雪と青葉
「雪、いい加減起きなさい!」
お母さんはそう言ってばっと布団を開けていつものように体を揺すって起こしてくる。その起こし方はいつもびっくりして仕方がない。
「ん、その起こし方はやめてって言ってるじゃん。それに学校に出るまでまだ時間はあるんだし眠っててもいいでしょ。」
「もう、雪ったらもっとしっかりしないと。早く顔を洗ってご飯を食べなさい。」
「分かったよ、お母さん。すぐに行くから。」
雪は嫌そうに起きるとそのまま顔を洗いに洗面所へと向かった。とりあえずパシャパシャと顔を洗ってタオルで軽く拭いた。
渡瀬雪十五歳。普通の学校に通う普通の女子高生だ。髪は黒色で少し癖っ毛があるくらいで容姿も平凡。人生では一度もモテたことはない。そんな普通の生活をしてるからか学校に行くのはあまり好きじゃなかった。本当のことなら家でずっとゲームをしていたい。
「別にもう少し眠ったっていいじゃん。学校だって遅くに行ってるんだから。」
雪はぶつぶつと文句を言いつつ顔を洗う。
正直学校に行くために準備するこの時間が嫌いだ。
そもそも学校自体が嫌いで基本的にいつも遅刻ギリギリで登校してる。
クラスではいつも隅っこで友達と趣味の話をしている。所謂陰キャと言うやつだ。人と話すが得意じゃないし輪の中に入るのも苦手。
だから高校に入ったばかりだと言うのに友達は少ないし肩身も狭くてあまりいい学校生活は送れてなかった。
だけど雪とってそれはあまり関係のないことだった。家に帰ってゲームをしてアニメを見る。そんな幸せが待ってると思うと学校生活も苦ではない。
「あら、やっと来たわね。ご飯はとっくにできてるから席に着いて早く食べなさい。」
お母さんに言われるがまま席に座り、トーストにかぶりつく。お母さんの料理はどれも美味しくて病みつきになる。
お母さんは雪が小さい頃から女で一つで育ててくれた。そのため色々と文句を言うこともあるがもちろん感謝もしていた。
「今日も遅くに行くの?ちゃんと友達はいるのよね?」
「友達くらいいるよ。そこまで心配しないでいいから。」
「そうは言っても心配になるわよ。雪は性格が暗いしクラスでいじめられてないかずっと心配なのよ。何かあったら私に相談しなさいね。」
お母さんの発言に雪は大きなため息をついた。娘にどんなイメージを持っているのだろうか。
まだ学校生活は始まったばかりだが今のところイジメはなかった。そもそも誰とも関わろうとしないためほとんどのクラスメイトと接点はなかった。
「とりあえず私はもう学校に行くから。だからその哀れみの目で見ないで。」
「はいはい。それじゃあ行ってらっしゃい。」
朝食を食べ終えた雪は制服に着替えてすぐに家を出た。本当はもっとゆっくり出るが今日はお母さんに言われたことも相待って早くに出た。
雪の通う御園高校は特に何の変哲もない高校だった。偏差値が高くも低くもない本当に至って普通の高校だ。
通った理由もそこなら目立つこともなく平穏に暮らせると思ったからだ。
それだけの為に電車で三十分かかるのはめんどくさいのではとも思うかもしれないが雪にとっては些細な問題でしかなかった。
雪にとっては学校生活をどう過ごすかが大事だった。
変な人に目をつけられてイジメられたりしたら洒落にならない。
とりあえず電車に乗り、御園高校へ着くのを待つ。 雪はもうすぐ始まる学校にため息を吐くしかなかった。
「おはよう、雪。今日はいつもより早いけどどうしたの?」
教室に入ると日向と梓がいつものように手を振って来る。二人は雪の数少ない友達だった。
クラスではいつもこの二人と一緒にいる。この二人がいるから学科に行くモチベが残ってるとも言える。
「いや、お母さんに叩き起こされちゃって。本当はもっと眠っていたかったよ。」
「ハハっ、雪らしいや。まあ、早く学校に来ることは悪いことではないんじゃない?」
日向はそう言って雪を嘲笑う。
日向は青髪の短髪でボーイッシュな見た目の女の子だ。一人称も僕で男まさりなところがある。日向は雪の唯一の幼馴染で幼稚園から高校までずっと一緒だ。そのため一番話が通じるし一緒にいて落ち着く。それと日向とはゲーム仲間でもあり、よく一緒にゲームをして楽しんでいる。
「ふふっ、渡瀬さんは相変わらずだね。でも私は渡瀬さんといっぱい話せるから嬉しいな。」
この天使のような笑顔の女の子は日野梓だ。
梓はミルク色のような髪がとても綺麗でスタイルもいい。あと胸が大きい。梓は誰とにでも明るく話すためクラスのみんなからも人気があった。正直このグループにいるのが分からないくらいだ。
それと梓はよく雪をじっと見つめて来ることがあった。何でかは分からない。
「まあ、私も二人とこうやって話せるのは嬉しいけどさ。でもやっぱり陽キャが怖いよ。」
雪はそう言ってチラッと後ろの方を見る。そこには陽キャが群がって会話をしていた。みんな見た目が奇抜で目立つ中一際目立つ存在がいた。
それが朝比奈青葉だ。青葉は茶髪のショートでとても可愛らしい顔だ。人懐っこい性格で誰にでも明るいため男女問わず人気があった。今も青葉を中心に陽キャ達が話をしていた。
陽キャに何かされた訳ではない。ただそれでも雪は陽キャに苦手意識があるのだ。
「別に陽キャとかどうでもいいっしょ?僕らは僕らで楽しもうぜ。」
「そうだよ。私は渡瀬さんと話せてすごく嬉しいから。」
「うう、二人ともありがとう。そう言えば昨日のゲームのことなんだけどさ。」
結局三人はいつものようにゲームやアニメの話題で盛り上がった。
「それじゃあまたね。」
「うん、じゃあまた明日だね。」
「おっす、気をつけて帰れよ。」
雪は二人に手を振って別れた。梓は園芸部で日向はプログラミング部に入っており、いつも一人で帰ることになっている。雪はもちろん部活に入っておらず帰ってゲームばかりしている。
この時間は一人で寂しいが帰ったらゲームができるため、なんだかんだ幸せなのだ。それに学校から解放されるのが何よりもの幸せだ。
雪はいつものように駅で電車が来るのを待つ。しかし電車を待っているとどこからか助けてと声がする気がした。
「ちょっとそれは困ります。今急いでいるので。」
微かに聞こえる声を辿ってみるとそこには青葉がおり何やらヤンキーのような男と揉めてるようだった。とりあえず雪は気づかれないように物陰から会話を聞くのだった。
「ねえ、ちょっとでいいから遊ぼうぜ?いいだろ、変なことはしねえからよお。」
「この後は予定があるのでやめてください。私、忙しいので?」
ナンパだろうか?ここまで青葉が困ってるのも初めて見た。しかしここで青葉を助ける道理が雪にはなかった。何より雪にそこまでの勇気はなかった。ヤンキーに話しかけたら何をされるかが分からない。だから青葉には悪いが見捨てることにする。
「おらっ、抵抗すんなや。」
「きゃっ、やめてください。」
男は青葉を掴み無理やり体に触ろうとする。青葉のその悲鳴を聞いてる時にはすでに雪の体は動いていた。
「その手を離してください。青葉さんは困ってますよ?」
「ああん?何だテメェ。」
どうしてだろうか?普段の私ならこんなことはしなかった。しかし青葉の悲鳴を聞いた瞬間勝手に体が動いていた。
「渡瀬さん、どうしてここに?」
「安心して。もう大丈夫だから。」
泣きそうになってる青葉に優しく微笑んで雪は男を睨みつける。
「女の子に暴力はよくないですよ。今すぐにどこかに行ってください。」
「黙れよ。テメェがどこかに行けや。」
怖い。今にも逃げ出したいほどの怖さだった。しかし雪は震えながらもスマホを男に向けた。
するとスマホから先ほどの会話が全て流れる。
「さっきまでの会話は全て録音してました。これを警察に見せたらどうなると思いますか。」
雪は何か怪しいことがあれば録音するようにしていた。今回も青葉さんの声が聞こえた時点で録音していた。
「チッ、卑怯だぞ。このクソがっ。」
男は捨て台詞を吐いてどこかに消えていった。雪は震えてる青葉には優しく声をかける。
「もう大丈夫だから。それじゃあ私はもう行くね。」
雪は急いでこの場から去ろうとするが青葉には手を疲れて動けなくなる。
「待って、まだ行かないで。一人じゃ怖いから一緒にいて欲しいな?」
その顔で言われると断れないから困る。幸い雪に予定はないため隣にいてあげることにした。
「分かったよ。落ち着くまで一緒にいるよ。」
「えへへ、渡瀬さんは優しいね。もっとくっついてもいいよね?」
青葉はいきなり雪にぎゅっと抱きついた。雪はウブなため抱きつかれるのに慣れていない。それにしても陽キャってこんなにすぐに近づいてくるものなの?すごい見つめて来るし怖くて仕方ない。
「私の名前覚えてくれたんだ。」
「もちろんだよ。クラスメイトだし渡瀬さんは可愛いから。それにしても渡瀬さんがいないと私終わってたよ。私、ナンパされるのが苦手だから。」
その発言は意外だった。青葉は陽キャだし可愛いからたくさんナンパされるだろうしナンパ慣れしてると思っていた。青葉の意外な一面が見れて少し嬉しい。
「そ、それにしてもなんか距離が近くない?こういうものなの?」
「ご、ごめん。でももう少しくっついたらダメかな?」
その顔は反則だ。そんな可愛い顔でお願いされると断れなくなってしまうではないか。それに二人とも顔が真っ赤で何とも気まずい。
そして雪はしばらくの間青葉と一緒にいることになった。しかし雪が思っていたより青葉はなんだか可愛らしいなと思うのだった。




