戦闘
サグリアの一撃一撃は、どこまでも重く、速かった。普通、感情に身を任せた者の動きと言うのは普段よりも悪いはずなのだが、サグリアはそれを上手く制御していた。その強さは、一国の護衛騎士3人位は同時に相手取れるだろう。
(さあさあ、もっとやってくれよ!)
だが、相手が強ければ強い程、テンションが上がるルギナスは、そんなことは問題ではなかった。
というか、そもそも問題にもなり得ない。それだけ、経験の差があるのだ。
だからこそ、期待を込めて大剣を斧で押し返す。自分を満足させてくれるように。自分を潤してくれることを願って。
「アァあァアアぁぁ!!!」
押し返されたサグリアは天に向かって吠え、何かの呪文を発動させた。
狂魔法『怒り狂う強者の怒り』。狂気化したときのみ使える、はっきり言うと面倒な魔法だ。
効果は、半径50m以内の敵全て、その周辺に無数の爆発を引き起こす。ルギナス以外の3人は確実に50m以上離れてるので安心だが、問題はルギナスだ。とてつもなく威力が大きい『あれ』に巻き込まれたら、この世にいた痕跡は蒸発して全て無くなるだろう。
ただこの魔法の発動には、1秒の合間が空く。その1秒と言う時間は短いが、とても大切だ。
ルギナスが、少し表情を変えた。楽しそうなものから、周囲を窺うような険しいものに。
それから、一瞬にも満たない速さで『道具袋』の中から剣を取り出し、構えた。
拡張魔法『道具袋』。べースガイア-βという、この世界に近い別の世界……いわゆる裏世界に繋げ、そこに物を溜め込めるという便利すぎる魔法である。
閑話休題。
そうして取り出したのは斧と同じくらいの大きさの剣。どちらも、斬ると言うよりは叩き潰す方が向いていそうだ。
右手に大斧を、左手には大剣を構え。そして2つの武器に気と体内の力を流し込む。武器自体の強度と切れ味を3倍位にしたところで準備完了。
この間なんと僅か0.5秒。
そして……
…………イイィィンガボオォァアアアンッ!
もはや爆発音とは思えない音が、盛大に鼓膜を揺るがす。爆風と熱風が木々の間を駆け巡り、ほぼ枠組みだけとなった建物を吹き飛ばす。
「技、速さ、意思、殺す事に対する躊躇いの無さ、いいねぇ。…強いて言うならば、剣の手入れか。その剣、血の臭いが酷い。武器はもっと大切にしねぇと嫌われんぞ?」
そんな中で、どこかふざけた感じで、2つの巨大な武器を器用に振り回しながら、呟くルギナス。
その武器は、本来斬れないはずの魔法をもぶった斬り。
しばらくすると、爆発は止んだ。巻き上げられた土埃が、辺りに立ち込めて。じっ、とルギナスがその中のある一点を見つめる。
と、次の瞬間、サグリアがそこから飛び出てきた。目を血走らせ、涎を垂らし、完璧に正気ではない。
再びぶつかる武器、散る火花。一人は狂い、一人は楽しみながら音を奏で、共に踊る。
何回ぶつけあっただろうか。ある時それは急に起きた。
…ピシ、ピシピシッ
そんなよくよく耳を澄ましていないと聞こえない程の音がサグリアの剣から聞こえた。
両者共に想像を越える力をぶつけあった結果、剣に限界が来たのだ。
「ほらな。だから大切にしろ、と言ったじゃないか」
ルギナスは横から斧の方を一閃。サグリアは何も考えず、剣で受け止める。
しかし、剣はまた不愉快な音を立て、斧がめり込んできた。
ミシミシと死の音を奏でながら、サグリアの首に迫る斧。
自分の剣が壊れていくのを深緑のどこか濁った目で見て、彼は何を思うのだろうか。敗北感、絶望、…はたまた死を思うのだろうか。
そんなことを考えながら、ルギナスは戸惑うことなく更に斧に力を込め、一気に大斧をそのまま振り抜き、サグリアの首にそれを埋めた。
………そして振り返る。森にこそこそ逃げようとする、男達に。
「ひっ、ひいぃぃ………」
誰かがそんな声を上げる。ルギナスは無言で1歩前に出た。男達はみな1歩後ろに下がる。ルギナスはまた1歩前に出て。今度は2歩下がる男達。
そんなことを繰り返していると、男の中から1人、奇声を上げながらルギナスに斬りかかる者が出た。勿論黒いオーラを纏った状態で。
しかしそれは呆気なく一瞬で切り伏せられる。
逃げ場が無いと判断したのかそれぞれ目配せし、約10人全員が一斉に土下座をした。
「お、お願いします!!殺さないで下さい!何でもしますから!」
「…………人を殺す事で手に入れる力なんて要らねぇ。そこに走ったお前らをなんで助けなきゃなんねぇんだよ。……それに、さっき言っただろ。覚悟はできてるか、って。それだけ重いんだ。それをよく考えてからまたやってこい。この世にな」
唸る様なルギナスの声。
そしてそれと共に振り下ろされる斧と剣。
声になることのない絶叫が森に響きわたった。




