#40 文化の違い
いつも使っている宿屋。がら空きの食堂で、俺たちは窓際の椅子に座りながら新メニューの相談をしていた。
ウルフのステーキ案はすでに提供しているということで、残念ながら廃案となってしまった。
「もう無理ぃ。お腹空いた~」
ティアナがテーブルに顔を伏せ、項垂れている。
ふと窓から外を見ると、すでに太陽は南の空で燦燦と輝いていた。
――もう、こんな時間か。
話し込んでいて気付かなかったが、すでにお昼時だ。
「そろそろご飯にする?」
フィリアの呼びかけに反応し、俺は身体を伸ばす。
「そうだな。はあ~あ、カレー食いてえな」
子供の頃、カノンと一緒によく食べていたのを思い出す。
アルカディアにいた頃はカノンがよく作ってくれていた。辛いルーをパンですくいながら食べるそれは、幼馴染と共に食べるいつもの味だった。
「ねえねえ、アルトくん」
フィリアの呼びかけに、俺は振り向く。
「なんだ?」
「カレーって、何?」
フィリアの口から出た言葉は思いもよらないものだった。
「カレーはカレーだよ。パンにつけて食うやつだよ。知らない?」
「うん、初めて聞いたよ」
「あたしも」
ティアナまで同意する。これは驚いた。まさか二人ともカレーを知らないとは。
「カレーは、まあ……肉と野菜をスパイスで煮込んで作るんだ。辛いんだけど、玉ねぎを入れると甘みも出て――」
「甘いの? 辛いの?」
ティアナが身を乗り出す。
「どっちもだな。食えば止まらなくなる味だ」
説明しているうちに思い出し、余計にお腹が空いてきた。
「それだーっ!」
いきなりの大声に、思わず肩が跳ねた。
「びっ、くりした。なんだよ急に」
「そうだよ。お姉ちゃん静かにしてよ」
「いやーごめんごめん。でも、それいいじゃん。新メニューに」
「新メニューにするほどか」
「うんうん。あたし、カレーなんて聞いたことないし、新メニューにぴったりじゃない?」
「それなら悪くないかもな」
あまりメジャーではないというなら新メニューとして出してもいいかもしれないな。
それに、俺としてもいつでもカレーが食える場所がほしい。
「それなら昼休憩がてら作ってみるか。フィリア、この辺で作れそうなところはある?」
普段はたき火の上で作っているので、街中で火を使えそうな場所を確認する必要があるだろう。
「ええー? ここ使わせてもらえばいいじゃん」
「それ絶対後で怒られるやつだろ」
「そうだよ。お姉ちゃん」
宿としても厨房に客をあげるのは避けたいだろう。
けど、ティアナはぶうぶうと文句言いつつも素直に従ってくれた。
「まずは食材を調達しないとな」
食材は客に提供するためのものなので、使用は当然認められないはず。
――その前に、依頼主に外へ出る連絡をしないと。
俺たち3人は階段を軽やかにあがり、宿屋の女性に声をかけた。
「すみませーん。食材調達するので、いったん外します」
「わかりました。代金はギルド経由でお支払いしますね」
さらりと言われたが、俺にとってこの提案は非常に助かる。
カノンの日記のためにお金をためているから、できるだけ手持ちを減らしたくないからだ。
「ありがとうございます。助かります」
俺は宿屋の女性に向き直り、軽くお辞儀をしてから扉を開けた。
* ――――――
外に出ると、すれ違う人たちが持つ袋から美味しそうな食べ物の香りが漂ってきた。昼時の港町はどこもかしこも活気にあふれている。
俺たちも、カレーを作るための食材を買いに行かないと。
「ねえねえ、その”カレー”ってやつは何がいるの?」
「カレーは、そうだな。カレーの元になるスパイス、あとは具材の玉ねぎ、にんじん、あとはじゃがいもだな」
「は? じゃがいも食べるの? アルトってば、正気!?」
ティアナは驚きを隠せない様子だ。
「えっ?」
俺もつられて驚く。
「アルトくん。じゃがいもなんか食べたらお腹壊しちゃうよ?」
フィリアにまで心配されてしまった。
「どういうことだ?」
俺は二人に聞き返す。
「アルト。じゃがいもは強い毒があるから食べれないの」
「そうだよ。錬金術師が毒薬を作るためのものだよ?」
芽を取れば食べられることを知らないのか。
本来、じゃがいもは芽を取れば食べられる。アルカディアでも当然のようにじゃがいもは皮をむき、芽をとって食していた。
「芽を取れば食えるんだよ」
「……え?」
ティアナとフィリアが同時に瞬きをした。
まるで”空を飛べる”とでも言われたかのような反応だ。
――まあ、道具さえあれば俺は飛べるんだけどな。
「あの……ほんとに食べる気なの? 怖いんだけど」
ティアナはじゃがいもを食用とするのがどうしても受け付けないようで、顔から心配の色を滲ませていた。
「ほんとだよ。そこまで言うなら食ってみようか?」
もちろん俺は本気で食うつもりだ。
一方、ティアナは俺を見て、悟ったような表情を浮かべている。
「アルトくん……」
「フィリア、もうこれダメよ。あたしたちには止められないわ」
二人は観念の色を浮かべた目で俺を見ていたが、実際にじゃがいもが食べられることを知っている俺は気にも留めなかった。
「とりあえずじゃがいもから離れて、まずはそれ以外のものを揃えよう。フィリア、スパイスを売っている場所は知ってるか?」
「スパイスは露天市場でよく見かけるよ。他ではあまり見ないかも」
「露天市場か。となると、すぐには手に入らないな」
スパイスにも種類がある。露天市場のように種類を比べられるような機会がなければ厳しいだろう。
「じゃあ、玉ねぎとにんじん?」
フィリアは人差し指を上にむけ、首をかしげる。
「そうだな」
「玉ねぎとにんじんはすぐ買えると思うよ。市場通りの八百屋さんが一番安そう」
フィリアが指さす先には、人の往来が多い通りが見えていた。
「よく知っているな」
俺は冗談交じりに笑う。
「知ってないと、遠出するときに困るでしょ? ずっと乾パンや干し肉食べながら移動するの、私には耐えられないもん」
どこか誇らしげに笑うフィリア。
遠出の準備だって、決して雑にはしない。彼女のこだわりが、道中を快適にしてくれるのだろう。
「あたしは慣れてるから平気なんだけどね。フィリアはずっとあたしとパーティー組んでたから。ほら、あたしたちって食事はちゃんと作るじゃない?」
「確かにな」
実際俺も今更乾パンや干し肉に変えるのは苦しいだろう。
「だって、冒険者っていつ何が起こるかわからないんだよ。良い物食べたいって思うのは普通だと思う」
フィリアの言い分もわかる。そのために、ちゃんと調べているんだな。
ウルフ肉を焼いている分、ティアナの方が食に拘っているイメージだったけど、フィリアも意外と食通なのかもしれないな。
「よし、先に八百屋へ行くか」
脱線した話を戻し、俺たちは八百屋へと足を進めた。
日があいてしまって申し訳ございません。
ストックが残り少なくなってきて、急いで足していたところに
「あつ森アプデ」
止められるわけがありませんでした。
一応全くストック無いわけではないので、週一くらいで投稿しようと思っています。
万が一更新がされていなければ、X(旧Twitter)でつっついてくれると助かります(予約投稿していないので普通に更新忘れる)




