侵入作戦
「シークレット・ラボ、ですか。」
「にゃにゃにゃ、主が持ってくるのはいつも難題にゃ。」
エリザは困惑したように繰り返し、黒猫は楽しそうに笑った。
ガレン帝国のシークレット・ラボというのは、帝国の領地に存在している工場の様な見た目の研究所である。シークレットと言う割には大勢の者がその存在を知っているのだが、何を研究しているのかは分かっていなかった。ただ分かっているのが、そこには厳重過ぎるという程警備が固い、ということ(それなのに厳重そうに見せていない、ということがポイントだ)。
「まさか情報屋に行った理由ってそれですか?」
「まぁ、そんな感じだ。」
「それで、にゃにが研究されてるのにゃ?」
「そうだな・・・・・・世界最大の大量破壊兵器の設計図といったところか。」
レゴラスの言葉にエリザの頬が引きつった。さらりと言ったが、とても大変なことだ。
「それを手に入れてどうするつもりなのですか?」
「分かっているだろ、消す。あれは存在していて良いものじゃ無い。」
その兵器に何か思い出があるのだろう。そう断言するアーサーの顔に一瞬不快の色が浮かんだ。が、それは本当に一瞬で、すぐに消えた。
「作戦はあるのですか?」
「これから立てる。だから恐らくしばらくはここにいられるだろうな。」
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それから数日後。部屋に響くのはカリカリというペンの音。どこか遠くからキンッという金属同士がぶつかる音が聞こえるのは、ここが道場だから故か。そしてたまに聞こえる爆発音は気のせいだということにしておこう。
その部屋にいるのは2人と1匹。1人はふかふかの黒い椅子に座りただ黙々とペンを滑らせ、もう1人はその少し後ろに立ち、師の書き綴る設計図めいたものを覗き込んでいた。1匹は客人が座るはずのソファーを占領していた。器用にも脚を組んで、だ。
「毎度の事ながら巻き込んで悪いな。」
アーサーは動かし続けていた手を止めて凝りをほぐす様に腕をグルグルと回しながら言った。エリザはそれに微笑みを返す。
「いえ、そんなの今更ですよ。力があるだけでは成し遂げれないことだって沢山ありますよ。」
「そういってくれると有難いんだがなぁ。」
『世界を監視する』ということ自体は難しくない。気の流れをただ感じるだけでいいからだ。風の様に漂って一定に定まらず動き続ける気は、アーサーは気持ちいいとも思う。
だが起こりかけた世界の『崩壊を防ぐ』のは結構難しい。まず、世界を壊すくらいなのだから敵が強い。次に敵は人目に付かないように準備を進める。警戒されて、潰されるのを恐れているからだ。そのせいで敵の位置を把握するのに時間がかかってしまう。
「それにしてもにゃんでわざわざそれを用意してるのにゃ?」
黒猫が指さしたのは設計図らしき紙だ。いや、猫は指を器用に動かすことはできないので正確には指ではなく腕だが。
生成魔法で生み出された彼(?)は、別に猫である必要はなかった。むしろ人型の方が色々便利である。そこをなぜアーサーが猫にしたか、聞けば彼はこう答えるだろう。『え、だって可愛いじゃん』と。それがアーサーが黒猫を造った全ての理由であり、それ以外の理由は存在しない。自分の部下として使うというのは造ってから思い付いたらしい。ちなみにアーサー達の4人中、猫派でないのはレゴラスだけ(彼は犬派、と言うより柴犬一筋)だ。
閑話休題。
「もちろん作戦の為だよ。」
「で、その作戦とは?」
エリザが身を乗り出して聞いた。それにアーサーが答えようとして口を開いたとき、ドアが開いた。
「あ、ロイドさん。彼らを指導していたのでは?」
入ってきたのはロイドだった。黒猫の向かいのソファーに座りながら、口を尖らせて言う。
「いやね、教えてたんだけどさ。見せた方が参考になるからって、レゴラスとルギが戦闘中でございますよ?」
「道理で爆発音が聞こえるわけだ。」
「いや、爆発って彼らの参考にならないと思いますが。」
「どんな手を使ってでも勝つ、という意味では参考になるんじゃないか?と言うかなー、ここ一応俺の部屋なんだがノックとかの遠慮はないのかよ。」
「無いね。」
「言い切るな。まあ、いいけど。」
面倒だし、そう呟いてアーサーはペンで書き綴るのを再開した。
「で、作戦はあるんですか?」
「今回の作戦かぁ・・・・・・うーん、まだ決まってないんだよなぁ・・・・・・『成るように成れ』?」
「いや、それは作戦じゃないのにゃ。ただの行き当たりばったりにゃ。」
・・・・・・突撃にはまだ時間が掛かりそうだ。




