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#39 変わった依頼に大苦戦

 俺たちは宿屋で食堂に出す新メニューを考えていた。


「うーん、今ある食材は……」


 ティアナは考えながら視線を巡らせ、気づけば厨房の方へ歩いていた。


「お姉ちゃん、何してるの!?」


 フィリアは慌てて制止する。


「保冷用魔道具(アーティファクト)の中を見るの。だって、使える食材見ないとどうしようもないじゃん」


 だからと言って、勝手に厨房内に入るのはいかがなものか。


「入るなら一言いうのが礼儀だと思うぞ……」


 俺もしっかり釘を刺しておかないとな。


 俺たち二人でティアナを責めたのもあるのか、宿屋の女性は俺たちに怒って依頼中断を強いるようなことはしなかったのは幸いだったのかもしれない。




「すみませーん、保冷箱見てもいいですか?」


 ティアナは宿屋の女性に確認する。大丈夫だといいのだが……。


「構いませんが、触ってほしくないものがあるので、私が開けますね」


 女性は保冷箱に手をかけ、中身を見せてくれた。


「ふむふむ……。卵、野菜、パン、肉。でも何の肉かわかんないな。そして、あとは調味料と飲み物か」


 保冷箱の中を隅まで確認していると、隣にいたティアナが呟く。


「結構揃ってるわね~。これなら何でも作れそうだけど」


「食堂なんだから当たり前でしょ……」


 つい思ったことが口に出てしまった。



 * ――――――



 宿屋の女性がお客さんの部屋を掃除しに行った。俺たちはその間、食堂の椅子に座り、うんうんと考えている。


 ただ新メニューを考えるだけではなく、お客さんに「また食べたい」と思わせなくては意味が無い。


 俺はああでもないこうでもないと思考を巡らせていると、ティアナが軽く手を叩いた。


「思いついたーっ、ウルフの肉!」


 ぽんと思いついたような提案。

 確かに美味しいとは思うが、宿屋の食堂としてお客さんに出すにはワイルドすぎる。


「お姉ちゃん。美味しいとは思うんだけど、食堂で出すにはちょっと……」


 フィリアも俺と同じ気持ちだったようだ。こういうところでシンクロするのは何となく恥ずかしかったので、俺は黙ることにした。


「なんでぇ~。先輩冒険者のエドさん達も褒めてくれたじゃん」


 ティアナはぷくっと頬を膨らませる。

 が、これだけだとさすがに案としては微妙なのは確かだ。


「ティアナ、ウルフの肉が良いと思ったのって、どうしてだ」


 もしかしたら、ティアナなりの考えがあるのかもしれない。


 新しいメニューのヒントになるかもしれない物を、ワイルドすぎるという決めつけで否定するのも良くない気がしたので聞いてみると――


「そんなの、あたしがいつでも食べられるようにしたいからに決まってるじゃん!」


「結局自分が食べたいだけかい」


 反射で考えるよりも先にツッコミを入れてしまった。


「まあ、お姉ちゃんらしいよね」


 フィリアも冷ややかな目でティアナを見ていた。




 今のところ考えた新メニューは、ティアナが出したウルフの肉だけだ。


 思いつくだけありがたいが、宿屋の食堂で客にそのままそれを提供するのは難しいだろう。


 いや、待てよ。


 そのままじゃなくて、一工夫加えたら出せるんじゃないか。

 例えば、そうだな。


「ウルフの肉だけじゃなくて、野菜で彩ったらありかもしれないな」


 ニンジンの橙とコーンの黄色、それに香ばしく焼けたウルフ肉の焦げ目。見た目だけなら、かなり美味しそうに見える。


 フィリアは少し考え込むように視線を落とした。


「私もアルトくんに賛成。あと、そのままだと食べにくいから、均等にカットしてあげた方がいいかも。お店で出すとなると、服を汚したくない人もいると思うの」


 少しずつ案が煮詰まってくる。


「それなら、ステーキっぽくフォークに刺して一口で食べられるようにしよーっ」


 とんとん拍子で案をまとめる。ティアナの突拍子もない提案が、だんだんと形づいてきた。




 案をまとめているうちに、階段から足音が聞こえてきた。そこにいたのは、部屋の掃除を終えて戻ってきた宿屋の女性だった。


「すみませーん。新メニューできました」


 俺は彼女を呼び止める。


「ウルフのステーキはどうですかー?」


 ティアナがあまりにも説明を端折るので、俺が補足する。


「最初に考えたのは、ウルフの肉でした。これだと食べにくいので、一口で食べられるようにカットします。また、肉だけだと見た目が良くないので、カラフルな野菜も一緒に出します。これなら、ワイルドさと見た目の良さを両立できて、お客さんのウケも良いんじゃないかと」


 俺は3人でまとめ合ったことをプレゼンしたが、宿屋の女性は少し困ったような表情を浮かべた。


「あの、そちらは既に食堂で提供しているものですね」


 提供済だった。ここまで考えたけど、ダメだったか……。


 頭を抱える俺に、フィリアの残念そうな顔が映る。


「ほんとですか? やったーっ。今度食べさせてください」


「はい。ふふっ。ウルフのステーキ、お好きなんですね」


 落ち込む二人とぶれないティアナ。


 同じ言葉にここまでリアクションが違うのも中々ないだろう。




「ダメだったかー。いいと思ったんだけどな」


 掃除の続きをする宿屋の女性を視線で見送りながら、身体を伸ばす。


「アルトくんの自信作だったのにね」


「あたしのだよっ」


 ティアナが珍しくフィリアにツッコミを入れる。どうやら、最初に案を出したのは自分だと言うのは譲りたくないらしい。


 依頼はスタートラインに戻ったが、不思議と不快感は無く、次こそはという気持ちで燃え上がっていた。


 ――この依頼、まだ終わりじゃない。


 次は、本当に「心を動かす料理」を考えよう。



お読みいただきありがとうございます。

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