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帰り道

「どう、落ち着いた?」

「ありがとう渡瀬さん。渡瀬さんが隣にいてくれたおかげでもう大丈夫だよ。」

震えていた青葉を慰めているといつの間にか電車が来ていた。いつも一人か日向と二人で帰っている為、こうやって青葉といると緊張してしまう。

それに雪は早く帰ってゲームがしたくて仕方なかった。この疲れを癒せるのはゲームしかない。

「ごめん、私はもう電車に乗らないと行けないから。それじゃあ先に行くねっ。」

青葉にくっつかれて少し恥ずかしくなった雪は誤魔化すようにホームへと向かう。このままじゃ羞恥のあまり死んでしまう。

しかし青葉は雪の腕を掴んで離してくれなかった。

「待って、私も同じ電車だから一緒に行かない?」

そんな偶然あるのだろうか。まさか青葉も電車登校だったとは。

正直すでに雪の精神ゲージはすり減っていた。雪は何とかして断る口実を考える。

「えっと、今日は一人で帰りたいかな。それに私と電車に乗っても楽しくなんてないから。」

基本的に雪は話すのが苦手で友達や家族以外とはほとんど話さない。だから一緒にいても陽キャの青葉はつまらないと思う。

「私がもっと渡瀬さんとお話ししたいの!それと渡瀬さんはつまらなくなんかないから。だからお願い!」

青葉は雪の手を掴んでじっと見つめる。雪はその眼差しで居た堪れない気分になる。

「まあ、そこまで言うならいいけど多分つまらないと思うよ?」

青葉に可愛くお願いされるとどうにも断りづらい。

まあ、電車に乗るくらいなら大丈夫かな。

「やったー。それじゃあ早速中に入ろっか。」

青葉はいきなり雪の手をギュッと握って電車の中に入った。青葉とは今日初めて話すのにいきなり手を握るなんて早すぎないか?陽キャはすぐにスキンシップをしたがるから困る。

ホームにはすでに電車が来ており、あと少しで出発するところだった。二人は慌てて電車の中に入った。

とりあえず二人は席に座ってゆっくりする。雪はため息を吐きながら隣で嬉しそうにしている青葉を見る。

まさかこんなに疲れる羽目になるとは思わなかった。ヤンキーから助けてだけでも限界だったのにそれに加えて青葉と二人で帰るなんて雪にとっては辛いことこの上なかった。

もしもこの状況を他のクラスメイトに見られたら何を言われるか分からない。なんといっても青葉はクラスの人気者なのだ。陰キャの雪が絡んでるなんて知られたら何をされるか分からない。

それにしても今まで青葉を駅で見たことがなかったからびっくりした。基本的に雪はギリギリで登校する為、会わなくてもおかしくはないけど。

「そうだ、私たち同じクラスなんだし雪ちゃんって呼んでもいいかな?私のことも好きに呼んでいいから。」

「分かった。それなら青葉って呼ぶね。」

「えへへ、雪ちゃんと一緒に帰れて嬉しいよ。そういえば雪ちゃんはどこで止まるの?私は磯部町なんだけど。」

青葉の発言に雪の頭は遂に真っ白になった。

「嘘でしょ?私も磯部町なんだけど。」

そんな偶然はあるのだろうか?確かに登校時間が違うし、普段外に出ないとはいえ青葉とは磯部町で一度も会ったことがない。

それにわざわざ往復一時間もかけてこの学校に通う意味も分からない。他にも学校はいくらでもあるというのに。 

「本当に?それなら明日から一緒に登校できるじゃん!私はずっと一人で登校してたから嬉しいよ。」

「いや、それは無理かな。私はいつも登校するの遅いし、一人でゆっくりと行きたいから。」

流石に朝早くに学校に登校はしたくない。それに毎日青葉と登校なんてしたら目立つに決まっている。

青葉には悪いが流石にこれは譲れなかった。

「むぅ、雪ちゃんと登校したかったのに。まあ、学校で会えるからいいか。それより雪ちゃんのことたくさん知りたいからお話ししようよ?」

青葉はグイグイと質問してくるが雪はそれに答えるので精一杯だった。

雪が身を削りながら会話する中、青葉は楽しそうに会話をしていた。これがコミュ力の違いか。

それにしてもさっきから少し近すぎない?こんなに近づかれると心臓がバクバクしてしょうがない。その上、青葉の髪からいい匂いがしてドキドキしてしまう。

そんなことばかり気になって会話に集中できなかった。時間だけがあっという間に消えていく。

「えへへ、雪ちゃんのこと知れて嬉しいよ。それじゃあ、磯部に着いたし降りよっか。」

「そ、そうだね。もう疲れたし早く眠りたい。」

二人で会話している間に気がつけば目的地に着いていた。しかし今の雪は疲れのあまり放心状態だった。







「それじゃあ、またね。私はこっちだから。」

何故かいつも以上に疲れた雪はやっと家に帰れることに嬉々としていた。 

「ええ、私はもうちょっと雪ちゃんとお話ししたいよ。ちょっとでいいからお出かけしない?」

「嫌だよ。私はもう早く帰りたいんだけど。私と話したって楽しくないでしょ。」

一人が好きな雪は何としても早く帰りたかった。流石に今からお出かけなんてしたら死んでしまう。

それに青葉とはまだ話せる方だがそれでも青葉と私は住む世界が違う。あまり関わらない方がいい。

学校で噂になったらもう学校に通えなくなってしまう。

「雪ちゃんといるとすごい楽しいもん!それに助けてくれたお礼だってしてないから。」

「お礼なんてしなくていいよ。私は見返りとか求めないから。」

雪はそれだけ言って自分の家の方へと歩いていく。家に帰ったらゲームが待っている。そう思うと疲れも吹っ飛ぶ。

「むぅ、それなら私が雪ちゃんについて行くから。それならいいでしょ?」

じっと見つめてくる青葉を見ながら深く考える。

「まあ、それならいいか。でも変なことはしないでよ?」

青葉はどれだけ強情なのか。雪は心の中でそっとため息を吐く。それに助けただけなのにここまで恩義を感じなくてもいいのに。

「変なことなんてしないよ?私は本当に雪ちゃんとお話ししたいだけだから。」

何故陽キャはずっと話したがるのかが分からなかった。会話なんてただ疲れるだけではないか。

ちなみに雪の家は駅から徒歩二十分くらいだ。毎日徒歩で登校している為、電車も合わせるとかなりの時間がかかる。自転車が欲しいがそんなお金はなかった。

「それにしても雪ちゃんも磯部だったなんてびっくりだよ。どうして御園高校に通ってるの?」

「特に理由はないよ。ただ何となくかな。寧ろ青葉はどうして御園に?」

雪は青葉が御園高校に通っている理由の方が知りたかった。雪と違ってわざわざ遠くにする理由が見当たらない。

「私も雪ちゃんと同じで何となく通ってるだけだよ。ただ中学の同級生に会いたくないから少し遠くの高校にしただけで。」

そんな風に語る青葉に私は少し意外に感じる。青葉のような明るい性格であればそんなこと気にしなさそうなのに。

「そっか、その気持ちは分かるよ。私も中学にいい思い出はあまりないから。」

雪は中学の頃は今よりも友達もいたしもう少し明るい性格ではあった。

しかしあの中学にいい思い出なんてなかった。思い出すだけで頭が痛くなる。

「雪ちゃんもなの?じゃあ私達仲間だね。実は私も中学の頃はもっと暗くて学校もあまり好きじゃなかったから。」

「青葉が暗いなんて嘘でしょ?だって今もクラスですごい人気じゃん。」

その言葉に雪は声をあげる。流石にそれは信じられなかった。だってあの明るくてクラスの人気者の青葉が暗くて学校が苦手だったなんて考えられない。

「驚きすぎだよ雪ちゃん。私だって色々あるんだから。それにしても咲ちゃんと同じクラスで嬉しいよ。」

「それ本当に思ってるの?だって今日初めて話したじゃん。」

御園高校に入学してから一ヶ月近く経つが教室内では青葉と話したことがなかった。というか学校内に日向と梓以外に話し相手などいなかった。

だから青葉は雪のことなど眼中にもないと思っていた。

「それでも嬉しいの!これからもいっぱい話そうね?」

「まあ、青葉がいいなら。だけどあんまり近づきすぎないでよ?」

そう言って笑う青葉に雪もつられて笑う。なんだかんだいって雪は青葉との会話を楽しんでいた。

それは雪にとって珍しいことだった。







「ここが私の家だよ。今日は楽しかったよ。それじゃあ、またね。」 

「へえ、ここが雪ちゃんの家かあ。そうだ、雪ちゃんに一つ言わないといけないことがあるんだ。」

やっと家に着いた雪は中に入ろうとするがその前に青葉が耳に小さな声で囁く。

「今日の会話は誰にも言っちゃダメだよ?私と雪ちゃんの秘密だから。」

ボソッと囁く青葉に雪は不覚にもドキッとしてしまう。突然囁かれると心臓に悪い。

「も、もちろんだよ。私は絶対に言わないから安心して。」

「それなら良かった。それじゃあまた明日。」

青葉はそう言って自分の家の方角に向かって行った。

雪は青葉を見届けて部屋の中へ入る。

今日のことは雪と青葉の二人だけの秘密だ。

「ただいま。今日はもうヘトヘトだよ。」

「おかえり雪。って何でそんな顔赤いんだよ?」

「別に何もないから。それじゃあ私は部屋に行くから。」

顔が真っ赤なことを流星に指摘されて雪は慌てて部屋に戻って行った。

今日は不覚にも楽しいと思ってしまったが青葉はクラスの中心で雪とは住む世界が違う。だからこれ以上関わることはない。

雪はそう心に言い聞かせながらゲームに没頭するのだった。

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