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嵐の前の会話

 案内してくれた大柄な男はサグリアと名乗った。サグリアはこの教会の神父を紹介してくれるらしく、狭く曲がりくねった通路をすいすい進んでいく。

 レゴラスはサグリアの後をある呪文を小声で何回も呟きながら、追っていた。




 魔術『分身』。魔術によって姿を変えた(マナ)に耳や目を付けたものの事で、更に足や手を加えることで、その行動範囲は広がる。また、分身が得た経験は任意で本体に送られる為情報収集に役に立ったりする。

 レゴラスの使える魔術は『分身』を使いやすい水。ほんの少量、水をすれ違う人の服につけるだけで情報がたくさん集まるのだ。正に諜報活動にはもってこい。



 しばらく歩くとホールのような部屋に出て、ここで待っているようにとサグリアに言われた。サグリアは奥の部屋に入っていき誰かと会話しているようだった。恐らくあれが神父なのだろう。

 ここからでは会話が全く聞こえないので、レゴラスはサグリアにつけた『分身』を使って聞くことにした。




「どうしたのじゃ」


 神父と思われる男がそう言った。声からして60代後半くらいだろうか。穏やかそうな感じだ。



「4人の旅人を連れて参りました。雰囲気からしてかなり強そうなのですが、道に迷ったと申しております」


「ふむ…。罠にかかった様子は?」


「全くもってありません。しかも旅人と言う割には、防具らしきものを着けているのが一人だけで、後は全員ただの服を」


 旅には危険が付き物だ。だから旅人の多くは鎧をつけるのが普通なのだが、彼らはそれを着けていない。それが示すのは彼らが旅人であると言うことが嘘なのか。


 それとも………鎧に頼る必要も無い程強いのか。



「確かに、少し怪しいのぉ。……じゃがまぁ大丈夫であろう」



 その言葉と同時、神父が姿を現した。青と白の神官ローブを身にまとった、白髪の老人だ。その顔には深い皺が刻まれており、これまでの壮絶な人生を物語っていた。


(かなりの苦労人だな)



 人生というものは顔に刻まれる。

 これは、2300年以上生きてきたレゴラスなりの結論だった。楽しい人生を送っていればいかにも幸せそうな顔になるし、逆に苦痛の人生を送っていれば顔も苦にまみれた顔になる。

 この神父は苦と楽を2:1の割合で混ぜ合わせた様な顔であった。苦にまみれながらも、なんとか希望を見出だした、そんな感じだった。


「初めまして。私は、この教会の神父のアルフェイガス」


「こちらこそ初めまして。旅人のシュヴィッツです。こちらがアレスとロンとレストルです。今日1日ですがお世話になります」


 アーサーがすらすらと淀みなく、レゴラスも聞いたことの無い名を名乗った。

 アーサーはいつも正直者だが、嘘をつく必要があるときは呼吸をするように平然と嘘を吐くので怖い。自分が最善であると思えば、自分をどこまでも貶めるのだ。


「ふぉっふぉっふぉ、礼儀正しいのぅ。じゃが、困った時はお互い様じゃ。人はみな、助けあって生きている」



 そうアルフェイガスが言ったとき、僅かに目で何かが光った。あれは捕食者が獲物を前にした時の輝きだった。




 だがアルフェイガスは知らない。その獲物は、捕食者を喰らう捕食者だということを。





 それから、離れに通された。アーサー達4人はそれぞれがばら撒いた『分身』が情報を集め終わるのを待っていた為、夜までは武器の手入れをしてじっとしていた。




 そう、夜までは。

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