69.ルキア編:絶望への誘い
その日の昼休み、グレイスはある人物の元を訪れる。
誰もいない、図書館の一番奥の席に座り本を読む一人の人物。
つい先日までは輝かんばかりのオーラを放っていた御仁は、明るい陽の光をその身に浴びているにもかかわらず、どこか影が差している。
「ルキア様」
グレイスが近付き呼びかけると、ルキアははっと顔を上げてグレイスを見る。
金の瞳に浮かぶのは、畏れ。
「グ、グレイス……」
目を見開き、喉が渇くように名前を呼ぶ。
だが、その声はわずかに震えている。
ルキアは狂信的なまでの光信望者である。
そんなルキアの心がまだ完全に折れていない理由は一つ。
ルキアは、未だにグレイスを光だと信じている。
たとえアレクへの復讐のために、自身に近付いた生徒だと知っていても。
そのためルキアは、光を守ろうとしてグレイスと距離を置こうとする。
自分さえ近づかなければ、光が陰ることはないと、縋るような思いで。
同時に、誰よりも強い心を持つグレイスに救いを見出している。
このままでは、彼の心はゆっくり回復していく。
――それでは駄目なのだ。
立ち直れば、ルキアはまた光を求める。
己が光を壊す影だという認識も忘れて。
そうならないために、グレイスは最後の仕上げをする。
「ルキア様、本日の放課後に足を運んでいただきたい場所があります」
「……僕に?」
「はい。必ず来てください」
ここでグレイスは声を潜めると、ルキアの耳元で囁く。
「ルキア様には、あなたが未だに信じてる私という光がどうなるのか、最後まで見届ける責任があります」
「それはどういう……」
グレイスはルキアの言葉には答えず、時間と場所だけを告げて彼の元を去る。
彼は来るだろうか――いや、必ず来るはずだ。
グレイスはルキアに見せたいものがある。
そして彼がそれを目にした時こそが、ルキアの残りの心が完全に折れる序章。
仕込みはこれで全て終わった。
そしてグレイスは、運命の時が訪れるのを待った。




