#57 オーリリア城跡地
「なんだこれ……」
石壁を降りた先は何とも不気味だった。
通り過ぎる建物はどれも壊れていて、風化によるものか、何者かによって破壊されたのか区別ができない。
中の家具らしきものも荒れ果てた状態のまま放置されている。
さらに、足元は蔦が敷き詰められたかのように張り巡らされていて、とても歩きにくい。
気を付けないと転んでしまいそうだ。
一歩一歩、踏みしめるつもりで前に進んだ。
途中、前方から物音がしたので、建物の陰に隠れる。
仲間はいないので、できるだけ戦闘は避けたい。
こういうとき、いつもフィリアたちはどうしていただろうか……。
――探知魔法だな。
俺は杖を構え、意識を集中させる。
「ミドルサーチ」
――反応がない。
さっきの物音は、魔物じゃなかったのか。
とはいえ、元は住宅だったと思われるので、小物が落ちただけの可能性もあるだろう。
警戒は怠らず、慎重に前へと進んでいった。
* ――――――
蔦が絡む足場の悪い場所を抜けると、大理石の階段に差し掛かった。
階段を見上げた先には、さっき通り過ぎた建物の残骸たちと比べて数倍にも及ぶ、巨大な建物が佇んでいた。
「あれがオーリリア城か……」
跡地という割には、建物の骨格がしっかり残されていた。今まで通り過ぎてきた吹き抜けのボロ壁と比べても、比較的風化が少なく見える。
妙だな……。
とはいえ、目的が変わることはない。
俺は階段を一段ずつ昇り、城の入口へ向かった。
階段を昇り切り、巨大な建物――オーリリア城の入口が数十歩先というところまで来た。
扉は開きっぱなしになっていて、外からでも入口の様子がちらりと見える。
ふと空を見上げると、清々しいほどの青だった。外から見た時には紫色の霧に包まれていたはずなのに、ここからでは城の全体像がはっきりと視界に映った。
おかしい。おかしいのはわかっている。けど――カノンの日記のためなら、仕方ない。
アルカディアにいた頃、ずっと俺のそばにいてくれた幼馴染。
何もなかった俺に、魔法技士になるという夢をくれた。
物心ついたときから一緒に過ごしてきた、かけがえのない存在だ。
日記がほしい。
俺は、もう一度カノンに会いたいんだから。
その手がかりになるものは、何だっていい。
ぐっと拳を握りしめ、城の内部へと入り込んだ。
* ――――――
城の内部は複雑そのものだった。
まず、入口の時点で左右に繋がる廊下があり、突き当りにはさらに道が枝分かれしていた。
斜め前には2階へと繋がる階段が左右に並んでいて、一見どこに行けばいいのかわからなくなるだろう。
だが、俺には地図がある。
「まずは右側の階段を昇る。反対に、右廊下の突き当りには近づかないように――か」
地図によると、ルーンストーンがある図書室は入口からかなり離れているらしく、すぐに取りに行けるわけではないようだ。
俺は地図の通りに、右の階段に足をかけた。
頻繁に出入りしたような跡が階段のいたるところについていて、木でできた手すりもどこか変形している箇所があった。だが、見た目以上に丈夫で、足を置いても軋む音ひとつ立たない。
特にこれといった変化はなく、上まで昇り切った。
俺は一息ついてから、改めて地図を確認する。
ルーンストーンがある図書室にたどり着くためには、小部屋を抜けた先へ進まないといけないようだ。
道中、杖を握りしめながら歩く。いつ魔物が出てもおかしくない。
3人で行動していたら、どれだけ心強いことか。
一人で依頼を受けたことを後悔しているわけではない。
だが、余裕があるかと問われれば、否だ。
道中はたかが採取依頼と高を括っていたが、実際に内部に入ると地図以上に感じる構造の複雑さに加え、説明するのが難しいのだが、どことなく異様な空気を感じるのだ。
魔力の流れが変というか、とにかく説明するのが難しい類の違和感だった。
早くルーンストーンを回収して、明るいうちに帰ろう。
俺は地図を見ながら、小部屋の扉にゆっくりと手をかけ、慎重に腕を引いた。
扉の隙間から顔を覗かせる。しかし、魔物の姿は見当たらなかった。
ほっと胸をなで下ろし、小部屋に入って扉を閉めた――その時だった。
何もしていないはずなのに、扉が突然カチャリと音を立てる。
「……!?」
慌てて扉を押すも、びくともしない。
「なんでだよ。さっきは開いただろ」
どういうことだよ。鍵をかける場所などなかったじゃないか。
冷たいものが背中を伝う。
いよいよまずいことになったかもしれない。
もう、進むしかできないんだ。
そもそも、ルーンストーンの回収が終わってないからな。
地図を懐にしまい、前へ進む。
ストレージに入れなかったのは、肌から離してはいけない気がしてならなかったからだ。
両手に握りしめた杖が、俺の心を落ち着かせてくれる。
いや、待て。
こういうときこそ、大事なことがある。
――そう、索敵だ。
「ミドルサーチ」
唱えた瞬間、周囲の生命反応を探知――
「は!?」
思わず声を上げる。何もないはずの部屋の中に、大量の反応があったのだ。
だが、視界には魔物が一匹たりとも映らない。
もしかして――上か!
すかさず天井を見る。すると、ゼリー状の物体が天井を埋め尽くしていて、ゆらゆらと蠢いていた。




