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78.『光の学園と破壊の乙女』



 会場の大扉が開いた瞬間、華やかな音楽があふれ出し、光が一斉にこちらへ向かって流れ込んできた。


 けれどその光は、足元に響く鈍い痛みを隠してはくれない。


 立つたびズキンと響く足首。

 松葉杖をつくたび、かすかに上がる呼吸。


 卒業パーティーに遅れての到着となったグレイスは、深く息を吸い、痛みを押し殺し微笑みを整えて一歩、会場へ踏み入れた。

 

「グレイスさん! 本当に来られたんだ!」

「足、大丈夫? 無理しないで!」

「ロアンのあの件聞いたよ……君が無事でよかった」


 一歩進む度に、生徒たちが駆け寄ってくる。

 心配そうな瞳、労わる声、優しい手。

 まるでグレイスがここにいるだけで安心したと言わんばかりに。


 彼らの言葉に胸を痛めながら、グレイスはそれをおくびにも出さず、にこりと微笑んだ。


「ありがとうございます。もう大丈夫です。それに……今日、この場に立てて嬉しいです」


 雪が溶けるように、生徒達の表情も緩む。

 その光景を見つめながら、グレイスはふと会場の影へ視線を向けた。

 

 そこには――かつて光の象徴でもあったはずの二人の影があった。

 

 ルキアは王太子として、今夜も人々の前に立っている。

 だが彼の周囲には、これまでのような賑わいはなかった。

 誰も深く近づかず、挨拶も数秒で終わり、すぐ離れていく。

 そしてルキア自身も、誰かとかかわる気力を失っているように、ただ微笑むだけ。


 以前なら一挙手一投足が会場の中心だった彼が、今では光に触れることすらできず、ただそこに空虚な影の像のように立っていた。

 そんなルキアは、グレイスが他の生徒達と会話をしている間に、姿を消していた。

 

 セヴランの周囲にも、人影は少ない。

 彼は背筋を伸ばし、普段通りの貴族の礼儀を保っている。

 だが、それは外側の形だけだ。

 

 視線は宙をさまよい、誰かの質問に対して、


「……そう、ですか」

「正しいのは……どちらでしょうか」

「判断……今は……」


 という、まるで空洞の中から響くような言葉しか返ってこないため、話しかけた生徒が困惑して離れていく姿が何度も見えた。


 ただ、セヴランはグレイスに気づいた時、ほんのわずかにだけ表情を変えた。

 彼の内に僅かに残った感情の残滓。

 しかしセヴランはグレイスの前に歩み寄ることはなかった。


 あと一人、ロアンはこのパーティーには出席していなかった。


 グレイスを塔から突き落とした後、彼は拘束された。

 彼女と軽く事情聴取を受けたが、ロアンの異常性は、それよりも前に既に証明されていた。


 あの一件を見ていた生徒達の証言。

 そして、学園の生徒達の間で密かに伝わっていた、グレイスがロアンを恐れていたという噂。


 そのため、ロアンは己の好意を受け入れてもらえなかったことで凶暴化した、とすぐに判断されたようで、グレイスは何も疑われることはなかった。 


 グレイスは事件を大きくすることもロアンへの処罰も望まなかった。

 今、ロアンの身柄はグラディス家に引き取られているはずだ。

 彼が今何を考えているのか。

 分かる術はないが、彼とは二度と会わないと、グレイスはそう予感していた。


 ロアンだけではない。

 ルキアも、セヴランも。

 

 彼らとも顔を合わせるのはこのパーティーが最後だろう。


 三人は闇へと消えていく。

 グレイスが破壊した結果だ。


 そこには悲しみも悼む心もなかった。


 そしてグレイスは彼らとは対照的に、光の中心へと引き戻されていく。


「グレイスさん、こっちで一緒に話そうよ!」

「先生も呼んできます!」

「今日無理に踊らなくていいからね」


 彼らの優しさに包まれながら、グレイスは微笑む。


 それだけで人々が安心する。

 それだけでグレイスの光に皆が集う。


 けれど、彼女の足元に落ちる影だけは、誰にも消せなかった。それでも、復讐を終えた後悔はなかった。


 だが、これで終わりではない。 

 彼女がこの学園にやってきた、もう一つの目的。

 グレイスにはまだ、果たすべき責務が残っている。


 グレイスの密やかな決意を胸に、卒業パーティーの夜は、こうして静かに幕を下ろしたのだった。



復讐の章はこれで終わりです。

次話からが最後の章です。

復讐を終えたあとのグレイスの話です。

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