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偶然の出会い

「まさか雪ちゃんがここにいるなんて思わなかったよ。えへへ、雪ちゃんと学校以外でも会えて嬉しいな。」

いつもの様に明るく微笑む青葉に対して雪はただ驚くことしかできなかった。

「なんで青葉がここに?青葉も『月の彼方』が好きなの?」

雪の方こそこんなところで青葉と出会うなんて思わなかった。だって青葉がアニメを見てるイメージがあまりなかった。それに『月の彼方』は陽キャが見る様なアニメではないはずだ。

それと今日の青葉は眼鏡をかけていていつもとは少し違う感じだった。少し地味にも見えるけどとてもオシャレで華がある。

「『月の彼方』は中学の頃に見てそこからずっと大好きなんだ。世界観がとても綺麗で物語に引き込まれるんだよ。」

「分かる!この世界観がとっても神秘的で私も大好きだよ。まさか、青葉も同じ作品が好きだったなんて。」

雪は興奮のあまり青葉の手を握る。この作品も別にそこまで有名という訳ではないので身近に仲間がいて嬉しい。

「それにしても雪ちゃんと学校以外で会えるなんて思わなかったな。雪ちゃんがよかったら私と一緒に回らない?」

青葉はそう言って抱きつきながら質問してくる。これはきっと断ってもついてくるパターンだ。青葉はいつも強引なところがあるから困った物だ。とはいえ、語る人は多い方がいいから青葉と一緒に回ることにした。最近は青葉といても前よりは平常心で入れる様になったし特に心配することもなかった。

「私も一緒に回りたいかな。一緒に色々と語り合いたいし。」

「本当に?えへへ、雪ちゃんと一緒に回れるなんて嬉しいな。じゃあ、早速設定資料を見に行こうよ!」

楽しそうに笑う青葉を横目に雪はため息を吐いた。久しぶりに外に出たらいきなり青葉に会うなんてどんな奇跡だろうか?ここは学校ではないから誰かに見つかる危険性もなく、いつもより落ち着いて青葉と回れるのが救いだ。

ただ問題があると言えばさっきから日向と梓が青葉を睨んでいることだ。屋上の時から思ったけど二人とも青葉のことがあまり好きではないのかもしれない。雪自身も陽キャにはまだ嫌悪感がある為、分からなくもない。

「別に一緒に回るのはいいけど流石にくっつきすぎじゃない?雪が嫌がってるじゃん。」

「そ、そうだよ。流石にくっつきすぎだよ。私だって渡瀬さんにここまでくっついたことないのに。」

「むぅ、だって雪ちゃんがこんなに抱き心地がいいのが悪いんだもん。それに友達ならこれくらい普通だよ。」

いや、明らかに青葉の距離感はおかしいと思うが。なんで陽キャってこんなに抱きつきたがるのか。そのせいで雪の心臓はずっとバクバクしていた。そもそも人に対する耐性があまりない雪にとってはずっと落ち着かないでいた。

「いやいや、友達の距離感間違ってるから。それに雪と朝比奈さんってどんな関係なの?」

「雪ちゃんは私の恩人で大事な友達だから。大事な友達に近づきたいって思うことは普通のことでしょ?」

「そ、それなら私も渡瀬さんにくっついていいよね?私も渡瀬さんの大事な友達だから。私も渡瀬さんと近づきたいな?」

二人が守ってくれると思い安心していたが気づいたら何故か梓まで雪にくっついてしまった。どうしてこうなった?

「ちょっと、二人とも離れてよ。なんで梓まで私にくっついてるの?」

「朝比奈さんだけはずるいというか、その私ももっと渡瀬さんといたいから!」

梓は顔を真っ赤にして雪の左側に抱きついた。そんなに恥ずかしいなら抱き付かなければいいのに。梓は普段はまともなのだが時折挙動不審になることがあって怖い。

「ねえ、日向助けてよ。私一人じゃ無理だよ。」

限界を迎えた雪は唯一頼れる日向に助けを求めた。こんな時に助けを求めれるのは日向くらいしかいない。

「勝手にイチャイチャしとけば?僕は関係ないから。」

日向は面倒くさそうな声で雪を睨みつける。

雪は日向に助けを求めたが何故か冷たい対応をされてしまった。さっきまでは雪の味方をしてくれたのに急に突き放されて意味がわかなくなる。

昔から日向は他人にあまり興味のないタイプだが雪にだけはずっと優しかった。お互いに唯一の親友としてずっと一緒にいた。しかし日向は時々雪に対しても冷たい時があり、雪には日向が不機嫌になるタイミングがよく分からなかった。

雪が色々と考えている間にも二人はずっと腕を掴んで離してはくれなかった。

「やっぱり雪ちゃんは肌も綺麗だしちっちゃくて可愛いよ。」

「渡瀬さんに近づけるなんて嬉しいよ。渡瀬さんは小動物みたいだね。」

「ねえ、それどういう意味?私はちっちゃくないもん。これから大きくなるから。」

さらっと二人に小さいと言われて雪はムッとする。

雪は確かに平均の身長よりも低いがそれでもまだ伸びる可能性がある。流星はものすごく高いしお母さんだって平均より少し高いくらいはある。だから雪も絶対にまだ伸びるはずだ。

それとさっきから二人の大きくて柔らかいものが腕に当たって虚しい気分になる。梓はともかく青葉も胸が大きいから見ていてなんとも虚しい。

雪は心の中で絶対に大きくなってやると誓った。

「とりあえずここにずっといる訳にもいかないしさっさと次のエリアに行かない?」

「そ、そうだね。二人とも一旦離れてくれないかな?」

やっと日向からの助け舟が出たことで雪はとりあえずこの状況を切り抜けることが出来た。

雪はあくまで展示を見に来た訳で女の子に抱きつかれに来た訳ではない。それに二人とも顔がいいせいで何かと目立つのだ。

「嫌だよ。もうちょっとだけだから。」

「私ももう少しだけいいかな?」

二人とも上目遣いで見てくるせいで断りづらい。

二人は頑なに離れようとはせずにもはや雪と日向の方が折れていた。

「分かったよ。それじゃあもう行こっか。」

梓と青葉はバチバチしてるし日向もまだ若干機嫌が悪い。

切実に誰か助けて欲しい。山尾よ、今から早急にここに来てくれ。







「それでこの場面は主人公が敵を初めて倒す所なんだよ。ってみんな聞いてる?」

雪は『月の彼方』の内容を熱く語っていたが誰一人として聞いている様子はなかった。

「えへへ、もちろん聞いてるよ。それにしても雪ちゃんは可愛いね。」

雪は深く深呼吸をして考える。今日ここに来たのは展示を見る為なはずだ。だというのにどうしてこうなった?

あれから展示を見ているが今は雰囲気が最悪で展示に集中ができないでいた。

青葉はあれからずっと抱きついたままで動きづらいし恥ずかしい。青葉は離れる気がなく展示よりも雪をずっと見ている。

「もういいいよ。梓はちゃんと見てるよね?ここからが面白い所なんだけど。」

「う、うん。ちゃんと見てるよ。だから今は一人にしてくれないかな?」

梓は急に我に帰ったのか顔を真っ赤にして一人でもじもじしていた。なら何故さっきまで雪にベタついていたのか不思議でならない。なんだか可哀想だからそっとしておくことにした。

「じゃあ日向と一緒に語るからいいよ。ねえ、日向?」

「チッ、僕は一人で集中してみたいからそっとしておいて?」

「あっ、はい。すみません。」

日向が怖すぎて雪は自然と恐縮してしまう。一体どこで機嫌が悪くなったのか見当もつかない。

このように三人とも様子が変で、もはや地獄のような空間になっていた。いや、青葉は元からこんな感じか。

とにかくこのままだと気まずいから何とかして話を繋げなければならない。

「ここのシーンなんて初めて主人公が敵を倒すんだけどその後の仲間との会話が感動するんだよ。」

「そこいいよね。熱い友情を感じられてまるで私達みたいだよ。」

「いや、私達にそこまで熱い友情なんてなくない?というか青葉は二人とも仲良くしてよ。」

青葉が来てから気まずくなったため、もはや青葉がグループクラッシャーだ。日向と梓が青葉を警戒しすぎな面もあるけど。

「私だって仲良くしたいけど二人とも怖いもん。でも雪ちゃんは私に優しいし小さくて可愛いから好き。」

そのままぎゅっと抱きつかれる雪は生きた心地がしなかった。

まるで人形のように扱われる雪はすでに限界を迎えていた。その抱きつき癖は何なのか?

「そうやってすぐ雪に抱きつくのをやめなよ。それに僕はうるさいのが一番嫌いだから。」

「ええ、雪ちゃんは嫌がってないよね?雪ちゃんとはもう友達だもん。」

日向はずっと青葉を睨んでいて明らかに仲良くする気がない。とはいえ日向の気持ちも分かるせいで雪の方からなにか言うこともできなかった。

「とにかくみんなで仲良くしようよ。ほら、梓とか誰とでも仲良くできるじゃん。青葉とも何か話そうよ。」

「うう、私は所詮ただの雑草だよ。どうせ渡瀬さんもいつか私のことを忘れて青葉さんのような人とだけ絡むようになるんだよ。だから私のことなんて放っておいて欲しいな。」

何故か梓はものすごく卑屈で今にも枯れそうな花の様になっていた。

梓は普段から優しくて穏やかだからこうやって自暴自棄になってる姿は珍しい。

「もう、梓って時々様子が可笑しくなるよね。梓は一生私の友達だから元に戻ってよ。」

「ほ、本当に?私のこと途中で捨てたりはしないよね?」

「しないから!だから一緒に見ようよ。」

雪は少し強引に梓の手を掴んで一緒に展示を見ることにした。もしかして梓ってものすごく重い?

「そっか、ずっと一緒にいてくれるんだね。渡瀬さんがそう言ってくれて嬉しいよ。」

「むー、私も雪ちゃんとくっついていいよね。二人ともちゃんと仲良くするからさ。」

「はいはい、今日はなんでも許すよ。だからちゃんと展示を見ようね。」

二人とも雪にくっついたままで結局振り出しに戻ったがさっきの状態よりはマシだし、何よりこれ以上は雪が壊れてしまう。

今度からこの二人と青葉はできるだけくっつけない様にしよう。

「はあ、雪って本当に鈍感でイライラする。雪って本当にグループクラッシャーだよね。」

「ん、今なにか言った?」

何かをぼやいていた日向に雪は頭を傾げる。

「いや、何も言ってないよ。とりあえず今は展示に集中したいから。」

何はともあれ展示は無事に見れそうで雪は安心した。ただこの後に他の場所も巡ることはもう考えたくもなかった。

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