアを取るシュールな光景を見てみたかっただけなのだが、叶わないのなら仕方ない。俺はもう一つのコントローラーをユカに渡した。

 話してても良い話題はあんまり無いし、辻褄合わせまでの期限は短いし、ってそうだ、大事な事を忘れてた。


「そう言えばユカは、今回の仕事が終わったらどうするんだ?」

「えっと、終わったらって、誰かが亡くなったらって事?」

「そうなるな」


 うーん、とユカはいつも通りに考える。考える要素があるのだろうか。

 即座に『終わったらさっさと帰るわよ』くらい言うとは思っていたんだが。

 それとも、何か残らないといけない理由か何かあるのだろうか。後始末的な事をする必要があるとか。


「多分、ちょっとしたら帰るわよ。一応こうやって出向く必要がある仕事は、最後まで見届けるようにしてるの。特に意味はないんだけどね」


 俺は先ほどから、協力プレイが可能なゲームソフトを漁っていた。もちろん、ユカの話は聞いているし相槌も打っている。

 良さそうなソフトを見つけて、ディスクを入れた辺りで、ユカは言いにくそうに、でも俺にちゃんと聞こえるように呟いた。


「でも、キミが辻褄合わせの対象にならなければ……。話せる人って稀だし、たまに遊びには来たいわ」


 それ自体は全然構わないのだが、死神っていうのは孤独なのだろうか。

 確かにそういうイメージはあるし、ユカ自身も他の死神は見たこと無いなんて言っているから、そもそも滅多に誰とも話さないのかもしれない。

 俺が頷いてやると、少しユカの表情が和らいだ気がした。


 あ、でも小鳥……。

 いや、まあ根拠は全く無いけど大丈夫な気もする。ユカは悪いヤツじゃないし、ひと段落着いたら紹介してやれば案外仲良くなってくれるかもしれない。

 話せる人ってのは貴重みたいだからな。良い友達になってくれればとは思うけど、小鳥も頑固な所あるからなあ。

 それに何より、死神の仕事について納得してくれそうにない。が、まあ全部想像だ。お互いの為にも、なんとかして引き合わせてやろう。

 ユカには友達作りの為に、小鳥には悪くないヤツも居るんだって言ってやる為に。

 結果的には俺の為なんだけどな、ユカが居る間ずっと小鳥に嫌な顔をされるのは嫌だし。


 さて、で、結局俺が物思いに(ふけ)りながらやっていた協力プレイだったが、案の定猫の足ではアクションゲームは難しいらしく凄いスピードで前足が動いていた。

 そりゃもう、コントローラー壊すなよ、と途中で言ってしまったほどだ。

 ユカは苦笑しながら「判ってるわよ」なんて言っていたが、素晴らしい動体視力と運動速度でコントローラーをびしびし叩く。

 協力プレイとはいえ俺より先に残機を減らしたくないのだろう。負けず嫌いここに極まれり、だな。


 ちなみにこれもどうでも良い事だが、猫の前足でも素晴らしい動体視力さえあればアクションゲームですらそれなりにやれる事が判明した。


 暫く一緒に遊んでいたが、ちゃんと言っていた通り加減をしたのかコントローラーが壊れる事は無かった。

 ユカはやっぱり体勢が厳しかったようで、首が痛いと言って寝転がっている。

 それならあんなに頑張るなよと言いたくなったが、それを言うと怒りそうだからやめておいた。多分、負けず嫌いには禁句だろうしな。

 ってかそもそも、ちょっとした台か何か用意してやれば良かったか。


 俺はゲーム機を片してから伸びをして、机に向かった。

 日課である勉強を始めようかと思った所で、もう一つ気になることがあったのでユカに訊いてみる。


「そう言えば、明日辺り友達(ダチ)呼んでみても良いか? 他の人がユカを見るとどう見えるのか気になってたんだ」


 ユカはゴロゴロしていたが、少しすると言葉が頭の中に入ったようで、シャキッと居住まいを正した。


「ちょっと待って、その人に私の事話したの?」


 しまった、と瞬間的に思った。

 ユカは自分の存在が色々な人に知られるのを快く思っていない節がある。

 宗平は無関係だと思っていたし、俺個人としては話しても問題ないなと考えたから話したが、ユカ的にはやっぱりダメだったか。

 とりあえず言ってしまったから仕方ないと、俺はユカに色々と事情を説明した。

 ほぼ初日だったから話すのがまずいとはあまり思っていなかった事、知っている限り小鳥には絶対に言わないような人間である事。

 俺が一人で考えるよりは一緒に考えてくれる人が居た方が効率がいいと思い、話してみた事。

 昔から俺や小鳥と仲がよく、こういった不可思議な現象にも耐性や理解はある事。

 もちろん、宗平自身が辻褄合わせの対象になる可能性もあると言った事も含めて。


 ユカは黙って聞いていたが、やがて頷いた。


「そこまで判ってるなら、まあ良いわ。会っても良いけど、どうするの? ここに来るの?」

「ああ、ウチに呼ぶつもりだ」


 もし宗平が明日バイトあるようだったら呼べないが、一応呼ぶつもりであると言っておいた方が後で揉めなくて済むしな。

 確認を済ませたので、俺は机に向き直る。

 その後ユカが「まあ、どうせ見えないけどね」とため息混じりに呟いたのが何故か印象的だった。

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