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過去短編集

夏の子供戦争

作者: 舞崎柚樹

 午前11時を回ったくらい。

 夏の日差しが部屋には刺さるように、眩しすぎるくらいに入ってくる。

 半分だけカーテンを閉めて遮る。

 水分を求めて腰を浮かせたその時。

 数名の悲鳴が耳に届く。

 何事かと、台所とは反対方向のベランダの方へ。

 何のことはない。公園で子供が遊んでいるだけだ。

 鬼ごっこだろうか。幼稚園児くらいの女の子が同じく幼稚園児くらいの麦わら帽子の女の子を追いかけていた。

 追いかけている子も、追いかけられている方も大声を出しているのだ。

 少し距離があったので、表情まではわからなかったが。

 そして、追いかけられていた麦わら帽子の女の子はそのまま母親の元へと走って逃げていく。追いかけていた子は、その場で足を止めてしまう。

 子供にとって、親は頼るべき存在で、最後の砦で……守護神とも言える存在だろうか。

 少しして、鬼ごっこが再開する。

 同じように追いかけ、追いかけられ、夏のひとときを過ごす。

 正午になれば、ベンチに座ってお昼ご飯を食べる。

 昨日の敵は今日の友とはよく言ったものだ。敵であったのは、たかが5分ほど前のことではあるのだが。

 食べ終わり、また遊ぶ。

 悲鳴というより、奇声というのか、ただ大声を出しているだけなのか。

 それは本能的な行動であるのか。

 敵に向かって威嚇する。動物的行動だろうか。

 鬼ごっこのルールを正確に把握しているとは思えない年頃だと思いつつ、自分も誰に鬼ごっこのルールを教わったのかなんて覚えていない。成り行きだったのだろう。周りの子供が遊んでいる中で、突然参加し、その場の雰囲気だけで走り回る。触れられたら負けなのだと、その時に理解していたのだろう。

 こう考えると、子供の方が大人よりも臨機応変なのかもしれないと思えてしまう。

 それにしても、子供の声は随分と響くものだ。窓を開けているとは言っても、少しばかり距離がある私の部屋にまで聞こえる声だ。それを何分も出し続けて走り回っているのだから、子供の遊びに関する体力には驚くしかない。

 そして、遊びは次第に人数を増やし、小さな戦争へと発展していく。

 飛び交う悲鳴と悲鳴。

 公園内を縦横無尽に駆け回る子、遊具の間に隠れる子、延々と滑り台を滑りながら逃げる子。個人個人、自由に行動し、様々な価値観のもとに逃げ回る。

 それでも、全員に共通して存在する意識として、自分以外を敵とすることがあるようだ。そのためか、全員近づくものには容赦のない威嚇を浴びせる。

 バトルロイヤルである。

 その戦いも、おやつの時間には終わりを告げる親の声が公園の中に響く。

 きっと、これから家に帰って3時のおやつ。

 そして、お昼寝……そんなところか。

 よく遊び、よく学べ。どこかで聞いたことのあるフレーズではある。

 子供達が鬼ごっこという遊びに何を学んでいたのかはわからない。

 だが、よく遊び、よく食べ、よく眠る。子供の活動において、この3点が彼らにとって何も問題が無く日々を過ごせるための条件なのだろう。


 夏の子供に学ぶことは、多かった。

 今日もまた、明日もまた、開戦の声が鳴り響くとき、彼らは小さな公園の中を一心不乱に駆け回る。

 夏という季節が続く日まで。

読んでいただきありがとうございます。


公園っていいな。そんなふうに思えたひとときでした。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  はじめまして。双子と申します。  舞崎さんの作品を読んで、観点が良いなぁ、と思いました。公園で鬼ごっこをしている子供達から連想される「自分はどのようにルールを知ったか」など、すごくはっと…
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