81.物語の幕引き
ルキア達の卒業から二年の月日が流れ、学園にまた春が訪れた。
校門には色とりどりの花が咲き、卒業生達の笑顔が行き交う。
その列の中で、静かに存在感を放つ少女がいた。
淡い紫の瞳は今日も澄み渡り、柔らかな微笑みをたたえて歩いていた。
孤児院出の特待生でありながら、貴族・平民問わず生徒たちの信頼を勝ち得た存在。
彼女は手助けを申し出てくれた生徒達から適材を選び、貴族、平民一切関係なく公正に職務を割り振り、周囲に望まれて、二期連続で生徒会長を務めた。
――その姿は、ルキアが描いた『実力で未来を掴む世界』を、皮肉にも完全に体現していた。
彼女の背中は、かつて学園にいた『一人の光』を確かに継いでいた。
その光を取り戻すために、グレイスはここに立っていたのだから。
◆
優秀なグレイスには、卒業後の進路にと数多くの推薦状が届いていた。
だが彼女が選んだのは、エルミナ地方局の局員になることだった。
グレイスならばもっと華やかな職場や、王都での仕事もある。彼女ならば上を目指すことも夢ではない。
周囲の人間はそう言ったが、グレイスは頑として首を縦にはふらなかった。
アレクと共に育った孤児院のある地方。
誰も光の物語を期待しない、小さな場所。
そこで、静かに生きる道を選んだ。
「ねえ、どうしてルノワールじゃないの? グレイスちゃん、ルノワール孤児院にいたんだよね?」
クラスメイトの純粋な問いかけに、グレイスは穏やかな口調で答えた。
「実は昔お世話になった人がエルミナ自治局にいるんですけど……。人手が足りなくて困っているから、来てほしいってお願いされていまして」
「そうなの?」
「はい。私が小さい頃から何かと気にかけて下さった方なので、微力ながら恩返しがしたいなって」
「そうなんだ! でも少しもったいないね。グレイスちゃんならもっと色んな候補があっただろうに」
「私は表舞台に出るつもりはありませんから。これでいいんです」
グレイスはもう、舞台に立たない。
立つ必要がないのだから。
そして、卒業パーティーが始まる直前。
グレイスは生徒会長としての挨拶をするために、全校生徒の前に登壇する。
「――皆さんの明るい未来に幸があらんことを」
生徒達の温かな視線を浴びる中、彼女はそう締めくくると、皆が憧れるグレイスとしての最後の笑みを見せた。
◆
まだ朝も早い時間。
見送りは必要ないとばかりに、グレイスは誰にも告げずに静かに旅立つ。
風が、長かった物語の幕を閉じるように吹き抜けた。
グレイスは一度だけ学園を振り返り、本当のグレイスとして微笑んだ。
その瞳に宿っていたのは、ただ静かな色だった。
――そして彼女は、物語の舞台から姿を消した。
学園編は終わりです。
最後は、グレイスとアレク、二人の物語です。




