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侵入者ゲーム

「うーん、よしよし!まぁ、体もほぐれて来たし、ちょっとした遊びをしようか!」


 早朝から始まった練習を中断させる声。紛れもなくエリザの師アーサーの声だ。


「ほぐれ過ぎてもうボロボロの人もいますがね……」


 思わず小声が漏れる。しかしエリザは前に、何度も敬語とため口の切り替えのせいで稽古が増えたので、思わずだったが敬語だ。

 この言葉はアーサーには届いたのだろう。が、彼は無視して言葉を続けた。


「侵略者撃退ゲームだ!」


「え?侵略者っスか」


「そうそう、侵入者。皆、これを見てくれる?」


 エリザの隣にいた弟子の1人の言葉に、ロイドが答えた。

 その声に釣られて全員が『それ』を見る。


 それは、カクカクと左右に蛇行する一本の隆起した幅2cm程、高さ2mくらいの道だった。恐らくロイドが土を操って作ったのだろう。エリザにとって、遊びで魔術を使うなんて物凄い才能の無駄遣いなのだが。


「今から君達にはこの足場を一列でゆーっくり、進んでもらう。曲に合わせて一歩ずつ移動して、無事に渡り終えたらクリアだ。ご褒美はご馳走ってことで」


 弟子達はご馳走という言葉に反応し騒ぎ出すが、つまり高級なご褒美を用意するということはそれだけ生存率が低いということ。エリザはどんなものをさせる気だと突っ込みたくもなるが、ご馳走は食べたいので黙っておく。


「よーし、じゃあスタートー!」




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


 陽気な曲が野原に響く。そのテンポに合わせて少しずつ動く謎の列は中々にシュールな光景だったが、本人達は至って真剣だった。


「うぉりゃー!!」


 剛速球が弾丸の如く飛んでいく。

 掛け声は何ともゆるいのだが、カラフルなバランスボールを大量に投げるその様はある種の感動を呼ぶ。

 色とりどりの巨大弾丸は2cm程度の細い足場を渡る者にとって脅威でしかない。リズムに乗り、前進し続けながらどでかいボールを避けるのは至難の技だ。しかもそのボールの投手は一々カーブとかを付けながら、侵略者役の人達を着実に狙ってくるのだ。嫌らしいというしかない。


「ふっ!っとぉ!」


 しかし避ける者もこのひねくれ者に鍛えられてきた猛者。脱落者をだしながらも、限られた足場の中でボールの回転から軌道を読み、避けていく。

 避けれない時はバランスボールを蹴りあげ、切り捨て、頭突きで退け。


「……避けてないねぇ」


「いや、あれを避けれる方がおかしいだろうよ……」


「確かに」


「まぁあいつらの訓練にはなるしいいんじゃない?」


 そんなことを、ほけほけと呟くひねくれ者達。勿論その間も腕は休めない。


「んーまぁでも、そろそろ本格的に頑張りますか。お金も勿体ないし」


「餌にしときながらそれかよ。道場(ここ)にいるときってアーサー何気に黒いよな」


「理不尽かつ効率的に。これが(服装と性格が)黒い悪魔さんのモットーだからな」


「……そんなことを言いながら結局おまえらもノリノリで参加してんだよな」


 どこまでもゆるい会話と共に、ボールを投げるスピードが上がる。ちなみにバランスボールはロイドがこの為だけに創った魔法なので、数は魔力さえあれば無制限である。

 もはや弾丸は侵略者役の視界一面と言っても過言ではないほどに広がっていた。避けても避けても次の弾が襲いかかりっていき1人、また1人と数を減らしていく。

 だが彼らはそれでも諦めない。自らの夕食の為に。


「進むことを意識しながら避けるとか、無理だむぎょぉ!?」


「あぁ、ロン!?…さすがにキツいッスよぉエリザ先輩!?」


「…諦めたらそこで侵略失敗だな。まぁ、そうしたいんならそれでいい。美味しい夕食は私が1人で頂くからな」


 夕食は彼らの原動力。食べ物の恨みは怖いと言うが、それは食べ物への執着が強いからである。

 そして――


「「「それだけはさせませんよぉっ!!!」」」


 ―――それに釣られた人は、時に神に打ち勝つ力を持つのだ。




▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲▽▲


「駄目だ……。あぁ、俺の…俺の財布が軽すぎて、逆に浮いていきそうだ………」


「大丈夫ですって。財布は重力に逆らって重さがマイナスになることはありませんよ。ちゃんと0で止まります。……重さは、ですけどね」


 さて、結果は侵略者側の勝ちに終わった。ちなみに、ロイドが用意した足場を最後まで渡りきったのは20人中3人のみである。残りはただ今、壮絶に落ち込んでいるとか、いないとか。


「いやー、白熱したなー。久しぶりに楽しめたよ」


「あー、久しぶりに魔力が半分切ったぜ」


「ったく、お前の魔力はどんだけ低いんだよ……」


「うるへー」


「………なんか、もう…話の桁が3つ4つは違いますね」


 普通はあんな魔法を大量に撃ったら、それこそ魔力がマイナスになる。それはもう、体が残らないくらいに。それが半分で済ませられる(しかも3人は半分さえも切っていないという事実)と言うことがこの人達はどれだけ規格外かを示しているだろう。


 ―――だからこそ、追いかけがいがあるんだけどな。


 エリザは心の中でそう呟いた。彼女の目指す理想は未だ遠く。


「……まぁ、取り合えず、ごちそうさまですね♪」


「うわぁ…いい笑顔だ……」

スペースイン○ーダーゲームしようぜ!

お前、イン○ーダーな!


――みたいな……?

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