"跑不掉"
陽は落ち、音も無い
それでいて二階の廊下では、幾つかの首の無い人影が走るように蠢いて居た
着用して居る服から考えれば、これらは僕の父、母、妹であると推測出来る
念の為、妹の部屋の扉を開ける
確かに暗い部屋の中、妹の姿は認められなかった
もう一つ絶望的な事が有る
この頭の中の感覚が嘘でないならば、『僕はこの一日を、最低一回は繰り返して居る』
これが夢であれば
そう思ったのかどうか解らないが、僕は部屋を覗きこんだまま、妹の名前を呼んで居た
よろめき走って居た首無し達が、一斉に僕の側に躰を向ける
足が動かない………!
恐怖によるものなのだろうか
逃げ出す事が出来なかった
三対の腕が僕を掴む─────
─────
目覚まし時計の音は、常に不愉快だ
無論そうであるように造られて居るから、だが
今朝は、うつ伏せで目覚めた
疲れがあるのかも知れない
『昨夜の出来事は』
僕は思った
『現実だったのだろうか』
合理的に考えるのなら、疲れによる悪夢だろう
しかし、家族と思しきものたちが僕を掴む指の感触や、不可解な『時間の繰り返し』の感覚は、ある程度のリアリティを持ったものだった
着替える
顔を洗う
食卓に着く
家族全員の、首元を凝視する
誰一人、首の取れそうな者は居なかった
朝は、皆がせかせかして居る
不信感を拭える程の会話が行えるでもなく、僕は学校に行く時間を迎えた
─────
帰宅する
昨夜、家族に異変が起きたのは夜10時
夕食の時間は問題なく過ぎていく
我が家は特別仲が良い訳ではなく、特別仲が悪い訳でもない
いつものように会話は弾まず、だからといって不審な点は無い
昨晩、僕は夜10時少し前に入浴し、その後異変に出くわした
前後で何があったのかを確認する為、僕は前日より少し早く入浴し、家族の様子をそれとなく視ようと思った
湯船の中で、不意に怖くなる
『もし僕が入浴する事や』『家族から目を離す事が異変の引き金なのだとしたら?』
がたっ、と音がした
風呂場から出る
脱衣場でもある洗面所で水分を吹ききった上で、服を着る
焦りからか、少し濡れたまま服を着てしまったようだった
ドアを開けると、その扉を開ききらないまま様子を伺う
偶然歩いて居た妹が、「何してるの?」と僕に尋ねた
僕は「別に……」と答えながら、リビングの両親を伺う
首は取れて居なかった
時刻はそろそろ10時
僕はリビングでそわそわしながら、最早隠すつもりすらなく家族の様子を監視して居る
玄関のドアが開く音
そうか、昨日はシャワーの音でこれに気付かなかったのか
僕は玄関に向けて歩く
何故か父も母も妹も、それに続くかのように玄関へ向けて歩き始めた
辿り着くと、玄関のドアが開いて居る
人影は無い
『どういう事なのか』と考えて居ると、家族達は次々に玄関から外へと歩いて行き、最後にドアが閉められた
鍵が外から掛けられる音
開けようと試みたが、押さえられてでも居るのか、びくともしなかった
2階で走り回る音がする




